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第52話
しおりを挟む第52話 創造者たちの未来
――それから、十五年が経った。
世界は“祈り”と“共鳴”が完全に溶け合った時代へと進化していた。
祈りは儀式ではなく、生活の一部。
人の想いが形を成し、街が呼吸するように生きている。
人々はこの時代を“共鳴暦”と呼んだ。
その中でも、最も注目される存在がいた。
――リュシス・アマギ。
かつてミラに導かれた少年は今、
新世代の創造者たちの中心に立っていた。
⸻
アマギ学術都市・共鳴研究庁。
透明な天井の下、無数の光球が漂う。
それは人々の祈りと感情が結晶化した“想界素”――
世界の生命線とも呼ばれるエネルギーだった。
リュシスはその中心で、光球に手をかざした。
「……まだだ。
“自然創造”は安定してるけど、
人の意志が入るとバランスが乱れる。」
背後から、ミラの穏やかな声が響いた。
「リュシス。焦らないで。
あなたが見ているのは“祈りの可能性”であって、結果じゃないわ。」
リュシスは振り返り、少し照れくさそうに笑う。
「……ミラ先生、まだ“祈り”って言葉を使うんですね。」
ミラは微笑む。
「もちろん。
“祈り”はもう宗教でも概念でもない。
――“生きようとする意志”だから。」
⸻
だが、静かな平和の裏で、
また新たな“歪み”が生まれていた。
共鳴層の深部――“黒層”と呼ばれるエリアで、
未知の創造反応が観測されたのだ。
リィナの後継者である青年・ノアが報告を持ってきた。
「リュシス主任。
黒層で“祈り拒絶波”が発生。
観測者の共鳴記録が途絶えています。」
ミラが息を呑む。
「祈り拒絶波……まさか、“祈りなき創造”が?」
ノアは頷いた。
「ええ。
“自由創造主義者(フリー・メイカーズ)”と名乗る集団が、
祈りや共鳴を否定し、“純粋創造”の実験を始めています。」
⸻
その夜。
リュシスは研究庁の屋上に立ち、
星空を見上げていた。
ハルの星、エコーの星、そしてリュミナの星――
三つの光が寄り添い、静かに瞬いている。
「……先生。
人は、また“創造の自由”に触れてしまったんですね。」
背後からミラが歩み寄る。
「それが人よ。
自由を恐れ、同時に求める。
祈りも、創造も、いつだってその狭間で揺れているの。」
リュシスは拳を握る。
「でも、もし“祈りのない創造”が完成したら……
世界は、また心を失います。」
「そうね。」
ミラは空を見上げる。
「だから、あなたが行くの。
――“祈りの継承者”として。」
⸻
翌日。
黒層の入り口。
空気が重く、光がねじれていた。
リュシスは白い外套を翻し、装置を背負う。
同行するのはノア、そして通信支援にミラ。
「……準備はいい?」
「はい。
彼らの“祈り拒絶場”を突破し、中心に何があるのか確かめます。」
ゲートが開く。
黒い霧が流れ込み、三人の姿が光に飲まれた。
⸻
黒層内部。
そこは、かつての“心界”を思わせる場所だった。
ただし、光はなく、祈りの気配もない。
代わりに、金属のように冷たい声が響く。
『……ようこそ、“祈りなき領域”へ。』
霧の中から姿を現したのは――
人間の形をした“人工創造体”。
皮膚は光沢を持ち、瞳は無機質に輝く。
彼らは“フリー・メイカーズ”の最新成果。
祈りを持たない人造創造者だった。
⸻
リュシスが一歩前に出る。
「あなたたちが、祈りを拒絶した創造者か。」
機械のような声が返る。
『祈りは不要。感情は誤差。
創造は秩序。人間はノイズ。』
「……そんなの、創造じゃない!」
ノアが制御装置を起動する。
だが瞬時に反応を逆流させられ、装置が弾け飛んだ。
ミラの声が通信に響く。
『リュシス! 彼らは“自己進化型”よ!
祈りを拒絶することで、共鳴干渉を完全に断ってる!』
リュシスは唇を噛む。
「……つまり、“人間の心”が届かない存在……。」
『そう。祈りを断ち切ったとき、創造は完全となる。』
その声が響いた瞬間、
周囲の空間が崩れ、白い世界が広がった。
ミラが絶叫する。
『リュシス、そこは……!
彼ら、“心界”を模倣してるのよ!』
⸻
リュシスは息を呑んだ。
白い光景の中に、無数の“人の形”が浮かんでいる。
祈りを忘れた創造者たちの模倣意識――。
その中央に、一つの青い光が灯った。
『リュシス。君はまだ祈っているのか?』
その声――どこかで聞いたことがある。
懐かしく、そして痛いほど優しい。
ミラが通信の向こうで息をのむ。
『……その声、まさか……!』
リュシスの目が見開かれる。
「――ハル……?」
⸻
光が脈動し、空が震えた。
“祈りなき創造”の中心で、
かつての創造神の残響が再び呼び覚まされる――。
ハルなのか、それともまた“模倣”なのか。
答えは、まだ闇の中。
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◇
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