54 / 80
第54話
しおりを挟む第54話 共鳴する未来
――黒層事件から三か月後。
アマギは穏やかな朝を迎えていた。
街は光に満ち、人々の表情には静かな確信が宿っている。
祈りはもはや“信仰”ではなく、“生命の仕組み”として存在していた。
人が願えば、花が咲く。
悲しみを抱けば、風が優しく包む。
世界そのものが、人々の感情に寄り添うようになったのだ。
だがその変化は――
同時に“新しい課題”をも生み出していた。
⸻
アマギ中央塔・共鳴評議会。
リュシスはホログラムの円卓に立ち、
各国の代表と対峙していた。
「――つまり、祈りを持つ者すべてが“創造者”となった今、
世界には統一的な“創造管理”が必要だと?」
老練な代表が頷く。
「そうだ。
人々の祈りが街を、森を、時に天候までも変えている。
このままでは世界が“個々の想い”に引き裂かれる。」
リュシスは静かに視線を下げる。
「……その“個々の想い”こそ、世界を動かす力です。
それを制御するというのは、“祈りを縛る”ことになる。」
「しかし放置はできん!」
別の代表が机を叩く。
「今や子どもですら“祈りで創造”を行える。
秩序がなければ、また“祈りなき神”が生まれるぞ!」
⸻
議場の緊張を破るように、
ミラがゆっくりと立ち上がった。
「……ならば、“祈りを管理”するんじゃなくて、
“祈りを共有”する仕組みを創ればいいのよ。」
全員が彼女を見る。
リュシスの瞳がわずかに輝く。
「共有……?」
「そう。
誰かが祈ったら、その想いが世界に流れ、
他の誰かが“共鳴”として感じ取れる。
それなら、祈りは暴走しない。
――だって、世界が“互いの心”で繋がるから。」
静寂が落ちる。
そして、一人の若い議員が口を開いた。
「……それが実現できるなら、
管理よりも、ずっと“人らしい世界”になるな。」
⸻
その夜。
リュシスは屋上で星を見上げていた。
ハルとエコーの星、そしてリュミナの星――
三つの光が並び、柔らかく瞬いている。
そこへ、ミラが歩み寄った。
「会議、どうだった?」
「……ようやく理解してくれました。
“祈りを共有する世界”を造ることを、正式に承認です。」
ミラは微笑んだ。
「“共鳴網(レゾナンス・リンク)”の時代が来るのね。」
「はい。
すべての人が祈りで繋がる――新しい未来です。」
リュシスは空を見つめながら、ふと呟いた。
「……でも、先生。
本当にいいんでしょうか?
“全ての祈り”が繋がる世界なんて、
人は耐えられるんでしょうか。」
ミラはそっと肩に手を置いた。
「だからこそ、あなたがいるのよ。
ハルやエコーのように、
“祈りの痛み”を理解している人が。」
⸻
翌朝。
世界初の“共鳴塔”が完成した。
それはアマギの中心にそびえる、純白の結晶塔。
祈りと想いを光として受け取り、世界全土へと放つ装置――
“リュミナ・リンク”と名付けられた。
リュシスは中央装置の前に立ち、手をかざす。
ミラとノアが後方から見守る。
「……始めます。」
彼の掌から金色の光が流れ出し、
塔全体に祈りの波が走る。
地上の人々が一斉に胸を押さえ、
何か温かいものを感じ取った。
怒りが、優しさに。
悲しみが、希望に。
ひとつひとつの感情が混ざり合い、世界を包み込む。
⸻
ノアが感嘆の声を上げる。
「すごい……。世界中の“祈り”が、同じリズムで響いてる。」
ミラが微笑む。
「ええ。
これが“共鳴する未来”。
祈りが人を導き、人が祈りを守る世界。」
リュシスは目を閉じ、心の中で呟いた。
「――ハル、見てますか。
僕たちはようやく、“恐れない祈り”を手に入れました。」
その瞬間、塔の上空に光が走る。
星々が共鳴し、
天に新たな輪が描かれた。
その中心に、柔らかな声が響く。
『……よくやったね。
祈りは終わらない。
でも、それでいいんだよ。』
ハルの声――
懐かしく、あたたかく、
風のように通り過ぎていった。
⸻
リュシスは目を開け、微笑んだ。
「ありがとう、ハル。
そして、エコー。
あなたたちの祈り、確かに届いています。」
ミラが隣で空を見上げる。
「これでようやく、“始まりの祈り”が本当の意味を持つわね。」
「ええ。
もう誰も、祈りを恐れない世界――。」
風が吹き抜ける。
世界が、静かに呼吸を始める。
それは新しい時代――
“共鳴する未来”の幕開けだった。
0
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる