ファイナルトリック

黒崎伸一郎

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マジックショー当日

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TV 人気番組<マジックで世界を取れ>は前回まで土曜日の夜七時からの二時間番組だった。
だが今回はラストのケントのマジックショーの設定が飛行機からのダイビングがメインの為、日曜の昼間の一時からの三時間スペシャルに変更された。
一人のマジックの為に番組の時間帯まで変えてしまったケントのマジックショーにはNNNテレビの局の社運を賭けた勝負の番組だった。
まさか飛行機から檻を落とすのに空が真っ暗になった上空からカメラを回すなどできない。
というか暗すぎて上空からカメラを回しても見えないのだ。
ケントのマジックショーだけの為に時間帯まで変えているのだからケントのショーを失敗させることは岡島にとっても絶対にできなかった。
その為朝一番で民間からビジョン・ジェットを借りて、重さ五十キロ以上もある鍵付きの檻も全て揃えて準備万端で迎えた。
今午前八時前、九時には番組の出演者全員が揃う時間だ。
「漸くここまできましたね…!ディレクター!。私たちも興奮してきました。」
新しくADになった小森が岡島に向かって武者震いしながら語りかけた。
「おい、おい…!小森も震えてるのか?
僕なんてリハーサルの時からずっと震えが止まらなくて今は心臓の音が自分でも聞こえるくらいだよ…」
「そうですよね。ディレクターはリハーサルから震えてらっしゃったのがすごくわかりましたよ。緊張してましたからね!」
「そうなんだよ。ケントさんのいないリハーサルでもそれだから本番はもうどうなるか検討もつかない!」
そう言いながらマジックショーに出演するメンバーが集まるをじっと見つめていた。
メインのケントはまだ来ていない。
ケントも九時には来る予定だった。
「あと一時間ですね…。全員の集合時間まで…」
もう一人のADが首をぐるぐる回しながら近寄ってきた。
「首、どうしたんだ?」
岡島も首を回し始めた。
「いやぁ、昨夜なかなか眠れなくて枕の位置変えてばかりいたんで首から痛くて痛くて…」
「君もか…? 僕も首痛いんだよ。
よし!今日大成功したら君達全員マッサージに連れて行ってあげるよ。
もちろん僕のポケットマネーで…!」
「エ~ッ!やった~!」
スタッフ全員が声を出した。
アルバイトも入れると十人以上である。
岡島の言葉でスタッフは全員やる気を増した。
その言葉は魔法の言葉のようだった。
(まさにこれがマジックだな…)
岡島はマジックとは人を動かすんだということを改めて感じていた。
ケントと話をした時に「マジックで人の心を驚かし和ませたい」と言ってたことを思い出した。
やはりケントは一流のマジシャンなんだ。
今日のショーは全てケントにかかっている。改めてそう感じざるを得ない岡島だった。
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