詐欺る

黒崎伸一郎

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詐欺メンバー

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詐欺のメンバーを集めるため私は本田浩司と会った。
競馬場で出会ってメンバーに入れた男である。
浩司は来週に病院の初診に行く予定である。
「海人さん、今二十万円借りてますが来週なんとかして入院するんでもう二十万円貸してくださいよ」
「仕方ないな!でもちゃんとマニュアル通りに初診を受けて入院可能ならその日に入院しろよ」
そう言ってコンビニへ行きキャッシュコーナーから二十万円引き出して浩司に渡した。
今日は夕方「入りたい奴がいるんで話してもらえますか?」と浩司が人を連れてくる予定だった。
私は浩司と居酒屋でその男の来るのを待っていた。
「初めまして、細川と言います」
年は浩司と同じで同じ派遣社員だった。「萩原って言うんでよろしくな。
まあ一杯飲もう」そう言って生ビールを頼み、とりあえず乾杯した。
「話は少しは聞いてると思うけど、金だけは必ず渡すからそこだけは心配しなくていい」と話すと「僕も来週から入院するから、どんな感じか電話で教えるよ」と浩司も話を合わせるように話した。
「精神病院って、昔は古くて頭のおかしな人ばかりいるイメージあったけど、今は建物も綺麗で個室だし外出もできるから心配することはないよ」
と私は言った。
だが、初めて入院する人は心配するなと言う方が無理な話である。
「ただ最初の二週間は外出しないで欲しいんだ。入院したばかりで外出してたらマークされるだろ?」
私は自分も最初の三日は外出していなかったが、それからは外出しまくていた。それは私だから許されたことである。
金をもらってやるのだから仕事のつもりでちゃんと真面目に入院はしてもらわねばならなかった。
真面目とは院内の規則を守る事である。
でも、最初からマニュアルとかの話はしない。
とにかくまず顔を見て物腰が柔らかいように話さないといけない。
詐欺をするのだからあまりプレッシャーをかけないように心がけた。
細川は浩司と同様に、派遣の仕事はきつい割にはお金にならないと思い、一括で百二十万の話に食いついてきたのだった。「もちろん入院前には前金二十もらったよ」と私から受け取った二十万円をポケットから出し細川に見せた。
「病院内も個室でテレビとトイレはあるし、風呂も大風呂で毎日朝十時からたっぷり三十分一人で入れるらしいぞ。
海人さんもこの前まで入院してたからよく知っているんだ」
浩司は金を受け取ったせいか、少し飲んだからなのかわからないが、私が話した事をさも自分が何度も入院したかのように話続けた。
それは全て私が浩司に話したことだった。
入院して退院しても半年経てば入院可能なことも浩司は話した。
居酒屋に一時間半ほどいてアルコール五杯づつ飲んだ頃に今度は三人で歌でも歌いに行こう…と言って別れた。
別れた後、二人は明日仕事が早いのにもかかわらず浩司の奢りで飲みに行った。
(細川は確実にメンバーに入るな!)と確信して徐々にメンバーを増やしていくのを急いだ。
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