詐欺る

黒崎伸一郎

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本当の気持ち

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直美は綺麗だった。
今まで見た誰よりも…。
でも私は思う。
私は人間として何か欠けているのか?と。答えは出ている。
欠けているのだろう。
もうそれでいいんだ。
私は直美を見ながらそう思った。
「何一人で、ニヤニヤしてんの?」直美は私に顔を近づけながら聞いてきた。「それを直美に言ってもわかんないよ!」
私は本当のことをを言ったつもりだったが(本当も嘘もなかったんだ!)
と思い出しし頷いた。
「変なの!」直美は何考えてるのかわからないという表情で私に言った。
(わかる訳はない、私でさえわからないのだから)
今まで何度も思ってきた。
これから直美だけ見れる私でありたい。それが私の本当の気持ち、いや本当かどうかはわからない、今の気持ちだった。

私たちはボーリングに行った。
直美が行ってみたいと言ったからだった。
直美はテレビで見たことはあってもやるのは初めてだと言った。
確かに最初は少しぎこちなかったが、初めてには見えなかった。
私は小学生の頃から何度も友達を連れてボーリングに行って遊んでいた。
大体私が奢っていたので、いつも誰かついてきて遊んでいたのだ。
私も結構上手い方だが、直美の運動神経の良さはすぐに分かった。
一ゲーム目はスコアは私が百六十。直美は百三十五。
「悔しい!もう一ゲームいい?」
直美は私に負けたのを少し悔しがり、もう一ゲームすることにした。
最初から二ゲームはするだろうと思ってたので「よし!でも手加減はしないぞ」と笑って二ゲーム目に入った。
すると直美は人が変わったようなフォームでストライクを取っていく。
私もなんとか負けないように投げる。
私の投げ方や近くの上手い人のフォームを見て投げる直美は二ゲーム目では百七十のスコアを出した。
私は直美のうまさに見惚れながらも一ゲーム目よりいい百七十五を出してなんとか面目は保った。
「あー負けちゃった」悔しがるフリはしたが最後は直美が力を抜いて私にわざと負けたような気がした。
本気を出していれば十はスコアは違っていただろう。
それは直美の優しさに違いなかった。
それよりも直美の運動神経の良さは群を抜いていた。
特に目を引いたのは二ゲーム目のスコアではなくフォームだった。
一ゲーム目は四歩で投げていたのを二ゲーム目から五歩に変えたことでリズムもスムーズになりスコアも伸びたのだった。
「プロになれるんじゃないか!」と言おうとしたがありきたりの言い方なので言うのをやめた。
別に直美はそんなつもりも毛頭ないのだろうから…。
ボーリング場から寿司屋に行くことにした。
直美は寿司が好きだった。
前回行ったところは予約が取れなくて別の店に行った。
カウンターが狭くて何人か並んでいた。「すみません、予約した黒崎です」
そう言って中に入った。
カウンターはこの前の寿司屋より少し狭く少し窮屈な感じもしたが角の二席を取っていてくれてたのでそこに座った。「とりあえず生二つ」私は直美に飲み物は何を飲むのかを聞かずに自分の飲みたかった生を直美も飲むと思って頼んだのだった。
直美は私の顔の前に自分の顔を持ってきて「なんで私が今日は生ビール飲みたいのわかったの?」と聞いた。
そんなのわかる訳がない。
ビールを飲んだのも見たことがないし、ビールが好きかどうかも知らなかった。
ただ今日は天気も良く少し暑かった。
それにボーリングした後で喉が渇いていたから頼んだのだった。
まあ喉が渇いたのは直美も一緒だろうから一杯目は生でいいかと思っただけだった。
「もう烏龍茶からじゃなく生からに格上げか…」直美は少し小さな声で自分に言い聞かせるように呟いた。
寿司屋は少し狭かったが物は美味かった。
さすがに並んでいただけはあった。
直美はウニが好きらしかったがウニは高いのでウニばかり頼むことはせずに他の安いのを選んでいた。
私はウニが好きならウニを頼めと言いそうになったが直美は直美なりに考えてくれているんだ。
それはそれでいいんじゃないかと思って私は自分でウニを六巻頼んだ。
「そんなにウニ好きだっけ?」と聞いてきた。
私はそれには答えずビールをお代わりした。
直美は私が聞いてないのか無視をしてるのかどちらかだと思ったのだろう。
「ねぇ!聞いてる?」と私に聞き直した。
私は何も言わずにカウンターにきたウニを直美の前にずらして置いた。
直美は少し間を置いて「なんで私の好きな物がわかっちゃうのかな?」と首を傾けたがすぐに私を見て微笑んだ後ウニを全部食べた。
(全部食べたらすこし、しつこいかな?)とも思ったが好きなものを食べている直美の顔を見るのが嬉しかった。
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