詐欺る

黒崎伸一郎

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あるのは事実だけ

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直美は大学を辞めてジムに勤め出した。あの日から何かが吹っ切れたかのように直美名義のマンションに泊まりに来る。お母さんにはちゃんとしんちゃんのところに泊まると言ってる…とのことだったが、それはそれで親は落ち着かないだろうが…。
私はもう直美に気兼ねなく携帯を取って話ができる。
黒崎という名も直美の母親の前以外は今は使わない。
直美は相変わらず「しんちゃん」だが別にそれはそれでいい。
詐欺師と知ってからはどんな詐欺かと聞いたことはあるが保険金詐欺だと言ったら「捕まらないでね」とだけ言ってきたので「捕まっても直美は知らないことにするからそれだけはわかってくれ!」と頼んだ。
直美はそれには答えず「行ってきます」と仕事に行った。

私も今日から一村のメンバーが初診のため、病院に行くので私もそいつの近くで監視する必要があって病院に行くことになっている。
病院に着くと一村のメンバーが先に来ていた。
三人を入院させる予定だったが個室は二つしか空きがないため一人は病院からの個室の空きを待っての入院とした。
二人には外出は最初の二週間は禁止、二週間後は週に二度の外出を許可し外泊は入院の間は、なしとした。
私のメンバーの入院とは少し制限がきついが個室で院内の規制も軽い為、一村は「大丈夫、こいつらは仕事やから」と言った。
仕事とは仕事のつもりで入院するとの意味である。
私はそれに頷き一村と病院を出た。
私と一村は食事に出掛けた。
寿司屋に行きこれからの付き合いを話し、お互いいい詐欺があれば連絡するとのことで別れた。
もちろん金はこちらの街にきているので私が払った。
一村と入院の連絡待ちのメンバーは大阪から少し大きめのワゴン車で来ていて、今日は一人ずつホテルに泊まるが明日はメンバーが運転して大阪に帰るとのことだった。
一村はメンバーにきつく絶対的頭、と格付けしていたが、私は今のメンバーをそこまでして縛るつもりはなかったし、そんなことをしていたらメンバーが逃げてしまう可能性が高いので割と自由にさせていたのだった。
自由と言ってもマニュアル通りにはしてもらわないと他のメンバーの手前もあるので一応は厳しく言っておくのだった。メンバーといっても半端者の寄せ集めだから違反する奴も必ず出てくる。
どのような違反をするかは人によって違うが院内で女のことで揉める奴、帰りの時間を守らない奴、勝手に外泊をする奴、そういう奴は分かった時点ですぐに注意し、もし問題があって保険会社からの給付金が出なかったら金は出せないと最初から念を押しているのだった。
私はメンバーには私とお前はファミリーだから、なんかあったら相談してこいと何時も言っていた。
もちろん入院してお金を詐欺ってくるのだから、飯はもちろん飲みにも月に何度か連れて行く。
だから今は私のメンバーは私を裏切ることはないと私は思う。
ただ、必ず裏切る奴は出てくる。
それは私が詐欺師であり、そいつも詐欺師だからだ。
詐欺って詐欺られる。
この世界に本当のことなどあるわけがない。
あるのは事実だけである。
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