じいちゃんの秘蔵品

紀之介

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面白いもの

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「じいちゃんの秘蔵品…見せてあげるね」

 部屋に戻って来た霜月さんは、木箱を抱えていました。

「…何か、面白いもの?」

  パラパラと雑誌を捲っていた如月さんが顔を上げます。

 持って来た箱を、自室のテーブルの上に置く霜月さん。蓋が開かれた箱の中には、掌に乗る程度の大きさの赤青2色の箱が入っていました。

「…えらく綺麗な箱だね」

 赤い革の張られた箱に、如月さんは手を伸ばします。

「アンテークの…懐中時計?」

 開かれた箱を、霜月さんも覗き込みました。

「それ、…呪われた時計だったりするんだけどね」

「…え?」

 顔を上げた如月さんに、霜月さんが笑顔を見せます。

「触ると呪われる系じゃないから…大丈夫だよ」

「─ 呪いの内容を聞かないと、安心できないんだけど」

 霜月さんは、如月さんの手から 箱を受け取りました。

「この時計に掛けられているのは、時間が正確に5分遅れる呪い」

「…は?」

 呪いの小ぢんまりさに、如月さんは意表を突かれます。

「必ず遅れるって判ってるなら…5分早めれば良いんじゃないかな。」

「ちゃんと時間を合わせても…1時間以内に やっぱり遅れるんだよ…きっちり5分」

 如月さんは、思わず時計を凝視しました。

「…呪いを掛けた人、間違ってるよね。力の使い方」

「すごい力を、後ろ向きに使ってこそ…呪いだからねぇ」

 時計の箱を、ゆっくりと閉める霜月さん。乾いた笑いが、如月さんから漏れます。

「呪いの…美学?」

 今度は青い革の箱を手にした霜月さんに、如月さんは確認しました。

「これにも、呪いが掛けられてるの?」

 霜月さんが頷きます。

「こっちの時計に掛けられているのは、1日に2回しか時刻が合わない呪い」

 箱を開いた霜月さんは、中の懐中時計を如月さんに見せます。

「は?」

 時計の針は、10時10分で止まっている様です。

「1日2回でも、正確な時刻が判るだけ、こっちの方が優秀だって、じいちゃんは言ってるけどねぇ…」

 平然と説明する霜月さんに、如月さんは戸惑いました。

「その時計が、今指してる時間が正しいかどうかって…」

 自分が間違っている様な気がして、如月さんは不安になります。

「─ 他に時計がないと、確認出来ないと思うんだけど。。。」

 霜月さんは、おっとりと微笑みました。

「じいちゃんの様に長生きしたいなら…そんな些細な事を気にしちゃ いけないねぇ。」
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