まほう

紀之介

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聞いてくれるよね!?

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「姉さま!」

 玄関のドアを開けた水無月さんに、綾さんが縋り付きます。

「私のお願い、聞いてくれるよね!?」

----------

「明日1日で、4教科も あるんだよ!」

 先に居間に入った綾さんは、床に大荷物を降ろすと、乱暴にソファに身を預けました。

「でも、一夜漬けでは…そんなに覚えられないし…」

「─ で、分身の魔法を 掛けてもらいに来た訳?」

 向かいの席に移動する水無月さんに、大きく頷いてみせる綾さん。

「手分けして2教科づつ勉強すれば、何とか出来ると思うんだ。」

 勢いを付けて上半身を起こし、身を乗り出します。

「そういう魔法…あるんでしょ?」

 水無月さんは、綾さんに視線を向けたまま、ソファーに腰を降ろしました。

「分身は、何処で勉強するの?」

「─ 姉さまの家!」

「…登校は?」

「2人一緒だと変に思われるから…早朝にでもバラバラに行って、片方は出番まで 何処かに隠れる。」

「綾の学校、制服だったよね?」

「予備のを、持って来てる!!」

 綾さんが幾分得意げに、足元の荷物を指し示します。

 しばらくの沈黙。

 ゆっくりと姿勢を変えた水無月さんが、綾さん耳に口を近づけます。

「用が済んだ分身には…消えてもらうのが理。」

「?」

「分身は、魔法で本人を完全にコピーしたもの…」

 戸惑いの表情を浮かべる綾さんに、水無月さんは淡々と話し続けました。

「─ オリジナルと分身の…見分けは付かない」

「…え?」

「自分が、消されてしまう可能性もあるけど…良い?」

 体を前に乗り出すために、半ば浮いていた綾さんのお尻が、ソファーに落ちます。

「ぶ、分身の魔法の前に…ど、何処かに印を付けても?」

「印を付けた状態で…完全コピーされるから、意味がない」

「じゃ、じゃあ…あ、合言葉を決めておくとか!」

「記憶も完全コピーされるから、分身の方も、当然知ってる。」

 綾さんの体は、ソファーの奥にジリジリと後退しました。

「どちらが消えるかは…遺恨を残さない様に、当事者同士に決めて貰う」

「ど…どうやって?」

「─ 話し合い。それで決着が付かない時は…ジャンケンなり、くじ引きなりで。」

 背中をソファーの背に張り付けた綾さんに、水無月さんが顔を近づけます。

「で、どうする?」

「1人で4科目分…試験勉強する。。。」

----------

 渋い顔で、玄関に向かう綾さん。

 見送りに立った水無月さんは、その耳元で囁きました。

「…試験が終わったら<カフェ敦賀>」

「え!? ホント?」

 頷いた水無月さんに、綾さんが笑顔で抱き付きます。

「だったら…ケーキセットを楽しみに、勉強 頑張る♡」
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