1 / 1
episode.1
しおりを挟む
今年の蝉は特にうるさい。
公園の遊具の上で寝そべっているとそれは都会の喧騒のように聞こえて来る。
夏休み残り 20日
君島太一は憂いていた、高校に進学し友達もでき、これから楽しい夏休み!という時に仲良くなった友達は全員海外旅行。これから残りの夏休みをどう過ごしていいか分からずただただ流れる入道雲を眺めていた。
「あぁ~!こんなところにいた!」
視線を落とすとそこには幼馴染の追分夢がいた。なにやら不機嫌そうな彼女の顔に唾を飲んだ。
「聞いてよ太一!夏休みだって言うのに暑いからとか日焼けするからとか言って誰も予定つかないのよ!」
どうやら彼女も同じ理由らしい。
太陽が真上に来て蝉が一層騒がしくなった時、嫌な予感は的中してしまった。
「よぉし!太一出掛けるわよ!夏の思い出探しにいきましょ!」
この無駄に明るくて無駄に積極的な性格が昔から得意じゃなかった、嫌いではないけど....。
まずは買い物でしょ!と彼女が言い出したので2人は駅前にあるショッピングパークに向かうことにした、道中この先の夏休みはどうするか、次の学期の授業のことなど他愛のない話をしていた。駅が見えてきたところで
「わぁ!シェイブアイス!太一、あれ食べよ!私マンゴーのやつね!よろしく!」
目的地よりも先に彼女の目にはワゴン販売しているアイスが目に入ったらしい。
やれやれと首を振りながらもはしゃいでいる彼女の無邪気さを無下にはできないと買いに向かうことにした。
ワゴンの手前までくると小さな路地が横にあることに気がついた。
「あれ、こんなところに道なんかあったかな?」
見慣れないその道は日陰になっていてヒンヤリと冷たい空気が漂っていた。どこか不気味な道ではあるが不思議と恐怖心は無かった。
ふとその道の奥を見ると小さな灯りが見えた、なんだろうと目を凝らしていると
「ねぇなにここ!こんなところに道なんかあったっけ?アイスよりヒンヤリしてそうだし面白そう!」
彼女は目をキラキラと輝かせながら路地へと入っていった。
路地をどんどん奥まで進む彼女の後ろ髪は期待でスキップをしていた。
突き当たりまで来たところで小さな灯りの正体がわかった。そこにあったのは古びた古屋だった。看板もなければ名前も書いていない、ただ入り口のドアには「Open」の文字だけが掛けられていた。
「ここ入ってみよっか!」
満面の笑みの彼女、ここにきて気づいたが周りの音が全くしない。ここは確か駅から100mも離れていない場所のはず、環境音が何もしないのは明らかにおかしい。
顔を顰めていると彼女に腕を掴まれそのまま入店してしまった。
中に入ってまず目に入ったのは棚にいくつも並べられている木の人形だった。
見られているような不気味な感覚に襲われて思わず後退りしてしまった。そんなことはお構いなしに彼女はキラキラとした眼差しのまま店中を見ている。すると
「何かお探しですかな?」
ゾッとし振り返るとフードを目まで被った小柄な男性が立っていた。その風貌に思わず声をあげそうになったがぐっと我慢して店主であろうその男性に問いかけた。
「こ、こんなところにお店なんてあったんですね、初めて見ましたよ。ここってなにを売って………!?」
辺りに目線を一瞬外しただけなのについ先ほど目の前にいた男性が消えていた。
怖くなり彼女を呼び早くここを出ようと提案したがあっさり断られてしまった。
「さっきから何にそんなビクビクしてるの?店主さんならあそこのカウンターにいるじゃん!」
木の人形で見えなかったが店の奥にはレジらしきカウンターがあり、そこには先程のフードの男性が腰掛けていた。確かに目の前にいた店主はカウンターの中にいたのだ。
店主はゆっくりと腰を上げると
「何か気に入ったものはありましたかな?」
フードの下に見える口元は優しく微笑んでいた。
2人で顔を見合わせていると
「まだ決まっていないのであれば奥に私のオススメがありますので……どうぞこちらに…」
店主はカウンターの奥にあるカーテンをめくり手招きをしてきた。
まだ奥があったのかと彼女がワクワクした目をしていることは顔を見なくてもわかった。
カーテンをくぐり奥に行くとそこは4畳ほどの小さな部屋で、そこにはブリキ時計が5つ並んでいた。
「わぁ可愛い!ブリキ時計!」
部屋の真ん中にあるブリキ時計は時計というにはあまりにも大きいもので、とても精巧な作りをしていた。
「すごいなこれ、外国の街並みと時計台?を作ったってことか。」
そのリアルな作りに2人は自然と引き込まれていった。
すると店主は嬉しそうに
「どうです、よく出来ているでしょう?本当に生きているみたいに…」
その言葉にどこか違和感を覚えた。
「さぁもっとよく見てみてください!どうぞ覗き込んで!」
そこまで言うならと2人でブリキ時計を覗き込んだ。車や人が精巧に作られて動いている、本当に生きているみたいだ…
その時だった。
シューっという音と共にブリキ時計の台座から白い煙が吹き出してきた。
「なんだこれ!おい夢!大丈夫か!」
「大丈夫だけどなによこれ!」
視界はすぐに真っ白になり何も見えなくなった、それと同時に床が抜ける感覚に襲われ2人はどこかに落下していった。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ
どのくらい時間が経っただろう短くても5分は落下し続けた。
突然やわらかい感覚が足元に走るとようやく地面に足がついた。
まだ白く煙っていて周りは見えない。
いったいここはどこなのだろう。
だんだんと晴れていく煙の隙間から先ほどまでいた店内ではないのは明らかだったが、目の前に現れたのは想像を超えた光景だった。
公園の遊具の上で寝そべっているとそれは都会の喧騒のように聞こえて来る。
夏休み残り 20日
君島太一は憂いていた、高校に進学し友達もでき、これから楽しい夏休み!という時に仲良くなった友達は全員海外旅行。これから残りの夏休みをどう過ごしていいか分からずただただ流れる入道雲を眺めていた。
「あぁ~!こんなところにいた!」
視線を落とすとそこには幼馴染の追分夢がいた。なにやら不機嫌そうな彼女の顔に唾を飲んだ。
「聞いてよ太一!夏休みだって言うのに暑いからとか日焼けするからとか言って誰も予定つかないのよ!」
どうやら彼女も同じ理由らしい。
太陽が真上に来て蝉が一層騒がしくなった時、嫌な予感は的中してしまった。
「よぉし!太一出掛けるわよ!夏の思い出探しにいきましょ!」
この無駄に明るくて無駄に積極的な性格が昔から得意じゃなかった、嫌いではないけど....。
まずは買い物でしょ!と彼女が言い出したので2人は駅前にあるショッピングパークに向かうことにした、道中この先の夏休みはどうするか、次の学期の授業のことなど他愛のない話をしていた。駅が見えてきたところで
「わぁ!シェイブアイス!太一、あれ食べよ!私マンゴーのやつね!よろしく!」
目的地よりも先に彼女の目にはワゴン販売しているアイスが目に入ったらしい。
やれやれと首を振りながらもはしゃいでいる彼女の無邪気さを無下にはできないと買いに向かうことにした。
ワゴンの手前までくると小さな路地が横にあることに気がついた。
「あれ、こんなところに道なんかあったかな?」
見慣れないその道は日陰になっていてヒンヤリと冷たい空気が漂っていた。どこか不気味な道ではあるが不思議と恐怖心は無かった。
ふとその道の奥を見ると小さな灯りが見えた、なんだろうと目を凝らしていると
「ねぇなにここ!こんなところに道なんかあったっけ?アイスよりヒンヤリしてそうだし面白そう!」
彼女は目をキラキラと輝かせながら路地へと入っていった。
路地をどんどん奥まで進む彼女の後ろ髪は期待でスキップをしていた。
突き当たりまで来たところで小さな灯りの正体がわかった。そこにあったのは古びた古屋だった。看板もなければ名前も書いていない、ただ入り口のドアには「Open」の文字だけが掛けられていた。
「ここ入ってみよっか!」
満面の笑みの彼女、ここにきて気づいたが周りの音が全くしない。ここは確か駅から100mも離れていない場所のはず、環境音が何もしないのは明らかにおかしい。
顔を顰めていると彼女に腕を掴まれそのまま入店してしまった。
中に入ってまず目に入ったのは棚にいくつも並べられている木の人形だった。
見られているような不気味な感覚に襲われて思わず後退りしてしまった。そんなことはお構いなしに彼女はキラキラとした眼差しのまま店中を見ている。すると
「何かお探しですかな?」
ゾッとし振り返るとフードを目まで被った小柄な男性が立っていた。その風貌に思わず声をあげそうになったがぐっと我慢して店主であろうその男性に問いかけた。
「こ、こんなところにお店なんてあったんですね、初めて見ましたよ。ここってなにを売って………!?」
辺りに目線を一瞬外しただけなのについ先ほど目の前にいた男性が消えていた。
怖くなり彼女を呼び早くここを出ようと提案したがあっさり断られてしまった。
「さっきから何にそんなビクビクしてるの?店主さんならあそこのカウンターにいるじゃん!」
木の人形で見えなかったが店の奥にはレジらしきカウンターがあり、そこには先程のフードの男性が腰掛けていた。確かに目の前にいた店主はカウンターの中にいたのだ。
店主はゆっくりと腰を上げると
「何か気に入ったものはありましたかな?」
フードの下に見える口元は優しく微笑んでいた。
2人で顔を見合わせていると
「まだ決まっていないのであれば奥に私のオススメがありますので……どうぞこちらに…」
店主はカウンターの奥にあるカーテンをめくり手招きをしてきた。
まだ奥があったのかと彼女がワクワクした目をしていることは顔を見なくてもわかった。
カーテンをくぐり奥に行くとそこは4畳ほどの小さな部屋で、そこにはブリキ時計が5つ並んでいた。
「わぁ可愛い!ブリキ時計!」
部屋の真ん中にあるブリキ時計は時計というにはあまりにも大きいもので、とても精巧な作りをしていた。
「すごいなこれ、外国の街並みと時計台?を作ったってことか。」
そのリアルな作りに2人は自然と引き込まれていった。
すると店主は嬉しそうに
「どうです、よく出来ているでしょう?本当に生きているみたいに…」
その言葉にどこか違和感を覚えた。
「さぁもっとよく見てみてください!どうぞ覗き込んで!」
そこまで言うならと2人でブリキ時計を覗き込んだ。車や人が精巧に作られて動いている、本当に生きているみたいだ…
その時だった。
シューっという音と共にブリキ時計の台座から白い煙が吹き出してきた。
「なんだこれ!おい夢!大丈夫か!」
「大丈夫だけどなによこれ!」
視界はすぐに真っ白になり何も見えなくなった、それと同時に床が抜ける感覚に襲われ2人はどこかに落下していった。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ
どのくらい時間が経っただろう短くても5分は落下し続けた。
突然やわらかい感覚が足元に走るとようやく地面に足がついた。
まだ白く煙っていて周りは見えない。
いったいここはどこなのだろう。
だんだんと晴れていく煙の隙間から先ほどまでいた店内ではないのは明らかだったが、目の前に現れたのは想像を超えた光景だった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる