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波紋

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「私なにかマズイこと言いました?」

鈴原は真っ青な顔をこちらに向けている。

鈴原は事情を知っているといっても大倉からの人づてで、俺が真由にまだ自分の気持ちを伝えていないということは知らない。

そして、いくらお金のためとはいえ女は好きでもない相手と結婚はできないという考えを持っていて、つまりは俺達もうまくいって結婚したと思っている。


「専務?」

「なんでもないよ。
ありがとう、これでハッキリした」

真由の中に俺がこれっぽっちもいないこと、この気持ちが真由にとってはただ迷惑なものだということ。


精一杯の作り笑顔で笑うと、鈴原は安心したように仕事に戻っていった。


ハァ。

思わずため息がこぼれる。


目を閉じると浮かぶのは無表情で家事をこなす真由。

俺は真由に笑顔を与えられない。

それでも君を手放してやれない俺を許して。


せめて、与えられた役割だけはしっかりとこなすから――。




そう決意したばかりだったのに。
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