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自覚

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「ありえらい!
そんらの絶対にありえらい!!」

『誰か』に辿り着いたみたいだ。


「なんでありえないんだよ?」


冷静な俺とは対象的に、大倉はベロンベロンになりながらも興奮気味に話す。

「らっれ、別に特別可愛いわけれもらいし、第一オレに興味のらい女られ!?
オレにはもっと可愛くて、簡単に手に入る女がいる。
今までずっとそうらったんら。
なのに、なんれわざわざあんな面倒な女なんか…」


それまで静かに聞いていた俺は、そこで口を開く。


「だから、初恋なんだろ?
…お前の」


大倉は目をパチクリさせて俺を見た。

「はぁ!?」

またありえないと笑いながら、今度は焼酎に手を伸ばす。


往生際の悪い奴。


こうなったらしょうがない。

ちょっと強引だが。


「じゃあ、俺もらってもいい?鈴原のこと」

「何言って」

大倉の顔からはさっきまでの笑みが消えた。
鈴原って言ったのも否定しないし。


「俺達、もともとつきあってたんだ。
真由は手に入らないし、こうなったらまた鈴原でもいいかなって」


ガシャーン!!


「ふざけんな!!
明ちゃんを身代わりにしようってのか!?」

大倉は持っていた焼酎を床に落として、ふらつきながらもすごい形相で掴みかかってきた。


「…認めたら?」


大倉はハッと我に返ったようで、胸倉を掴んでいた手を離した。


「はは…そうか、これが恋か」


やっと自覚したみたいだ。


「あは」

「?」

「あはははははははは」

突然大倉が狂ったように笑い出した。

気でも触れたか。

俺は異様な光景に少し後ずさりした。


「そうか、そうか~!
これが俺の初恋かぁ~!
めれたいな!な、有原、飲め!!」

そう言うと俺のグラスにドボドボと持っていた焼酎をつぎ足す。


明日、ちゃんと記憶あるんだろうな…?

一抹の不安を抱えつつ、潰れて一升瓶を抱えて眠る大倉にブランケットをかけてやった。

慣れているようで恋愛初心者の大倉。


これからが大変だぞ?

俺は少し笑みを浮かべながら大倉の注いだ酒を一気に飲み干した。
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