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アメさえあれば

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浮かぶのは最後に見た悲しそうな顔。
あれ以来幸から連絡はきていない。

ここで連絡なんかしたら、なんだか俺のほうが幸を必要としているみたいじゃないか?


『自分から切ったのに…譲ちゃん、やっぱりあたしのことが必要なんだ?』


幻聴が聞こえた気がした。

「くそっ」

俺はケータイの電源を切り、戸棚からカップラーメンを取り出し、お湯を注いだ。


別に幸やユリがいなくたって、俺は困らない。


お湯を入れたばかりのカップラーメンのフタを剥いで、まだ硬い麺を啜る。


俺にはアメがある。
これさえあれば、俺は困ることはないんだ!!


ラーメンを食べ終え、今度は乱暴にアメの包みを剥がし口へと放り込む。


「一生困らないだけの金が欲しい!」


アメを口に含んでいることさえ煩わしくなった俺は、ガリガリと噛み砕きながら願った。


最初からこうすればよかったんだ。

誰が代償を払おうが知ったこっちゃない。

これで俺はもう仕事なんかしなくてもいい。

毎日寝て暮らせるんだ。
金さえあれば好きなものも好きなだけ食べられる。


俺はやっと少しすっきりとした気分になった。
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