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着信

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♪~♪~~


ビクッ


しんとした室内にケータイの着信音が鳴り響く。

静まり返った空間で、その音は必要以上に大きく感じられた。


…俺のケータイだ。

タイミング的に、このアメが絡んでいることは間違いないだろう。

誰からだ?

俺は恐る恐るケータイのディスプレイを確認した。


着信:坂上 幸


…幸?

なんだよ、びっくりさせやがって。

俺はホッと胸を撫で下ろし、通話ボタンを乱暴に押す。


「もしもし!?なんだよ、この忙しいときに!」

俺は苛立ちを隠すことなく不機嫌な声を出す。


「さっきはごめんね、譲ちゃん」

そう聞こえてくると思っていた電話の向こうからは、幸とは似ても似つかない中年の男の声が聞こえてきた。


「君、ジュリアちゃんの知り合い!?」


は?誰だよそれ。

相手は相当焦っているらしく、俺の返事を待つことなく言葉を続けた。

「大変なんだ。彼女、お店でいきなり倒れたんだ。
とにかく、急いで○△病院へ来てくれないか?危険な状態なんだ!」


相手は極度の興奮状態で、こっちの耳が痛くなるほど大きな声で叫ぶように言葉を吐き出す。


「あの、悪いですけどそんな人知らな」
「今彼女のケータイから連絡しているんだ!!」


なんなんだよ、一体。

彼女の…?ジュリアなんて女は知らない。
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