素直になれなくて

吉野ゆき

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苛立ち

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事の顛末を説明すると、ママは必死にお客様に頭を下げた。

「申し訳ございません!
以後気をつけますので、どうか他へ行くなどとおっしゃらずに…」


なんだか気分が悪い。

きっとこれがただのお客様だったら、こんなふうに謝ってない。

そんなに金持ちって偉いの?
金持ちは何をしても許されるの?
人を見下していいの?


ママはお客様に一通り謝ったあと、

「ちょっと来て」

と低いトーンで私を奥へと促した。


新人の子はハラハラした様子で、触られてたときよりも一層瞳に涙を浮かべて心配そうに私のことを見ていた。


『大丈夫』と視線を送って擦れ違う。


本当は大丈夫なんかじゃない。
これから何を言われるかなんて解りきってる。

しょうがないか。
お父さんの血を引いてるんだし。


分かっていても、見捨てられなかった。


「なんてことをしてくれたの!
あの方はうちのお得意様だって知っているでしょう!?
多少のことは我慢してもらわないと!
あなたが月に働くお金なんか比べものにならないほど落としていってくれるのよ!?」

一気にまくし立てられる。

「申し訳ございませんでした」

一応謝ってみるが、それは『お店に損害を出したこと』に対してで、アイツに謝る気はない。


ママはそれを読み取った。

「もういいわ。
今までご苦労様。帰っていいわよ」
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