同級生のお兄ちゃん

若草なぎ

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桜井リョウスケの場合

side:桜井リョウスケ プロローグ

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「ねぇ、今日からお兄ちゃんって呼んでもいい…ですか?」

彼女は唐突にそんなことを言ってきた。

「…なんで?」

「なんか……お兄ちゃん、って感じだからかな。そう、お兄ちゃんって感じだから!!」

俺は呆気に取られて吹き出してしまった。

彼女は慌てながら言う。

「いや、わかってるよ!?頭がおかしいやつだって思ったでしょ!ごめんって!!」

彼女は顔の前で両手を合わせて俺に謝ってきた。謝るくらいなら言わなきゃいいのに…

「いいけど…意味わかんねぇわw」

思わず承諾してしまった。すると彼女は「いいの!!やった!!」とはしゃいで友達の元に帰って行った。

……なんだったんだ。




俺は桜井リョウスケ。16歳高校2年生。

急にお兄ちゃん、と呼んでいいか聞いてきた彼女はクラスメイトの『柏木マオ』だ。

話すようになったのは1週間くらい前だったかな。

きっかけは文化祭の準備。

俺たちのクラスでは自主制作映画を作ることになった。

映像班と役者班、装飾班に分かれて準備をすることになり、俺と柏木は映像班になった。

……といっても、『兄』呼ばわりされるきっかけがわからない。

俺は大きなため息をついた。

「どうした?ため息なんかついて」

「うっちゃーん、柏木さんから、お兄ちゃんって呼ばれることになったわ」

「え、どういうこと?親再婚でもしたの?もしくは血縁関係が発覚とか?」

「いや、まったくない」

「クレイジーな話だな。お気の毒様」

うっちゃんはニヤニヤしてこっちみてくるだけだった。

あ、うっちゃんっていうのは、俺の友達の『兎川うかわダイキ』のあだ名。

兎川とは同じ部活で仲のいい友達だ。

「柏木さんになんかしたの?」

「マジで何もしてない」

「リョウに思い当たる節ないのかよ…」

「ないんだよなぁ…って、授業始まるから席戻れよ」

「はいはい」

うっちゃんは渋々席に戻って行った。

思い当たる節はまったくないが、最近の出来事を思い返すことにしよう。
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