同級生のお兄ちゃん

若草なぎ

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桜井リョウスケの場合

side:桜井リョウスケ 撮影の日①

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今日は映画の撮影を行う。

俺は音声担当なので、あまりに変なことがない限り前に出て行くことはしない。

編集はうっちゃんと一緒に週末を使って行うことになっているので

音声の最終チェックも行う予定だ。

「次、校庭で撮るから移動してくださーい」

うっちゃんの掛け声でぞろぞろとクラスメイトが移動していく。

「センパイ」と後ろから声を掛けられた。

そこにいたのは部活の後輩『猪狩サトミ』だった。

「今日は部活にいらっしゃいますか?」

「ごめん。今日は文化祭の準備なんだ。部長にも欠席は伝えたけど」

「そ、そうだったんですね。すみません!」

「急ぎの用だったかな?」

「いえ!文化祭の準備頑張ってください」

そう言うと、ぺこりとお辞儀をして帰っていった。

「桜井くん、音声いないと撮影止まるから、早く移動!」

長谷川さんが校庭を指差しながら、睨みつけてくる。

こわっ!

校庭に移動し、撮影を再開させてた。





撮影は無事に終了し、残すは編集となった。

一度家に帰り、うっちゃんの家に行った。

俺はBGMの選曲と挿入場面を決めるだけなのでさっさと終わらせて

編集自体はうっちゃんにバトンタッチ。

無言で編集するうっちゃん、俺は宿題でも終わらせておくかとノートと教科書を取り出した。

「お前、なんか話すことないの?」

「え?」

「いやいや、柏木さんのことだろ」

「なんもないけど…」

あの後は教室で会うと「お兄ちゃん、おはよう」とか「お兄ちゃん、バイバイ」とか

挨拶される程度なので、特に何もない。

うっちゃんはため息をついて、俺を見た。

「ラノベだったら、もうそれ好きだからな。少しは意識してやれ」

「は?うっちゃん、ラノベとか読むの?」

「そこじゃねえし!まあ、お互い傷つかないように接しとけ」

うっちゃんはまたPCの方を向き、編集作業に戻る。

俺もノートと教科書を見ていた。

……意識してないわけじゃない。でも、好きとか嫌いとか、でもない。

彼女のことを何も知らないのに何かの感情の動くことなんかない。

ただ、俺は彼女の『お兄ちゃん』に認定されただけ。何のこっちゃわからないけど。

「うっちゃん、結構時間かかりそう?」

「んー、そうだな」

「じゃあ、ちょっとコンビニ行ってくるわ」

「マジ?じゃあ、飲み物よろしく!」

「了解」
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