同級生のお兄ちゃん

桜井リョウスケの場合

side:桜井リョウスケ プレゼント

「お兄ちゃん」

柏木さんが急に話しかけてきた。

最近はテスト勉強に専念していたこともあり、話すのは久しぶりに感じる。

「はい？」

「今日は、もう帰る感じですか…？」

「どうしたの？ずっと敬語だけど」

俺は、首を傾げた。

ばっ、と何かが前に差し出される。

「あの、これ、ありがとう！すごくよかった」

この袋と感触は貸してたCDかな？

「いえ、どういたしまして。ってか、持ってくる時連絡してって言ってたじゃん」

「あっ！そうだった。ごめんなさい」

柏木さんが深く頭を下げる。

「いや、気に入ったなら他のやつも貸そうかなって思ってただけなんだけどね」

次に繋げたいな、とか思ってる俺、何なの？

マジでどうしちゃったんだ…

「あ、そうだ。今日はCDショップに寄ろうかと思ってたんだ。そろそろ行くね」

焦ったように言葉を発する俺。

柏木さんは食い気味に「行って良いかな！？」と言う。

「え、好きにすれば」

えーー！？また何言ってんだよ、俺。

「はい！好きにします！」

急に放課後一緒にいる事になったね！？

ちょっと動揺してる…？してますね！！

そんな自問自答をしながら柏木さんと一緒に教室を出た。




柏木さんは歩きながら、CDの感想を伝えてくれた。

本当に気に入ってくれたようでホッとした。

彼女は微笑みながら、俺のくだらないうんちく混じりの話を聞いてくれた。

なんというか…とても嬉しかった。

CDショップに着くと、クラシックコーナーに向かった。

「俺は、この人の音楽が好きなんだ」

世界的に有名な指揮者のポスターを見る。

「もし、連絡くれてたらこの人が指揮してるオケのCDを持ってこようと思ってたんだよね」

彼の指揮の凄さを体験してほしいな…

少し独りよがりかもしれないし、押し付けがましいかもしれないが

もし、彼女が共感してくれるなら単純に嬉しい。

「じゃあ、また気が向いたら持ってきてくれると嬉しいです。」

俺は彼女をみて

頷いた。



店を出た後、

「お、お兄ちゃん！」

と柏木さんが大きな声で呼びかけてきた。

「ん？」

「こ、これ……」

何かを差し出される。

他に貸してるものはなかったはずだが……

「た、誕生日！おめでとうございます！！プレゼント…です」

「え！？わざわざ用意してくれたの？」

えっ？？？？

柏木さんが…………俺に？？？？？？？？

とにかく驚いて一瞬固まってしまった。

ふぅ、と息を吐き、一旦落ち着く。

「ありがとうございます」

と言って差し出されたプレゼントを受け取った。

「ちなみに何か聞いて良いの？」

「何が良いかわかんなくて…万年カレンダーにしちゃったんだけど…

要らなかったらお家の人に渡してくれれば良いかな、って思ってるので！」

「え、マジで？万年カレンダー、ほしいなって思ってたんだ。

何処にでも売ってる雑貨じゃないからすごい嬉しい。本当にありがとう」

「喜んでくれて良かった！じゃあ、是非使ってください」

彼女からプレゼントを貰ってしまった。

しかも、いつかは欲しいと思っていた万年カレンダー！

というか、今日、俺、誕生日なの！？

普通に嬉しい。

俺は気持ちが困惑していた。

普通に嬉しい気持ちと、

彼女に祝ってもらえていると言う嬉しさ。

もう、さすがに自分の心を見ないフリはできないかもしれない…



彼女をバス停まで送った。

「柏木さん。今日は、プレゼントありがとう。本当に嬉しかった」

「ううん。お兄ちゃんの笑顔が見れてこっちも嬉しいから！」

彼女がバスに乗り、手を振ってくれる。

俺も手を振る。

バスが発車していく。

俺はバス停のベンチに腰掛け、

柏木さんの連絡先を表示した。

『柏木さん。俺の誕生日を覚えててくれて本当にありがとうございます。

こんな、ちゃんとしたプレゼントが友達から渡されるのは久しぶりでしたので

本当に嬉しかったです。

CDもしっかり聴いてくれたみたいだったので、それも嬉しかったです。

柏木さんの好きな曲や好きな作曲家がいたら教えてほしいです。

また何処かでお話ししましょう。　　　桜井』

友達…

いや、友達じゃない。

俺は、彼女のお兄ちゃん、だよな。