同級生のお兄ちゃん

若草なぎ

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柏木マオの場合

side:柏木マオ クリスマス③

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お開きの時間になった。

「モミジさん、ボタンちゃん。これ、プレゼント!」

「あーーー!!そうだったよね。ありがとう、マオちゃん!」

「ふふ、いつ交換するのかと思ってたのよ。私からのも受け取ってね~」

友達とのプレゼント交換!

いつになっても楽しいな。

「え、女子だけ!?」

「兎川くんたちには言ってないし」

とボタンちゃん。

「言ってくれたら持ってきたよ、なあ?2人とも!」

「………」

「え…?」

「一応、持ってきたけど……」

「桜井!?」

「俺もー」

「水無月も!?え、なんもないの俺だけ!?」

2人が兎川くんから目を逸らす。

「はい、みんなにクッキー」

水無月くんからクッキーの袋が配られる。

クリスマスツリー型のデコレーションクッキーだ。

「俺の手作りだから!」

「え!?お菓子とか作れんのかよ」

「特技、お菓子作りだけだよ」

水無月くんがVサインしてくる。

「俺、お菓子屋さんが夢で………」とニヤつきながら言う。

「あーーーモミジさん、モミジさん。水無月くんから嘘の匂いがぷんぷんしますね」

「そうね、ボタンさん。クッキー作りが上手なことだけ本当ね」

あ、そこは本当なんだ。

「サトミちゃんが言ってたもんね」

またその名前!まさか……

「サトミが?俺の自慢では??」

「はいはい、そーですね、彼氏さん」

ボタンちゃんが帰る準備をしながらあいづちする。

「桜井は、何くれんの?」

「うっちゃん、なんも持ってくれないのに要求するのやめなw」

そう言いながら一人一人に小箱を渡していく。

「俺も食べ物なんだけど。今日くるメンバーに合わせたから家で開けて」

「内緒なの?」と私が聞くと

「そう…だね。内緒にしてほしいかな」

と誰とも目を合わせずに呟いた。






カラオケボックスを出てそれぞれ帰る方向に向かうが、

私は水無月くんを後ろから呼び止めた。

「水無月くんの彼女のこと…聞いてもいい?」

「何?」

「水無月くんの彼女って…猪狩…さん?」

「なんだ、知ってんの?そうだよ」

私の中で色々とピースが当てはまっていく。

それと同時に強い怒りと悲しみ。ほのかに安心した気持ち。

「そっかぁ。初詣も行くの?」

「さすがに無理。俺、親の実家が隣の県だから、そっちに行く予定」

「そうなんだ。じゃあ、私たちとも会うのは来年だね」

「おう!じゃあ、良いお年を!」

そう言って手を振り帰って行った。

私はバス停まで移動し、待合イスに腰掛けた。

今日は、何かお兄ちゃんを怒らせてしまったようで、まだ気持ちが落ち込んでいる。

「か、柏木さん」

後ろから声をかけられる。

振り返るとお兄ちゃんがいた。

随分と息を切らしている。

「ど、どうしたの?!」

「帰る前に…伝えたくて…」

私はお兄ちゃんを見ながら立ち上がった。

「今日は、ごめん。怒ったつもり、なかったんだけど…怖がらせたみたいだったから」

「え、あ…こっちこそ、怒らせたみたいで…ごめんなさい」

「……安易に………」

「え?」

お兄ちゃんが私に手を伸ばす。

私の頭に手を乗せ、くしゃくしゃと撫でる。

「男は勘違いすんだよ。だから安易に頭撫でさせんな。わかった!?」

「えっ、えっ…」と困惑する私。

「返事は…?」

「は、はいっ!」

返事をすると強めに頭を撫でられた。

「いいこ、いいこ」

「ちなみお兄ちゃんは撫でるのOKなの?」

「俺は、マオの兄貴なんだから…許される」

ドキッとした。

初めて名前で呼ばれた。

「あのさ………2人の時は…名前でもいい…かな?」

お兄ちゃんの顔を見ると耳まで赤くなっている。

私も、あれ、顔が熱いような………

そう思うと急にお兄ちゃんの顔が見れなくなった。

良いよ、という言葉が出てこない。

あれ?おかしいな……おかしい…なぁ……

「………ごめん、ちょっと調子のったかも」

そう言って頭から手を離す。

「じゃあ、今日は先に帰るわ」

「ちょ、ちょっと待って…」

声を振り絞る。

「名前…呼んでくれると思ってなくて、驚いちゃって…お兄ちゃんなのに…ドキドキしちゃって…」

あ、あれ?私、何言ってるんだろ……

「名前で呼んでも…いい、よ…」

顔が上げられない…

「………ありがとう……」

そう言ってお兄ちゃんは私の髪を撫でた。

「マオ……顔あげれる…?」

私は首を振る。

お兄ちゃんは私の両腕を掴み、私の顔を覗き込んできた。

ドキドキする。

「マオの顔、見れた。めっちゃニヤけてるな」

「!!」

ドキドキが止まらない。

「そ、そんなことないし!!お兄ちゃんこそ、耳、紅くなってるし!」

「嘘っ!恥ずかしっ!!」

お兄ちゃんは私の両腕を離し、自分の両耳を手で覆った。

ふう、と呼吸を整えてたあと、

「もし、良かっただけど…初詣…一緒に行かない?来年、受験だし」

と言った。

私は、「元旦とかは無理だけど、それでも良い?」と聞く。

お兄ちゃんは優しい顔で「いいよ」と言った。

「3日はどう…かな?」

「う、うん!大丈夫」

「じゃあ、時間とか待ち合わせ場所は後で連絡する」

「うん、わかった」

お兄ちゃんはもう一度、私の髪を撫でた。

くすぐったい。

「クリスマス一緒に過ごせてよかった。今日は先に帰るよ」

「…嫌」

思わず、声が出た。

「えっ…」

お兄ちゃんは少し動揺したように見えた。

「お兄ちゃんなんだから……妹が帰るまで見守って…」

お兄ちゃんの服の裾をひっぱりながらそう言った。

お兄ちゃんの少し驚いた顔が優しい顔に変わる。

「いいよ」

2人でイスに座ってバスが来るのを待った。

こんなにお兄ちゃんにドキドキしているのに、一緒にいたくないのに、一緒にいたい。

どうしよう、全然話ができない。

「柏木さん、寒いの?具合悪くない?」

「うん。平気」

「全然話さないから、具合悪いのかと思って」

「心配かけちゃったかな!?元気、元気!!」

裏返った声を出してしまう。恥ずかしい…焦ってるように見えているだろうか…

「年末だから、体調崩すと病院やってないし。無理しないでね」

あ………

私がお兄ちゃんをお兄ちゃんと思った日のことが頭をよぎった。

やっぱりこういう気遣い、話し方。

紛れもなく私のお兄ちゃんだ。

いままでドキドキして落ち着かなかった気持ちが少し楽になった。

「お兄ちゃん!」

「どうしたの?」

「マオ、でしょ!」

「あ、え、えっ…」

「柏木さん、じゃなくてマオ!」

「めっちゃ欲しがるなぁ!妹ぉ!」

「自分から言ってんでしょ」

2人で笑い合う。

やっぱりお兄ちゃんと一緒にいると楽しいな。

「マオ」

「は、はい」

「言った割にはキョドってるな」

「そんなことありません」

バスが到着した。

「マオ。またね」

「お兄ちゃんも、また来年」

そう言って手を振った。

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