溺愛の価値、初恋の値段

C音

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オムライス契約を継続する 6

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京子ママに命令された征二さんが、わたしのスマートフォンから飛鷹くんに地図を送ってくれた。


「迷ったら、電話してくれれば迎えに行くって送っておいた」

「ありがとうございます」


飛鷹くんから「地図受け取った。タクシーで行く」と返信があり、三十分後には玄関のチャイムが鳴った。


「早いわねっ!」


すかさず立ち上がった京子ママが、玄関へ向かう。


「こんにち……っ!」

「いらっしゃいっ! 海音ちゃんの第二の母役を務めている京子です! あらー、さすが海音ちゃんの彼氏。イケメンだこと! さあ入って、入って!」

「……お邪魔します」


京子ママの勢いに、若干顔が引きつっていた飛鷹くんは、居間で出迎えたわたしを見るなりほっとしたように笑った。


「あけましておめでとう、飛鷹くん」

「あけましておめでとう。あま……湊さん」

「無理しなくていいのよ? 海音って呼んであげて。いつも海音がお世話になっているんだし」

「……はい、すみません」


お母さんの言葉に顔を赤くする飛鷹くんは、いつになくかわいい……などと思っていたら、睨まれた。


「あの、これ……うちで余っていたもので申し訳ないんですけれど……」


飛鷹くんは、手にしていた紙袋から取り出した大きな箱を京子ママに差し出した。
有名なケーキ屋さんの焼き菓子らしい。


「いやんっ! イケメンで礼儀正しいって、犯罪だわぁ。わたしがあと十歳若かったら、猛烈にアタックするところよ!」


京子ママの嘆きに、征二さんがツッコむ。


「サバ読みすぎだろ。十歳じゃなく三十歳若かったら、だろ」

「ちょっとした誤差じゃないの」

「ちょっとじゃねーから」


言い合う二人を怪訝な表情で眺める飛鷹くんに、征二さんは京子ママの弟なのだとこっそり耳打ちする。


「どうりでいいコンビ……」

「お店でも一緒だし。京子ママは、N市でおしゃれなお店を経営してるんだよ。ここ座って!」


大きなお鍋がいい匂いをさせているテーブルに飛鷹くんを招き、並んで座ろうとしたら、なぜか止められた。 


「あ、ちょっと待って」

「え? なに?」

「立ったまま、後ろ向いて。海音」

「???」


言われるまま、飛鷹くんに背を向ける。


「で、顔だけこっち見て」


指示どおりに振り返ると飛鷹くんがスマ―トフォンを構えていた。


「なにしてるの?」

「写真撮る」

「え? なんで?」


「かわいいから」


思ってもみなかった答えに、耳を疑う。


(か、かわいいって、言った? 空耳? 空耳だよね?)


飛鷹くんは、ぽかんと口を開けているわたしを見て、にやりと笑って付け足した。


「着物が」


「…………」


むっとして顔を背けると、今度はおだて始める。


「ほら、むくれてないで、こっち向いて。その着物、海音によく似合ってるし、髪もいい感じ。いますぐ、そのまんま初詣連れて行きたいくらい。さっきのは、冗談だって。本当にかわいいし」


調子良すぎる、と思いながらも、やっぱり嬉しい気持ちが堪え切れない。
おずおずと振り返れば、飛鷹くんはにっこり笑った。


「うん、すっげーいいふくれっ面撮れた。これ見たら、一生笑えそう。めちゃくちゃ、ご利益あるね」

「ちょ、ちょっとっ! け、消して! 変顔やだ!」


その後、むくれるわたしをよそに、お母さんも京子さんも、征二さんまで飛鷹くんの撮ったわたしの変顔写真を見て、「いいわねー」「もう、最高!」「カメラマンになれるな」などと盛り上がっていた。

飛鷹くんのスマートフォンを水没させてやりたいと思ったけれど、そんなことができるはずもなく……。

飛鷹くんは、よっぽど着物が気に入ったのか、帰り際に「明日の初詣も着物で来る?」と訊いてきた。

自分で着付けられないし、借り物だから「無理」と言おうとしたのだけれど、京子ママがすかさず「もちろんよ!」と力強く答えたため、地元ではなくN市の神社に行くことになった。

京子ママのマンションからも近いので、着物姿のわたしの移動も楽だし、知り合いに目撃される可能性も低い。ちょうど、都合がよかったのだ。
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