溺愛の価値、初恋の値段

C音

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火曜日のお花見 5

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「寝てても、鬱陶しい男ね」


ぼそっと呟いた雅は、向かいの座席で眠るロメオさんを忌々しげに睨みつけた。

現在、わたしたちは新幹線で桜前線を追いかけて、北上中。

あのあと――雅にいきなりプロポーズしてキスし、平手打ちされたロメオさんは、土下座して謝った……のだけれど、レプリカの短刀で切腹の真似をしようとして、さらに彼女の怒りを煽った。

怒り狂う雅を宥めるために、ロメオさんは何を思ったか再び彼女にキスをしようとして、再び平手打ちされ……再び土下座し……さらに怒られ……。


エンドレスな二人の攻防戦を停戦へ持ち込んだのは、飛鷹くんの「お花見に行くよ」のひと言だった。


飛鷹くんがお弁当をリクエストしたのは、なんとわたしたち四人でお花見に出かけるため。行き先も決まっていて、インターネットで新幹線のチケットまで購入済みだった。

マスコミ避けのために外出禁止だったのでは? という疑問は、「ピクニックなんて、庶民的なことをするとは思われていないから」と一蹴された。

初めて新幹線に乗るロメオさんは、スマートフォンで車体や車内を撮影しまくり、子どものようにはしゃいでいたが、発車して十分で寝落ちした。

飛鷹くんも同様で、二人は互いに頭を寄せ合い、仲良く眠りこけている。

通路を行く人がそんな二人をチラ見するので、わたしと雅はなんだか落ち着かない心地を味わっていた。


「サングラスをしてても、イケメンってわかるんだね?」


二人とも、昨夜は会議でおそくまで起きていたはず。
ゆっくり寝かせてあげたいという思いから、雅との会話は必然的に小声になる。


「顔は悪くないことは認めるけど、中身は最悪」

「雅……ロメオさんは、悪い人じゃないよ?」


あまりにも毛嫌いされているロメオさんが気の毒になり、ちょっぴり肩を持ったら、怒られた。


「いきなりキスするヤツが、善人なわけないでしょうっ!?」

「そ、それは……でも、ほら……スキンシップの境界線は日本とちがうと思うし……」

「自己紹介もそこそこに求婚するのは、日本じゃなくてもあり得ないと思うけど?」

「ナンパはしているかもしれないけど、結婚してなんて誰にでも言っているわけじゃないと思うよ?」

「……海音。あんた、どっちの味方なの?」


ギッと睨まれて、首を竦める。


「え、も、もちろん雅だけど……」

「そもそも、日本語ペラペラの外人なんてうさんくさいのよっ!」


あきらかに偏見……とは思うものの、怒っている雅はとても怖い。
逆らいたくない。


「で、どうなの? 同棲生活は」

「同棲じゃないよ。ロメオさんも一緒だし、同居」

「同じようなものでしょう? 変なことはされていないでしょうね? この男、忍耐力なさそうだから、病人でも平気で襲いかかりそうだし」


顎で飛鷹くんを示す雅に「そんなことないよ」と言ったけれど、無駄だった。


「で、どこまでされたの? まさか……」

「し、してない! …………キス以外は」

「ふうん?」 

「本当! それに、ロメオさんと雅ほどディープじゃなか……」

「海音っ!」


雅の白い頬が、真っ赤に染まった。

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