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日曜日のさくら 10
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お母さんのお墓がある霊園まで、高速道路を使えばN市から二時間ほどで辿り着ける。
以前、F県に住んでいた音無さんは、わたしが告げた地名で大体の場所がわかったようだ。一度場所を確認してからは、ナビは嫌いだと言って、切ってしまった。
車の中で、わたしたちはこれまでの空白の時間を埋めるように、たくさん話をした。
わたしは「お母さん」の話。音無さんは「咲良」の話だ。
お母さんの眠る霊園では、すでに桜の時期は過ぎていたけれど、ハナミズキなど別の木に花が咲き、遊歩道に沿って植えられた花たちと一緒にわたしたちの目を楽しませてくれた。
「咲良は、すてきな場所で眠ってるんだね」
お母さんのお墓まで来ると、音無さんは緑の葉を生い茂らせているフユザクラを見上げ、木の幹に触れた。
「この木はフユザクラなので、春だけでなく、お母さんの命日のある十一月にも花が咲きます」
「そうか……じゃあ、また十一月に来ないと」
「はい。ぜひ一緒に」
しばらく、音無さんは優しい手つきで木の幹を撫でていたけれど、大きく息を吐き「また来るよ」と言って、振り返った。
「そろそろ、行こうか。もう一つ、寄りたい場所があるんだ」
音無さんは、わたしが高校時代を過ごした懐かしい街へ車を走らせた。
街並みは、あの頃とあまり変わっていない。
「ここ、僕が修行していた店なんだ」
車を停めたのは、大学病院の近くにある明らかに高級そうな外観のレストランだ。
「ということは……お母さんが、来ていたお店ですか?」
「そうだよ。オーナーは、僕の元同僚に代わってるけどね。ちょっと軽く食べて行こうかと思って」
「あのっ……わ、わたし、すっぴんなんですけど」
お泊りセットにメイク用品は含まれていなかったため、現在のわたしはお直し用のファンデーションに眉を描き、薄くリップを塗っただけだ。
「大丈夫だよ。そのままでも十分かわいいから。僕は、素顔のままのほうが好きだよ」
音無さんは、甘い言葉なんか口にできないと言っていたのが別人のように、さらりと言う。
(こ、これは……もしかして、五回もお見合いで断られたのは、口下手なせいではなく、口説き文句を連発したからでは……)
「口説いているつもりはないんだけど……女性を褒めるのは難しいね」
またしても、考えていることが口に出てしまっていたようだ。
しゅんとしてしまった音無さんに、慌てる。
「あ、ご、ゴメンナサイ……でも、そういう言葉をかけてもらえるのは、恥ずかしいだけで本当は嬉しいはずなのでっ! あの、で、でもっ、さすがにすっぴんでお店に入るのはちょっと……服だって、思い切りカジュアルだし……」
十代ならともかく、二十代半ばになって、すっぴん普段着で高級フランス料理店に足を踏み入れる勇気はない。
「じゃあ、服と化粧品を買いに行こう」
音無さんは、即座に解決策を提案した。
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