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二人で作るオムライス 3
しおりを挟む小さな声が聞こえたと思ったら、いきなり腕を掴まれ、勢いよく引き寄せられた。
飛び込んだ先は、飛鷹くんの胸。
「もう、帰って来ないかと思った……」
そう呟いて、飛鷹くんはわたしを抱きしめた。
(いつもの、飛鷹くんの匂い……)
ぎゅうぎゅうと力いっぱい抱きしめられて息が苦しかったけれど、馴染んだ匂いに包まれて、ほっとする。
頬に触れるシャツはひんやりしていて、ずっと外で待っていてくれたのかもしれないと思った。
「……ずっと、あそこで待っててくれたの?」
「バス停にも行ってみたけど……バスを使うとも限らないし、すれ違ったら困ると思ったから」
「ごめんね、待たせちゃって。買い物してて、電話に気づかなかったの。ね、早く部屋に戻ろう? 風邪引いちゃうよ……」
「……持つよ」
飛鷹くんは、ほっと息を吐くとわたしの手からエコバッグを引き取った。
そして、空いた手をすかさず握る。
「あ、ありがとう」
微笑んで迎えてくれたコンシェルジュに会釈をし、エレベーターに乗り込む。
十五階で開いた扉の向こうに、今日は誰もいなかった。
部屋の中は、きちんと片付いているとは言い難かったけれど、初めてこの部屋に来た時のような惨状にはなっていない。
キッチンも使った様子がなく、料理の前に掃除をしなくてもよさそうだ。
しかし……。
ダイニングテーブルにエコバッグを置いても、飛鷹くんは繋いだ手を放そうとしない。
「あの……飛鷹くん? まずは、食材を冷蔵庫に入れたいんだけど……」
「……ああ」
鶏肉などの生ものもあるので、放置したくないと訴え、やっと解放される。
冷蔵庫の中には、消費期限を過ぎている食材もあり、ちょっとした整理が必要だったものの、幸い、冷凍庫にはごはんのストックがそのまま残っている。
オムライスを作り上げるのに、さほど時間はかからないだろう。
「お腹、すいてるよね? すぐに作るね! 一時間もかからずに出来ると思うから」
そう告げると、なぜか飛鷹くんは首を横に振った。
「先に……話が、したい」
「でも……」
「話さないと……とても、食べられそうにない」
ぎゅっと眉根を寄せて俯く飛鷹くんに、ごはんが先とは言えなかった。
(きちんと話をしてからのほうが、美味しく食べられるかもしれないし……)
「わかった。わたしも……飛鷹くんに、訊きたいこと……言いたいことがある」
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