君がいれば、楽園

C音

文字の大きさ
上 下
61 / 63

61

しおりを挟む
「昨日のかぼちゃの残骸なんだけど……春陽がトラウマになってなければ、スープにしようと思う。どう?」

「うん。食べたい」

「それから……年が明けたら、両方が通いやすい場所で物件探そう。目星はつけてあるけれど、春陽が気に入ったところがあれば、そこでもかまわないから」

「わたしは、冬麻がいればどこでもいいよ」

 冬麻のことだから、目星をつけていると言う物件は、絶対「庭」か「広いベランダ」付きだ。高い家賃も、仕事関係のコネを使って融通をつけてもらっているはず。

 それでも、わたしの希望を聞いてくれようとする気持ちが、嬉しかった。

 だから素直な気持ちを伝えたのに、なぜか冬麻は大きな手で顔を覆う。

「勘弁して、春陽。いま、朝だから。しかも、タクシーの中だから」

「え? わたし……何か、おかしなこと言った?」

 運転手がくすくす笑う。

「お兄さん、ずいぶん愛されてますねぇ……羨ましいです」

「どうも……」

 冬麻が顔を赤くしたまま、わたしたちはアパートの前でタクシーを降りた。

 部屋へ戻っても、冬麻の顔はほんのり赤いままだ。

「冬麻……風邪ひいたの?」

「ちがう」

「じゃあ……どうしたの?」

 キッチンで、段ボールからかぼちゃを取り出そうとしていた冬麻は、溜息を吐くとかぼちゃを元に戻し、ソファーに座るわたしの目の前に跪いた。

「……ヤりたくなった」
しおりを挟む

処理中です...