5 / 68
第1章
精霊召喚 5
しおりを挟むここは学校の敷地から北に五分程歩いた場所で、通称侵略者《アンドロット》の巣窟と呼ばれている。
学校の敷地内には侵略者は姿を現さないが、この侵略者の巣窟は敷地内ではない為、誰も立ち入らない不毛地帯となっている。
侵略者の巣窟を隔てる銀色の金網を越えると、急に侵略者の群れに襲われる、なのでこの先は立ち入り禁止で僕は今まで一回もこの先には足を踏み込んだ事はない。
そして今日、初めて侵略者の巣窟へと足を踏み込むのだが、
「よぉ柚木《ゆずき》……って、朝から疲れてんな?」
「おはよう恵斗《けいと》、昨日は色々とあってね」
「やっぱり騒がしかったのはお前の部屋か……部屋が近いから楽しそうな声聞こえてきたぞ?」
「はは、ごめん」
猫背姿の僕を見て、恵斗は少し苦笑い気味な表情を向けている。
アグニルが布団の中に入って、何度も一緒に寝ようとしたため、あまり眠れなかった。
眠そうな目を擦る僕とは違い、ずっとちょっかいをかけてきたアグニルはピンピンしている、そんなアグニルに「なんで元気なのさ」と聞くと「精霊ですから」と笑顔で答えた。
「……お待たせしました!!」
「やぁ雅《みやび》……三兄弟もおはよう」
「…………おはようございます」
「えっ?」
雅と三兄弟の小人も到着した、僕の挨拶に小人達は丁寧にお辞儀を返す。
小人達の大人しさが少し不気味だ、それに妙に雅になついているように見える。
雅の足下をチョロチョロと走り回ってた昨日の小人達とは別人だ。
「どうしたんだ小人共……妙になついてねぇか?」
「あっはい!! 昨日帰ってから拘束《チェーン》を使い続けてたらなんか」
どうやら雅はまだ恵斗が少し怖いみたいだ、おどおどしながら返事をする。
「なんか……縛られるのが好きになったみたいで」
「はっ?」
「言うことを聞かないと縛ってあげないよ? って言ったら……大人しくなりました」
雅は少し恥ずかしそうに頬を赤くしながら答える。
急にそういう性癖に目覚める人はいると聞く、だが精霊が目覚めるとは。
純粋無垢な雅に縛られ罵られたら、確かに目覚めるかもしれない、それほどの魅力はある。
「おうガキ共、揃ってるな」
後ろからやる気の無い声が唐突に聞こえた。
三人は振り返ると、そこにはいつもの黒のスーツではなく、胸元には精霊《スピリット》召喚士《サモナー》の証である天使の羽の紋章《エンブレム》を付けた朱色のジャケット
、黒色のズボンを着た仲神《なかがみ》の姿。
今の姿だけを見れば優秀そうで美人な精霊召喚士に見えるのだが。
態度や口調が全てを台無しにしていて━━、なんだか残念だ。
「それじゃあ早速侵略者の巣窟に入るが……私はあくまで保護者の様なものだ、侵略者との戦闘はお前ら三人でやれよ?」
「あっはい、わかりました」
そうなるだろうとは思っていたのでそこまで悲観する事は無いが、初めての戦闘に三人の表情も少し暗い。
そんな中、侵略者の巣窟へと足を踏み込んだ。
中に入ると一気に周りの音は静かに、聞こえてくるのは周りの木々が風に揺れカサカサという音だけ、本当にここに侵略者がいるのかと思ってしまうほで静かだ。
「━━早速来たぞ」
「えっ? でも何処に?」
仲神には侵略者の気配を感じるみたいだ、だが 三人にはそんな周りを見渡す精霊術(スピリアート)である、空間把握術《エリアビジョン》は身に付いてない。
「白銀の狼よ、我の矛に、我の盾に、全ては我の望むままに━━、出でよ、召喚《サモンネージ》」
姿の見えない侵略者を探していると、 恵斗は慌てて精霊召喚を詠唱する。
恵斗の体からは白銀の塵が舞い、詠唱が終わると巨大な狼の精霊、白銀狼《フェンリル》が恵斗の後ろに姿を現した。
「今奴らは距離を置いてこちらの様子を伺ってる、数は━━、五、六といった所だな。このまま放置してたら数を増やされて囲まれるぞ?」
「そんな事を言われても━━」
柚木には全く姿が見えない。
木々に囲まれてる事もあって空から照らされ る筈の太陽の光は一切無い、真っ暗ではないが人の輪郭は解るほどの薄暗さだ。
「主様、見つけました!!」
「本当に!?」
僕には何も見えないがアグニルは空間把握術を使ったのか、即座に見つけた。
アグニルの走っていく方向に後ろからついていく、そこには二体の侵略者。
体格は人間と瓜二つだが、頭からは二本の湾曲した角、そして長い爪、まるで鬼の様な姿。
一番気味悪いのは全身紫色のその肌だろう。
「アグニル……僕はどうしたら? 初めての戦闘で━━」
「安心してください、私が一瞬にして消し飛ばしますから!!」
心配している僕とは対極的に意気揚々と走り出すアグニル、
「来い、雷の剣よ!!」
走りながら詠唱するアグニル、呼び声に反応する様に右手からは電力が流れ、雷の剣が生成され姿を現す。
アグニルの体よりも大きな雷の剣を、二体の侵略者目掛け振り下ろす、侵略者の体に食い込むと、体が斬れる音はせず体全身に雷が落ちた様な轟音が鳴り響く。
これが初代精霊召喚士が精霊へと変わった実力、初戦闘の僕から見ても侵略者との実力は天と地の差がある事は一瞬にしてわかった。
「お前の精霊……何者だ?」
「えっ!!」
全く隣にいる気配を感じさせなかった仲神に僕は動揺を抑えられない。じっとアグニルの戦闘を見つめている。
ここに来る前にアグニルに言われた━━。
「私が初代精霊召喚士だった事は秘密にした方がいいです」
「えっ、それはなんで?」
「世界の秩序を壊し、主様の身に危険が及ぶ可能性があります」
理由はわからないがその時、アグニルは一切の笑顔を封じ、真剣な表情をしていた。
なんとなくだがその時僕は直感した、この事は隠そうと━━。
だが柚木をじっと見ている仲神の眼差しと圧力を相手に嘘を付ける程、僕は賢くも強い性格ではないと自覚している。
「……まあいい。今は……な」
仲神は背中を向け、他の二人の場所へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる