精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第1章

精霊舞術祭

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「お前ら……優勝候補が誰なのかも知らないで参加するつもりか?」



 恵斗は「やれやれ」と言葉を付け加え呆れた表情をしている。

 僕も三年間この学校に通い、精霊舞術祭《スピリフェスタ》に参加してきた生徒の精霊と精霊術は見てきた━━。
 だが本当に一応だ。正直名前もどんな精霊を召喚していたかすらも覚えていない。
 別に優勝するつもりもなかったし、そこまで勝てる実力が僕に生まれるとは思ってなかった。
 でも今は、二人の強力な精霊と契約している、中途半端な成績じゃ納得できないし、第一二人にも申し訳ない。



「主様は知らなくていいんじゃないかな?」

「えっ、なんでかな?」

「だって先に相手の事を知ったらつまんないじゃんかよ?」



 僕の制服の裾を掴むエンリヒートを見ると、自信満々の表情を浮かべている。
 相手の実力を試合前に知っておき、作戦を練る━━、前に仲神が座学で言ってたかな。
 エンリヒートはおそらく、戦う相手は始まるまで知らない方が燃える、そういうタイプなのだろう。
 だがアグニルの考えは違うのか、



「エンリヒートは相変わらず馬鹿だな……敵を知って、敵への対策を考える。どんな精霊召喚士も試合が始まる前から対策を練ってるんだよ?」



 アグニルは呆れた表情をエンリヒートに向けている。
 二人の思考は正反対みたいだ。アグニルは事前に相手を見てどんな精霊召喚士なのか、どんな精霊と契約をしているのかを調べて作戦を練るタイプだ。
 一割でも二割でも勝率が上がればいい、さすがは元精霊召喚士だ、僕よりも戦闘経験があるから説得力が高い。

 二人の意見は真っ向から対立していて睨み合っている。
 そんな二人を引き裂くように扉がガラガラと開き、



「はぁ……早く座れよー!!」



 ハイヒールのコツコツと音を鳴らしながら、仲神は教室の中へと入ってくる。
 相変わらずのダルダル感、朝なんだからもう少しやる気を出してもらいたいものだが。まぁそんなのは今に始まった事ではないか。

 三年間見ていたが毎日こんな感じだ。なんの違和感も感じないし、逆にやる気のある姿で来られたら━━、逆に不気味だ。

 そんな気だるそうな仲神は右手に何かを持っているのに気がついた、そんな仲神と目が合い、



「如月と柊!! これを持ってけ!!」



 仲神はだるそうにしながら僕ら二人を呼ぶ。
 そんな仲神の言葉を聞いて、僕と雅は急いで向かい受け取ると、



「お前らの精霊に座らせろ、大人しくさせろよ?」

「えっ、はいわかりました」



 どうやらこの小さな椅子は精霊用らしい━━。
 それより精霊も一緒に授業に出ていいんだ……不思議に思えたが、椅子に座る二人は嬉しそうにしている。
 ただ僕の両隣に座るのはなんだか気恥ずかしい。

 そんな気持ちの中授業は進んでいった。
 ちょこちょこ二人は話だしたり、寝ていたりしていたが特に大きな問題にはなっていないだろう。

 そして全ての授業が終わり、



「主様、早く行きましょう!!」

「あっ、引っ張らないでよ!!」



 授業が終わったと同時に、二人に手を掴まれ、説明会である講堂へと向かう。
 朝よりは不快な視線は感じないが、それでも多少は感じる。
 別に慣れれば気にならなくなる。
 今は自分にそうやって言い聞かせるしかない。
 僕らは気付くと講堂に着き、中へ入ると、



「これは……結構人がいますね?」

「ああ、今回は参加者が多いって聞いてたけど」



 講堂の中には生徒が二百人以上は軽くいる、それぞれが楽しく話したり、椅子に座ったりと始まるのを待っている。
 中にはアグニルとエンリヒートのような精霊を連れている生徒の姿も見える。



「それじゃ、そろそろ始めますね」



 白髪の老人、あれはこの学校で一番偉い理事長だ。
 講堂の形状は手前が高く、奥に行く程低くなっている。
 なので理事長は今、この場にいる生徒達に見下ろされながら話を始めようとしている。
 それはどんな気持ちなのか、僕だったら恥ずかしくて絶対に堪えられない。



「まず……例年の倍以上の三〇六人の生徒が参加してくれた事に感謝します。なので今回は一ヶ月と、長い期間を設けて行いたいと思います」
 


 周りからはざわざわとした声が聞こえる。
 それはそうだ、いつもは百人から二百人程の参加者で、期間も二週間くらいなのだから。
 ただ今回の違いはそれだけではなかった。



「それに伴い、今回はバトルロイヤルシステムを採用します」

「バトルロイヤル!?」

「学園内で参加生徒達にはこのバッチを付けてもらいます。このバッチを先に二名の生徒から取った者が本選出場です。これを二組に分けて一週間行います」



 理事長の言葉を聞いて、先程よりも騒がしくなる生徒達。
 バトルロイヤルが行われるのは今回が初めてだ、どうなるのか━━、ただ不思議な事に、だ動揺よりも楽しみの方が大きい。
 このまま説明は続いていったが、他の事項は特に変更はない、滞りなく説明会は終わった。

 他の生徒達は席を立って次々に部屋を出ていく、僕達三人も部屋を出ようとしたが、



「もしかして……エンリヒート?」



 不意に背後から名前を呼ばれた、僕ではなく左を歩くエンリヒートの名前を。
 振り向くと、そこには僕よりも歳上であろう大人っぽい女性の姿━━。
 ただあの耳の形は人間とは違って先が尖っている、おそらくエルフの精霊だろう。



「もしかして……シルフィーか!?」

「そうそう!! それより……どうしたのそんな小さい体になって!?」

「うっせっ!! ……いろいろと事情があんだよ」



 エルフの精霊は一見か弱い表情なのだが、少し言葉には刺々しさを感じる。
 髪は金色の長髪で、緑色の服にヒラヒラとした薄手のスカート。
 久しぶりに大人の精霊と会えた気がする。
 後ろからはこの精霊の主と思える女性が、慌てて走ってきて、



「シルフィー!! 勝手にいなくならないでよ!!」

「ごめんなさいシノ、久しぶりに知り合いの姿が見えて嬉しくて」
 


 シノと呼ばれた女性はあまり走るのが得意ではないのか、少しの距離を走っただけだというのに息を切らしている。



「へぇ、そうなんだ……でも急いで帰らないといけないんでしょ? 今日は寄りたい所があるって」

「あっ!! そうでした。エンリヒートも精霊舞術祭に出るんだよね?」 

「もちろん、主様とアグニルと三人でな!!」

「……三人?」



 エンリヒートの言葉を聞いて訝しそうな目で僕とアグニルを見ている。



「エンリヒートに姉か妹っていたっけ?」

「ん? 姉も妹もいないよ?」

「えっでも……じゃあなんで二人の精霊と━━」



 エンリヒートの言葉を聞いたシルフィーとシノという名前の二人は、何かを気にしているのを、僕よりも先にアグニルが感じて、



「主様!! 私達もそろそろ行かないと!!」

「そうだね!! 久しぶりの再会を邪魔してすみませんが僕達は行きますんで!! では!!」

「えっ主様!? ちょっと!?」
 


 僕はエンリヒートのお腹を肩に乗せ、アグニルと共に逃げるように走る。
 二人は僕らの姿をどう見ているのか━━。ただあの後に言われる言葉には何も答えられないと思った、だがら逃げたのだが、



「主様、下ろしてくれよ!! 二回目はさすがに恥ずかしいって」 

「ここらへんまでくればいいかな━━、ごめんごめん、でもあのままだったら話しそうだったからさ」

「えっ、何をさ? せっかく久しぶりの再会だったのに」



 人気の少ない場所まで走り、エンリヒートがバタバタと暴れるのでゆっくり降ろした。
 顔を赤くさせ抗議しているエンリヒートに、何故担いで逃げるようにして走ったのか、説明をしたが全く理解できないといった表情をして、更には少しプンプンと怒っていた。
 そんなエンリヒートを見て、ため息混じりに、


「はぁ……エンリヒートはやっぱり馬鹿だな」

「はあ!? 何がだよ?」

「主様に言われただろ? 私達は双子の設定になってるって━━、それに双子以外になんて説明するんだ? 精霊の同時召喚をできる精霊召喚士はこの世界にはいないんだぞ?」



 アグニルの説明に「あっ」と声を漏らして気付いたのか、



「そうだったな……ごめん主様」

「いや、わかってくれたならいいんだ」

「そういえばさっきのって風神の精霊だよね? 知り合いだったの?」

「あぁ、シルフィーは風の上級精霊だね。あいつとは理想郷《シャングリラ》にいた時から仲良しなんだよ」



 前に興味本位でアグニルに聞いたら「精霊達の村です」と、とても曖昧な言葉が返ってきたので、理想郷がどんな所かは精霊じゃない僕にはさっぱりだ。



「それより帰ろうか、明日から始まるし……今日は家でゆっくりしようか」

「そうですね……今日はゆっくり愛情を注いでもらいましょうか」



 僕は両腕を組まれ、二人に先導されるようにして家路へと進める。
 明日から始まる精霊舞術祭の為に早く寝たいから。
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