精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第1章

精霊舞術祭 10

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 小さなガラスのテーブルを囲む五人、そして周りには散乱している家具や本の数々━━今すぐにでも片付けたいが、仲神のオーラというのか……僕をじっと睨みつけている蛇のような目が恐くて、そんな事を言える空気ではなかった。

 そして、この場所で起こった事を全て仲神に説明した━━僕が、ではなくアグニルがだが。

 説明を受ける仲神の表情は苛立っていたが、とりあえずは納得してくれたのだろう、一呼吸置き、



「経緯はわかった。だがこの状況は……お前は馬鹿なのか?」

「……すいません。すぐに片付けますので」

「いやそれはまだいい……で、その新しいがきんちょが例の声の正体━━でいいのか?」

「がきんちょ言うな! 私はもう八歳だ!」



 仲神の言葉を聞いても一切動じないカノンは無い胸を張る。

 ━━カノン……八歳はがきんちょと言われても仕方ないんだよ? そう言いたい。

 アグニルとエンリヒートもこの仕草をよくする、だから慣れたのか、カノンの姿を見て落ち着いた表情で、



「それで? こいつを守る戦い方はとりあえずできそうなのか?」

「カノンの力なら大丈夫だ。カノンは攻めるよりも守る方が得意だから━━きっと主様の身を守る事は問題ないと思うぜ?」

「そうなの? 僕は音の精霊って初めて聞くからわからないけど」



 エンリヒートは断言するように言い切った、その表情は何処か自分の事のように誇らしそうにしているように見える。

 それぞれ精霊、又は精霊召喚士の体内には霊力《コスト》が存在する、この霊力は遺伝で生まれ持った才能とも言う人もいる。その体内の霊力を契約した精霊の属性によって異なる精霊術に変換する、そして、精霊が使う術を霊力術《コストアート》と呼ぶ。

 例えば、エンリヒートは体内の霊力を炎に変える火の精霊術を使う、他にも水分に変える水の精霊術を使う者、精霊術と霊力術にも色々あり、それぞれ異なる属性の術を使う。

 疑問に思うのはカノンは霊力を何に変換するのか、音に変換するのか? 果たしてそれでどう戦い、どう体を守るのか━━考えても疑問しか生まれない。
 きっと困惑した気持ちが表情に出ていたのだろう、アグニルに見つめられ、



「んー主様が混乱してますね。カノン、実際に見せてもらっていいかな?」

「……そうですね、わかりました」

「えっ、ここで!? これ以上部屋を壊さないでよ!?」

「大丈夫だって主様、カノンには物を壊す能力ないから!」

「……相変わらずエンリお姉ちゃんは失礼ですね! まあ事実ですけど━━それじゃあいきます!」



 カノンはエンリヒートの事をエンリお姉ちゃんと呼ぶのか……なんだか面白いな。




『おいでおいで、私の可愛い羊さん達! 贖罪《スケープ》の山羊《ゴート》!』



 能天気に変な事を考え過ぎてたか、皆の行動は僕を置いて先に進んでいた。
」カノンはおもむろに立ち上がると。小さな手を顔の横まで上げ、パチンパチンと二回叩き詠唱を始めた。

 すると、カノンの背後からは侵略者《アンドロット》が現れる時に出現する門、だが大きさはあれの比ではない、カノンの身長くらいの小さな門が現れる。

 仲神は咄嗟に身構えるがアグニルとエンリヒートは笑顔を向け、座って何かを待っている、その表情はまるで、クリスマスの日におもちゃをプレゼントされるのをわくわくしながら待っている子供みたいだった。

 ━━そして、その門から出てきた物体を見て、仲神は凄い勢いで飛び退いた。



「メエエエエー、メエエエエー」

「なっ! これは羊か!?」

「相変わらず可愛いな……本当にめんこいよお前達!」

「……これはカノンの能力です、要するに身代わりですね」



 小さな門からは侵略者が出現する門と同様、真っ暗で……何処までも続いている闇の道が見える、そこから次々に出てくるのは羊の群れ。
 眠れない子供に「頭の中で数えなさい」と、母親が言い聞かせる時のあれを連想させる絵だ。

 大きさは通常の羊と何も変わらない。
 そしてエンリヒートが抱き抱えて撫でているように、羊達に触る事もできるのか━━それで身代わりか。

 三人が楽しむ中、一人仲神は羊達から少し距離を取り、脅えているのか……首を横に振りながら「来るな来るな!」と叫んでる、この姿を見れるのはこれが最初で最後かもしれない━━そう思える程に珍しく、なんだか笑いが込み上げてきた。

 そんな皆を見ていてあることに気が付いた。
 部屋の中には既に六体の羊。そしてまだ門の奥には羊達の行列が待機している、もしかして……これは、



「ちょっとカノン! この羊何体出るのさ!?」

「ふっふっふー、聞いて驚かないでくださいね? なんと、私の霊力が無くなるまで出てきます!」 

「無くなるまでって……あの待機している羊達分は出てくるって事!? 凄いのはわかったよ、だけどこれ以上この部屋に入ってきたら━━」

「……確実に、部屋の壁は壊れますね」

「なんでそんなに落ち着いてるのさ、早く止めてよカノン!」



 カノンはどや顔をしながら腕を組んでいる、そんな彼女に両手を叩いて称賛の拍手する事ができない。

 羊の数は既に二十体を越えている。
 部屋の中は羊で溢れかえり、散らばった本を踏みつけたり、皆の体にのしかかったりとやりたい放題だ。
 そんな状況を見てカノンに止めるように指示するが、カノンだけではなくアグニルとエンリヒートの口からも否定的な言葉しか返ってこない。

 ━━なんて不甲斐ない主だ。

 そう思ったのだが、仲神の鋭い睨みが効いたのか、慌てるようにしてパチンと手を叩き、羊の群れが一瞬にして消えた。



「とりあえず、これで明日からは戦えるな……私は帰る。今日はいつも以上に疲れた」

「わかりました、じゃあ━━」




 仲神の茶色の髪は乱れ、黒いスーツには羊達の毛が大量に付いていた。
 そして、うんざりとした表情をしながら立ち上がる、止める理由が無かったので玄関まで送ろうとした。

 だけどカノンは「あっ、ちょっと待ってください!」と、慌てて止め、



「すみません……少し失礼します」

「ちょっ、何だよ!?」



 カノンはちょこちょこと歩き、仲神に顔を近付けじっと目を見つめる。

 近付けられた仲神の表情は照れているのか、頬を赤くしながら目をパチパチと、瞬きするのがいつもより数倍早くなっている。
 そんな表情を見て僕は思う。

 ━━歳上だがこれもなかなか。そして普通に可愛いと、そう思える程に可愛いくて幼く見える表情をしていた。
 顔を付き合わせてから時間にして約三秒くらいか。
 カノンは仲神から離れ、見つめ終わると、



「すみません……終わりました」

「いきなり何すんだよ? ……当然、こんな事をした理由を説明してくれるんだよな!?」

「はい、私の能力を二つかけさせてもらいました」

「一つは精神感応《テレパシー》の能力です、これで離れた位置にいても私の声が聞こえます、もう一つは━━」

「ちょっと待て、なんでそんな能力を私に使った!?」



 仲神は、さっきまでの赤面した表情から一変、テーブルを力一杯叩き、カノンの目を食い入る━━というよりは睨み付けるようにしている。
 だけどカノンには一切の動揺はない、まるで予想していたかのように、そっと肩で息をして、次の言葉を投げ掛ける。



「あなたには主様の手伝いをしていただこうかと思います」
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