精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第1章

本選 5

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「先に行かせてもらうぜ! 焔竜《えんりゅう》の舞い」



 エンリヒートは始まる合図の機械音と共に、勢いよく走り出す。
 焔竜の舞い、両手で持つ日本刀に炎の渦を纏う霊力術。

 だが、その行動はシルフィーには予想済みだったのか、笑顔を見せ、



「馬鹿の一つ覚えみたいに突っ込んで……薙ぎ払え、塵旋風《ダストデビル》」



 シルフィーは手に持つ槍を大きく振り回し、何も無い所からつむじ風を発生させる。エンリヒートが向かう先、そして避けた先にも。



「━━チッ、相変わらず嫌らしい手口だな!」

「戦闘の初歩……でしょ? 無能な主に仕えてそんな事も忘れた?」

「━━きさ……何回もその安い手には引っ掛からねぇよ!」



 一瞬頭に血が昇って走り出そうとした、だが寸前の所で立ち止まる。
 その姿を見て「あっそ」と言葉を投げ捨てる、だがその表情は少し苛立っていたのがわかった。

 エンリヒートは大丈夫そうだ━━アグニルは、



「どうしたの? さっきから何も仕返してこないけど?」

「……こんなに強かったの、前回とは━━まずい!」



 見たのは途中からだが、見れば優勢━━いや、これは圧倒している。
 手に持つ剣を使わず、上空からシノ目掛け落雷、そして避けた位置を先読みして再び落雷、威力は少量みたいだが、当たると苦痛の表情を浮かべる程には痛みがあるのか。
 ━━そして、



「……仕方ない。でもこれならどうかしら? 塵旋風」

「しまった、主様!」



 シノは僕を狙ってる、アグニルはまた目を放して僕を見る、信頼してるけど反射的に体が反応しちゃうんだろうな。

 だけど心配しなくても大丈夫、今の僕には武器がある、カノンがくれた弓が━━矢はイメージ通りになるってカノンが教えてくれた、威力、形状。
 きっとあの轟音を鳴らし、直撃すれば痛いでは済まないだろう。
 つむじ風は僕の足下、そして僕の四方に現れる筈だ。それなら、



「威力を最大に……足下に!」



 一度にどれくらいの量を出すのか。対戦回数も、霊力術を見た回数も、どちらも少ない、だから正直自信はなかった。
 ━━だがこれだけはわかる、そんなに大きくは無い、たぶんアグニルの身長くらいの大きさだろう。それなら上に避ければかわせるかもしれない。

 昔、爆風で吹き飛ぶ映画を見た事があった、そんなイメージを、まるで足下に優しい風を発生させるイメージで。

 僕は足下に矢を放つ、イメージを強く描き、



「……あれ━━これは?」

『さすが主様……私が何も言わなくても使うなんて』



 強い風が吹き、僕の体は勢いよく真上に飛ぶ━━まるで空を飛ぶような、そんなイメージか。
 不意に聞こえたカノンの声に、



「これは……イメージで変わるのは形状と威力だけじゃなかったの?」

『いえいえ、主様のイメージするものに変わりますよ……そりゃあ、限度ってものはありますよ、それに霊力が高い主様じゃないと使えませんから━━私の唯一の攻撃手段なんですから、有効活用してくださいよ』




 アグニル、エンリヒート、シノ、シルフィー、四人は僕を見上げている。二人は見てないで攻めてほしい。

 だがこれで、この姿を見て、非力な僕でも十分戦える。
 出会ってからずっと迷惑をかけた、心配もかけた━━やっと二人の力になれた。
 これで証明はできた、だから、だから、



「僕の心配はいいから攻めて! 二人の本気を僕に見せてくれ!」



 僕の心からの叫びに二人は笑顔を向け、口は開いてないが声が聞こえた。



『さっすが主様! すげぇかっこよかったぜ!』

『やっぱり主様は私達の主様ですね』

『これくらいやっていただかないと……ですが、さすがですね主様、後は』

『『 見ててください、私達の力を!』』



 三人の声が聞こえる、カノンも何処かで見ていてくれているのだろう、まだこんな事しかできてないが、称賛の声を贈ってくれた。

 そして、アグニルとエンリヒートは相対してる二人に向き直り、



「シルフィー、本気で行くぞっ!」

「なんで……なんで風を使える? あの精霊召喚士って」

「あの人は私達の主様だ! 無能呼ばわりした事を後悔しろ!」



 エンリヒートとシルフィーは日本刀と槍を交わせる、だがその表情は両極端だ、シルフィーは何がなんだかわからないといった、焦りを感じさせる表情、そしてエンリヒートは嬉しそうに、どこか誇らしげだ。

 エンリヒートは後ろに飛び、日本刀の刃先をシルフィーに突き出す。
 だが、シルフィーの方が少し速かった。




「ふざけるなっ! 私とシルフィーが過ごした一年の月日をこんな━━最近契約したばかりの奴等に負けるかよっ!」
「大気中の風よ、我が槍に集まれ━━旋風槍術《せんぷうそうじゅつ》」

「私達が過ごした年月は確かに少ない、だけど! 主様は私達に力をくれる、そして、私達の頼みも嫌な顔しないで聞いてくれた、だから今! 私達は主様の力になるんだっ!」
「全神経、全霊力を刃先に、この一点に━━炎刃刺突《えんじんしとつ》」



 二人の力━━いや、想いの強さか、それが伝わってくる。

 一年以上一緒にいるシノとシルフィー、その一年という期間には沢山の苦楽があっただろう。

 一緒にいた期間は少ない、だが、濃密な時間と、それに比例する程の悩みや目的を共有してきた僕達。

 どちらの想いが強かったか、それはわからない。
 だが、眩い光と爆風が僕の所━━いや、観客席まで届き、まるで、嵐が過ぎ去った後みたいに壊れた。
 観客席はなんとか原形を留めていたが、ステージは崩壊寸前だ。

 そして、シルフィーとエンリヒートは霊力が尽きたのか、その場に倒れこむ。


「シルフィー!?」 

「エンリヒート!」



 僕とシノは全力を出しきった精霊に駆け寄る、試合を半ば放棄した感じだが、ぴくりともしないエンリヒートが心配だった。

 ━━だが、不意に頭の中に詠唱が聞こえた。
 エンリヒートじゃない、アグニルでもない、これは。 




『眠れ眠れ、静かなる永久に、響け歌声━━精霊達の子守歌《ララバイ》』

「これは━━」

「主様!!」



 不意にカノンとアグニルの声が聞こえた、その声を聞いて周りの異変に気が付いた。

 なんだ、この人数は? それにいつの間に?

 周囲にはひとひとひと、ざっと見渡しても、既に二十は超えていて、周りには複数の精霊の姿も。
 そして、小太りのスーツ姿の男性が僕を見ながら、




「如月柚木君……一緒に来てもらおうか、我々━━反日本政府と」

「━━ッ! 最悪の状態ですね」



 本当に最悪の状態だ、アグニルは僕の側に寄り、少し離れた場所で、エンリヒートはまだ起きない、どうする、この状況を。

 瞬時に頭の中で考える、だが━━この状況は確か、



「アグニル、この場から逃げる! 周りに広範囲の雷を!」

「了解です! 唸れ雷、全ての障害を凪ぎ払い、敵を伐て━━、千本《サウザンド》の落雷《ライトニング》!!」



 アグニルが詠唱を終えると、周囲に無数の落雷を振り落とす、さっきのシルフィーとエンリヒートの壮絶な戦いのお陰なのか、観客席には誰もいない、いるのは僕らと、僕らを囲んでる反日本政府の連中だけだ。

 僕は倒れているエンリヒートを抱え、



「エンリヒート、起きてエンリヒート!」

「如月君……これは、あなたいったい」

「すみません巻き込んで、僕達と一緒にいたら危険です、シノさんはシルフィーを連れて逃げてください!」



 僕の言葉を聞いても、シノは一歩も動かない、腰を抜かしてるのか。
 だが二人にばかり気を取られるわけにはいかない、エンリヒートが動かないんだから。そんな時、アグニルの声が聞こえた。



「主様! エンリヒートは霊力切れです、手を、主様の手を触れてください!」



 アグニルの言葉を聞いて、慌てて頬に手を触れる、その瞬間、精霊石は赤い光を放つ、だが全く目を開けない。

 ━━駄目なのか? どうすれば。

 そんな時、控え室での出来事を思い出した、あの時は自分の意志で触ったら強まった。だから自分の意志で、そして、より強い愛情を注げば━━だが、どうやって愛情を注ぐ、考えた結果、一つの方法しか思いつかなかった。



「エンリヒート、目を覚ましてくれ━━」



 ━━僕は、エンリヒートの小さな唇に、自分の唇を付けた。
 その瞬間、僕の視界が真っ暗になった。
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