精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

文字の大きさ
31 / 68
第1章

激戦、そして

しおりを挟む

 悲惨な学園の姿、まるで戦争が起きた、はたまた侵略者が攻めてきた━━そんな惨状。

 だけど、悲観する内容ばかりではなかった、胸元に精霊《スピリット》召喚士《サモナー》の証である、天使の羽の紋章《エンブレム》が刺繍された、朱色のジャケット、その服を着た大人達の姿が見える。

 この紋章を付けた人達は、僕ら学生とは違って、多くの実践経験を培ってる。

 後ろを走るシノが「あの人達なら力になってくれるんじゃない?」と、叫んでいる、僕もこの言葉に同意件だった、だが、頭の中にカノンの声が響く。



『主様!? やっと通じた……ずっと呼んでたんですからね!』

『ごめん、ちょっと色々あってね━━それよりそっちは大丈夫?』



 彼女の心配した声は、妙に息が荒い、戦闘中? なのか……。
 いまだカノンと柚葉とは会えない、近くにいるのだろう、合流した方がいいよな。そう思ったのだが、



『こっちはまだ……そうですね、後で合流しますよ。それより変な天使の紋章を付けた奴らには気をつけてください━━襲ってきますから』

『えっ……でもあの人達って』



 否定の言葉を伝えようとした、だが、僕達と目が合った精霊召喚士の紋章を付けた大人達は、目の色を変えたようにしてこちらに走ってくる。
 自分が従えている精霊に何かを命令し、自分自身も詠唱を始めていた。

 その異変に誰よりも早く気付いたアグニルは、



「あれは……貫け! 高速稲妻《ライトニング》」



 アグニルは僕の前に立ち、人差し指を突き出して、指先から小さな雷を発生させた。
 眩い光を発する雷は、目にも止まらぬ速度で精霊召喚士の心臓を貫く━━だが一時的に身体を痺れさせ、動きを止める術のようで、微かに意識があるみたいだ。
 流れるように精霊術を使ったアグニルは、僕の方を振り返り、



「さあ、今のうちに早く行きましょう!」

「ちょっと待てよ、あれは先輩精霊召喚士達だろ? なんで攻撃したんだよ? 助けを求めれば」



 アグニルのした行動が理解できないのか、シルフィーは走りだそうとしたアグニルの手を掴み、問い掛ける。だが、エンリヒートは辺りを警戒しながら、



「シルフィー……じゃあ、なんであいつらは私達に攻撃しようとしたんだ? あれは風の精霊術━━それはお前が一番わかってるよな?」

「それは……でも、こんな乱戦状態だ! もしかしたら間違って」

「間違って……間違ったで済む話じゃないよ、シルフィー、あれは殺傷能力の高い風の精霊術の詠唱、確実に私達に当たってたら命は無かった。それは私達が良く知ってるでしょ」



 慌てながら、倒れている精霊召喚士の行動を、仕方ない間違えたんだ、の一言で済ませようとしたシルフィー、そんな彼女を首を振って否定するシノ。

 あれが攻撃の精霊術の詠唱、それは僕にも理解できた。
 だが、シノは一瞬の判断で何の精霊術なのかを理解した━━同じ風の精霊術を使う者だからわかる事か。
 そして、自分達が危険な術を使われた事がわかり、彼等が頼る相手ではない事を理解したのだろう、シノは僕を見て、



「いまこの学園に何が起こって、誰が敵なのか━━それがわからない以上、私達は避難するしかないみたいね」

「そうですね……一刻も早く外に出ましょう、この状況では遭遇戦になりかねないので」

「そうだな……カノンと妹ちゃんの事も心配だしな」



 エンリヒートの言葉に頷き、僕達は再び走り出す。
 外に出るまでの通路は狭い、普段から学園に通っていて気にはならなかったが、戦う場所としては最悪だ。
 広い場所に出れば今よりは戦いが楽になる。そう思って僕達は外に出た、だがその先の光景を見て、



「なんだよ……これ」



 声を出そうとしたわけではない。
 だが勝手に声が出てしまった、外に出て始めて気付いた、悲惨な状態は学園だけじゃなかった事に。

 学園から出ただけでもわかる黒煙の数々、それは僕達の住んでいた場所、そして生まれ育った街からも上がっていた━━まるで戦時中。 
 そんな変わり果てた風景を見ながら、シノは声を漏らす、
 


「どうなってんの……今この世界でなにが起こってるの?」



 動揺を隠しきれない、といった表情のシノ。

 その気持ちは僕も一緒だ、僕を狙ってるなら学園だけを襲うはず、なのに何故無関係な街まで襲う必要がある、そこに逃げたと思ったのか? それにしては範囲が広すぎる、何か、何か他にも重要な出来事でも起きているのか? 
 いくら考えても、与えられた情報が少なすぎて理解する事はできなかった。



「━━シノ! あれ!」



 困惑気味のシノに、シルフィーは声をかけ指を指す。
 その先を見たが、何を言いたいのか僕にはわからない、黒煙が沢山、その下には燃えているであろう建物。
 だが、シノの表情は苦悶の表情へと変わり、目からは涙を流しながら、



「あそこらへんってシノの━━」

「私の……私の家族が住んでる家。今日、お母さんずっと家に居るって」

「━━なっ!」



 指が向けられた先に両親の住む家があるのか? だがあそこは━━。

 そんな時、僕達がさっき出てきた扉の奥から、大勢の人がこちらに向かってくる足音、このままでは、



「シノさん、シルフィー! 早く向かって!」

「でも、このままじゃ」

「僕達は大丈夫、それにお母さんがまだあそこに残ってるかもしれない、助けられるのは二人しかいないんだ━━早く!」



 既に、耳から入る足音は、形となって姿を現した、その数は約十人。
 僕よりも強く、多くの経験と修羅場を潜り抜けてきたであろ召喚士達。

 二人がいなくなったら、正直厳しい。
 人数は多い方が助かる、だけど今行かせないと駄目な気がした、直感だけど。
 僕の言葉を聞いて、シノは涙を拭い、



「ごめん、如月君……ありがとう!」

「エンリヒート……死ぬなよ!」

「はいはい、そっちこそね」



 二人は走り出した、黒煙が上がり、火の海と化した街へ━━だけど、もしあの場所に今もいるなら、生きている可能性は低い。
 だけど、どんな形であっても、会うのが最後になるのなら、会っておいた方がいい━━僕と母さんの最後とは違って。  



「いやー、感動感動、君が招いた事なのによくそんなカッコいい言葉を言えたね」



 天使の紋章を付けた大人達の間から、手を叩きながら笑みを浮かべてくる男。
 完全に動くを辞めた人のような出っ張った腹、無精髭を生やして、黒いハットを被ったスーツ姿の男性。
 会場で声をかけてきた男で間違いない。
 その男に、他の大人達は会釈する、ということは、



「ああ、すまんすまん、さっきは名乗るのを忘れていたよ。私は神宮寺《じんぐうじ》 司《つかさ》、反日本政府の代表を勤めてるんだ」

「━━代表自ら現れるとは……命が惜しくないのか?」



 人を苛立たせる笑みとはこの事を言うのだろう、頬を吊り上げ、ほうれい線をくっきり出し、それに何かを食べているのか、唇は一定のリズムを刻み、咀嚼音が妙に鼻につく。

 神宮寺と名乗る男に、アグニルは剣を向け威嚇する、だが手を横に振りながら、



「いやいやいや、私は交渉しに来たんだよ? 君達が置かれているこの状況、いくら馬鹿でも理解できるだろ?」

「いちいち人を馬鹿にした奴だな……はっきり言ったらどうだ?」

「はぁー、君達はこの優秀な召喚士と精霊に囲まれている、もう逃げられないんだよ、私達と一緒に来るしか助かる道はないんだ」



 エンリヒートの反抗を軽くあしらう神宮寺。
 良く見ると、僕でも知っている精霊ばかり━━それも皆、上級精霊だ、だがなんで、



「なんでこんな優秀な人達ばかり集めてる、どうして従えている……僕には反日本政府の人間とは思えないんだけど」

「ふふっ、こいつらは私が雇ったんだよ━━金でね」

「金で……腐った大人達だ、あんたも他の奴らも」



 神宮寺、それに他の大人達も笑ってる。
 どうしてこんな奴らに手を貸す、テロを起こすような連中なんだぞ。
 だが、聞かされた答え━━結局は金なのか、精霊召喚士として生まれ、志を捨ててまで金が欲しいのか、誰もが精霊召喚士になれるわけじゃない、なりたくてもなれない人もいる。

 僕はこんな精霊召喚士を目指してない、ぼくは、



「腐った連中に僕達は屈しない━━亡くなった母さんと、召喚士になった父さんに誇れるような、そんな召喚士に僕はなると決めたんだから!」

「ふっ、はははは。お涙頂戴か? だがこの大勢の相手にどうするんだ? お前ら、生かして私の所まで連れてこい、多少、体が無くなってもかまわない、欲しいのは中身だからな」



 そして、大人達は僕ら三人目掛けて一斉に詠唱を始める。
 何処から反撃をすればいいかわからない、逃げる隙間もない、そんな絶望の中、不意に空気が冷えるのを感じた。
 ━━この感じは確か、



「遅くなって悪いな……如月」

「先生! どうして!?」



 カノン、柚葉、そして仲神の姿があった。 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...