33 / 68
第1章
激戦、そして 3
しおりを挟む後ろを走る誰かから、荒い息遣いが聞こえる、だけど僕達は走る。
━━何処に?
誰もこの言葉を口にはしない、だが皆も思ってる筈だ。
後方では神宮寺の憎たらしい声が聞こえる、「待て」だとか「逃げるのか」だとか。
だがそんな言葉は無視だ━━振り向いて舌を出す気分も余裕も無い。
そして、奴らが見えなくなってから、僕達は戦場と化した街の近くにある林に身を隠した。
「ここまで来れば……大丈夫、か」
「ああ、あの狸野郎が走って追いかけてくる筈が無いからな」
走った時間は約十分くらいだろう、僕達の呼吸は乱れていた。
敵と呼べる者が周りにはいない、とりあえずは安全と呼べるだろう、それに二人から話を聞くなら今だ、そう思った。
「先生、それに恵斗。聞きたい事があるんですが」
この場にいる全員の息が荒い、柚葉に関しては膝に手を当て、今にも座り込みそうだ。
そして、仲神は荒くなった息を整え、僕に頭を下げ、
「聞かれる前に……すまなかったな、いきなり姿を消して」
「それは、まあそうですね━━正直裏切られたと思いましたから」
「柚木! 違うんだ、彩夏姉さんは」
「彩夏……姉さん? いつもはそう呼んでるんだね、恵斗」
恵斗と仲神は僕の言葉を聞いた瞬間、合わせていた目を下に向ける。
恵斗が仲神の事を下の名前で呼んでるところを初めて聞いた、それほど親しい仲なのか。
助けてくれた事には感謝している、だけどなんだか、はっきりとわからないけど裏切られた気分だ。
恵斗は額を指で撫でているだけで何も答えない、代わりに仲神は家屋の瓦礫に座り、答えてくれた。
「私達は反日本政府のメンバーだ、元だけどな」
「二人が……なんでですか?」
「あいつの言っていた事は本当なんだ、私は元々、神宮寺に拾われた、要するに捨て子だったんだよ」
「えっ、そんな……じゃあ恵斗は」
「こいつは私が神宮寺の所に来てちょっとしてから拾われてきた、こいつも捨て子だったらしくてな、だからこいつとの付き合いはもう長くなるな」
思い出話を楽しく━━そんな楽しそうには見えない、苦しそうに悲しそうしている、それは隣にいる恵斗も同じだった。
エンリヒートは二人を見ながら、
「じゃあ、あんた達は最初から主様の事を狙っていたのか? 狙う為に友達になって、狙う為に教師になったのか?」
「それは違う、反日本政府が如月を狙っていると知ったのは、私がお前達を訓練した日だ、それまでは全く知らなかった」
エンリヒートの言葉に、仲神は落ち着きながら否定していた。
だからあの日、仲神は急に僕達の訓練をしてくれて、それにその場所に恵斗もいたのか。
だがなんで訓練をしてくれたんだ、狙っている事を知っていたなら、敵であるなら助けないはずだ、じゃあやっぱり。
そう思った、だけど先にエンリヒートが質問する。
「じゃあ、なんですぐに主様に言わなかったんだ? 狙うつもりがなかったならすぐに言うはずだよな?」
「それはだな……その」
仲神は再び目を反らし、返答しない。
そんな中、黙っていたアグニルが口を開く。
「結局……お二人は敵なんですか? 味方なんですか?」
「敵なら容赦しない……早く答えてくれないか?」
「待て! 確かに俺らは反日本政府に所属していた、でもそれには理由があるんだ、あの方がいたからで━━」
「またか……あの方って誰なんだよ?」
アグニルとエンリヒートは二人を睨みつけ、恵斗は慌てて口を挟む。
また出てきたあの方という人物。
信じていたからこそ━━二人が何かを隠し、今も明かさない状況に、僕は苛立ちを隠せない。
そんな僕らの熱くなった心を遮るように、カノンは僕の手を握り、
「主様もお姉ちゃん達も━━そんな態度取ってたら話したくても話せないですよ? まずは聞きましょうよ」
「ああ、あの方っていうのは━━」
確かにカノンの言うとおりだ、僕達は静かに話を聞こうとした、少ししてから仲神が話そうとした。
━━だが、突然「ここにいたんですね」という大人しそうな女性の声が背後から聞こえた、振り返ると、そこには笑顔を向けた雅がいた。
「雅! 無事だったんだね、良かっ━━」
「主様! ……下がってください」
アグニルが僕の前に立ち、じっと雅を睨みつけていた。
気付くとエンリヒートやカノン、仲神と恵斗も同じような目をしている。
そんな中、雅は不思議そうな表情を浮かべながら、
「どうしたんですか? 私……何かしましたか?」
「あんたは何もしていない、だから怪しいんだよ。なんでここにいるってわかった?」
「それは……そうですね、勘です、たまたま見つけたんですよ」
エンリヒートの言葉に、雅の表情は変わらない。
でもこの言葉に僕も違和感を感じた、偶然見つかるような所でも、たまたま通りかかるような場所でもない、ここは━━人から隠れられる為に選んだ場所なんだから。
「皆さんどうしたんですか? 仲神先生! 戻ってきてたんですね、良かった」
「ああ、ありがとう、でも━━」
「高速稲妻《ライトニング》!」
仲神の警戒した言葉の途中、アグニルは精霊術、高速稲妻を使った。
それを無防備な彼女に使ったら━━そう思ったのだが、小さな雷は雅の心臓部分の出前で止まる、というよりは何かに防がれたようだった。
その光景を見て、アグニルの表情が一変する。
「なぜ……なぜお前がその精霊術を使える! それは━━」
「あららー、まさかいきなり攻撃してくるとは思わなかったからつい防いじゃったよ━━先生どうしますか?」
アグニルの怒りを露にした言葉を遮り、雅は髪をくるくると指で巻きながら、 いつもより明るい声を出す。
普段の彼女とは全く違う雰囲気、その姿に違和感を感じ、不意に雅の背後に誰かがいるのを感じた。
白髪をぐちゃぐちゃにして、何年も着ているであろうあちこちに皺のついた白衣、黒緑の眼鏡をかけ、少し外人のような尖った鼻。
どこか知的な雰囲気が滲みでる男性、年齢は三十代くらいだろうか。
そんな男性が僕達を見ながら、目を細め笑顔を向けてくる。
「━━さすがですね、初代精霊召喚士。相変わらずの行動の速さだ」
笑顔を向けてくる男性から発せられた言葉に驚愕した。
そして、感情を露にしているのはアグニルだけではなかった、エンリヒートもカノンもだ。
「なんで、なんでお前がいる━━コスタルカ!」
「約七十年ぶりの再会だというのに、もう少し嬉しそうにしてくれないですか?」
この人がコスタルカ? 七十年ぶりの再会と言ってたけど、まだ三十代にしか見えない。
もし本当にコスタルカなら、なんで、
「雅! なんで君はそこにいるんだ!? 君はいったい」
「私は先生の弟子━━そんな感じですかねー、ねっ先生!」
「まあ、そんなところかな? 僕は認めたつもりはないけど」
雅は二重人格なのか? そう思えるほどに、普段の雅とは別人だ。
そして二人は仲良さそうに話している、そして、コスタルカは僕に真剣な表情で、
「今日は君に話があって来たんだ、如月 柚木君━━いや、如月 柚《ゆず》の息子に、ね」
0
あなたにおすすめの小説
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる