39 / 68
第2章
日本第一支部
しおりを挟む「主様、ただいまもど━━あれ、カノン? どうして泣いてんだ?」
「えっ! ちょっとお兄ちゃん、もしかしてお兄ちゃんが泣かせたの!?」
扉を開けた彼女達は様々な表情を浮かべていた。
エンリヒートの心配した声、柚葉の疑うような声と眼差し、アグニルは周りをキョロキョロとしている、完全に僕を疑っている。
この状況━━隣では泣いているカノン、そして頭を撫でている僕、この状況を見たらそう思うのは当然かもしれない。
だけど本当は違う、でもどう説明すれば。
「主様に……主様に」
隣に座るカノンは囁くような声を出す、そして、さっきまでは泣いてなかったのに、今の彼女の頬にはうっすらと涙が流れていた。
━━主様に? 何を言いたいんだカノンは。
カノンは頭を上げ、皆を見ながら大きな声を出した。
「主様に━━初めてを奪われました」
一瞬時が止まった━━それは僕だけでなく、この場にいる全ての者の。
柚葉は顔を赤くし、エンリヒートはニコニコと怖い笑みを浮かべ、そしてアグニルは、
「主様何をしてるんですか! 私という者がいるのに━━最初は私と」
「いや、いやいや違うんだ━━って、アグニルは何を言ってるの?」
「だけど……私も了承しました。主様なら良いと思って」
「お兄ちゃん……こんな幼い少女にまで手を出して━━女なら誰でも良かったの!?」
アグニルは顔を赤くしながら怒っている、彼女は何を言ってるんだ?
それにカノンも様子がおかしい。
柚葉も柚葉だ、女なら誰でも良かったのか、それは少しカノンに失礼だと思うんだけど。
いやいや、それよりこの荒れた空気をどう沈めるか。
そう考えていたが、エンリヒートは辺りを見渡し、
「まあまあ、そんなことよりもこれからの事を……あれ、またいなくなったよあいつら!」
「あっ本当だ、さっきまで一緒にいたのに」
「そんなことよりも━━って、私を連れてくなー!」
なんだか慌ただしい、入ってきたばかりなのに三人はまた階段を降りていった━━というよりはアグニルは無理矢理連れていかれたように見える。
どうやら小人達が消えたのだろう、だが、これで、
「━━カノン、どうしてあんな事を言ったの?」
「私は嘘は付いてませんよ? 確かに初めてを奪われましたから━━唇ですけど」
「それはそうだけど、って初めてだったんだ━━いやいや、それよりあんな言い方したら誤解されるじゃないか。というより、既に誤解されたじゃないか」
カノンはニコニコしている、子供っぽく無邪気な笑顔だ。
そんな彼女は僕の言葉を聞いて、僕の膝に座る。
「ちょ、ちょっと何処に座ってんの!?」
「さっき初めて気付きました、私は……どうやら独占欲が高いみたいです」
「はあ? 独占欲って、なんでいきなり?」
「それはですね━━」
そう言って、僕の膝に座るカノンは顔を近付けてくる。
仄かに香る甘い匂い、僕とカノンの距離は指が四本入るかどうかだろう、その表情は笑顔━━というより怖さがある笑顔だ。
「私は主様の事が好きです━━誰にも渡したくないのです」
「それって……でもなんで急に」
「私は神無に裏切られてから、これまでずっと一人でした。それがたぶん理由なんでしょう、私は誰かを愛し、誰かに愛されたいと、そう思っていました━━そして、さっき主様が言ってくれた言葉が凄く嬉しくて、私の心に空いた穴を塞いでくれました、そして気付いたんです、これが愛なのだと━━でも、ただ好きって気持ちだけじゃ、私の心は抑えられないのです、主様を独り占めしたいんです! これが私の愛の形、さあ主様、もう一度してください」
カノンは目を閉じる。
━━カノンはこんな性格だったのか? 全く別人へと変わってしまった。
その言っている理由も少しだけど理解できる、できるけど何か変だ、ずっと冷静なカノンを見ていたからだろう。
だが、その表情は可愛い、桃色の髪は綺麗で肌も艶々。
だけど━━カノンの姿は子供だ。
小学生の体に如何わしい事をしてしまったら、それはもう犯罪だ、いくら可愛いくても。
それはわかっている、わかっているんだが良いのではないのか? と思ってしまう。
このご時世、相手が合意ならそれで。
だが、不意に扉が開く━━そこにはアグニルの姿、だがその表情は、
「少し目を離した隙に……カノン! いつから!?」
「いつからなんて━━恋するのに時間は関係ないんです、それに、精霊が主に恋をする、そんなの良くある事じゃないですか?」
「━━くっ、それはそうだけど」
そうなの!?
そんなの初めて聞いたけど。
それより━━この状況は修羅場なのか?
二人を止めた方がいいのだろうか、身長は低いから小学生の喧嘩みたいで迫力は無いけど、なんだろう、止めたら二人に殺されそうだ、そんな嫌な予感がする。
だけどふと思った、これは当初の目標である『最強になってモテたい』、という願いの後半が叶ったんじゃないか、と。
━━二人とも幼女の精霊だけど。
「おいおい二人共、そこで睨み合ってないで話を進めようぜ?」
睨み合ってる二人を、アグニルの後ろから現れたエンリヒートは苦笑いを浮かべながら止める。
だが、二人はそんな言葉に一切動じない。
仕方ない、捨て身覚悟で止めるしかない。
「……お二人さん? そろそろこれからの話をしませんか?」
言った、僕は言った。
少し敬語になって変だけど、確かに言った。
二人はどう動くのか、じっと僕を見ながら。
「主様が言うなら……そうですね。ずっとここにいても仕方ありませんから━━カノン」
「主様の指示なら私は従いますよ━━アグニルお姉ちゃん」
「「 一時休戦です!! 」」
なんだか二人がかっこ良く見えた、腕を組みながら睨み合ってる、その二人の立ち方が。
そして少しは落ち着いたのか、渋々だが床に座った。
そんな二人の姿を見て安心したのか、エンリヒートはため息をつきながら座り、
「はあ、精霊が主に惚れるのはよくある事だけど、精霊同士が喧嘩したら駄目だぞ?」
「ううー、だってカノンが」
「アグニルお姉ちゃんが私達の邪魔をするから」
再び睨み合う二人。
だがそんな二人を無言の圧力で止めるエンリヒート、いつにもなく真剣な表情、なんだか彼女らしくない。
そんな視線を受け縮こまる二人。
「とりあえず、この小人達はこのまま連れていこう、無理に契約させてもお互いの為にもならないからな」
「えっ、ああ、そうだね」
「とりあえず、すぐにでも出発した方がいいと私は考えてるんだけど、主様はどうだ?」
「そうだね……僕もそれでいいと思うよ」
正直、僕は何も考えてなかった━━真剣な表情で聞かれるとエンリヒートの考えに自信があるのだろう、そう思えて同調してしまったのだ。
だけど、今すぐに出発するには問題がある、それはまだ外が明るいという事、そして船に乗る為に必要な交通費が、三人の小人達の分が無いという事。
だが、エンリヒートは僕のスマートフォンを操作し、自信満々に僕達に見せてきた。
「ふっふっふー、船を乗る為には最低一人五千円が必要だ、だがこの方法ならいける!」
「えーっと、なになに……大人五千円、小人二千円━━って、もしかして」
「そう! ここには主様と妹ちゃん以外━━みんな子供でいける!」
0
あなたにおすすめの小説
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる