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3:遠足は五秒で終わる。……かもしれない。

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「――――――と、いうことがあって、断っといた」



 帰宅早々に父親に事の顛末を伝えた俺は、まとめていた髪を下す。



 下した髪をスッと手に取り感触を確かめる。



 少し硬い。



 こう見えても16年女として生きているわけで、髪にはそれなりに気を使っている。

 別に女の子っぽくしたいだとか、可愛くなりたいわけじゃない。ただ、女としてある以上、最低限の身だしなみには気を付けたいのである。



 女にとって髪は命だ。



 そんな古い言葉があるけれど、あながち間違ってはいない。

 俺の前世の様に様々な手段で自己表現をできる世界観と違って、こちらの文化は思った以上にシンプルだ。それ故に女が自己表現する方法もストレートに身だしなみに絞られてくる。

 だからこそ俺は、意識して髪には気を使っている。



 俺は後で風呂に入ろうと考えつつ、髪を後ろに払う。



「なるほどな。まぁ、確かにザイード商会内部の噂はあまりいい話を聞かねーからな。断って正解かもしれねぇな」



 店のカウンターで頬杖を突く親父は、真剣なまなざしでそう返す。

 俺は「でしょ?」と言って、親父の隣の席に腰を下ろす。



「そもそも変な話よね。まだ店の責任者でもない私に声かけてくるなんてね。子供なら騙せるとでも思ったのかな?」

「ったく、ダセー連中だな」

「ほんと」

「ま、何より無事に帰ってきてよかった」



 親父はそう言って、俺の肩を優しくポンポンと叩く。

 ここで下手に頭を撫でたり、抱擁してこないところが親父のいいところである。



 前世の両親との関係は良好だったが、父さんは海外に行くことが多く殆ど接する機会は無かった。だからなのか、俺は父さんの生き方を知らない。

 それ故に俺は、父親という存在に対する接し方を知らなかった。

 そんなこと今の親父は知らないわけだが、年頃の娘に対する配慮や接し方を気にかけてくれているのはよくわかる。ありがたいことだ。

 家庭も大事にしつつ、仕事には誇りを持つ。ほんとによくできた親父だと思う。 



 俺は軽く伸びをして、席を立つ。

 風呂に入ったら、手に入れた設計図でさっそく作業に取り掛かるつもりだ。

 心躍らせ店の奥に向かおうとすると、不意に親父が口を開く。



「でよ。アテラくんとの縁談だが……」

「次その話したら殺す」

「お、……おう」



 一つ訂正。

 勝手に結婚相手を決めようとするのだけは、やめてほしい。





 ☆☆☆





 ローウェン・ザイードハウザーは、不服そうな唸り声を漏らした。



「なーに変な声出してんだよ。ローウェン」



 護衛の一人であるイーボルトは、葉巻を吹かせ軽く笑った。

 年齢にして三十代後半ごろのその男は、灰色の短髪に渋いフェイス、大柄な体躯ながらも引き締まった筋肉を持つ。

 その姿は、素人目に見ても相当の手練れだと匂わせる迫力があった。



 ここは、先刻ローウェン達がリーナとの商談を行ったキャンプから数キロ離れた場所にあるザイード商会の野営キャンプ本陣。

 周囲には様々な役職の者達が日が暮れたというのにも関わらず、忙しそうに動き回っている。

 ローウェンは深いため息をつく。



「笑いごとじゃないんだよー。俺としたことが、やらかしちまったんだよー」



 ローウェンはそう言って、駄々をこねる子供の様にバタバタと足を動かした。

 すると、そこに第三の声が飛び込んだ。



「情けないこと言うんじゃないよ。アンタのことだ。どうせ次の一手も準備してるんでしょ?」



 声の主は、二人目の護衛。

 高身長で巨乳の女だ。



「サーチェス。あんまり買いかぶらないでくれ。そんないつもいつも準備しているわけじゃない」



 サーチェスと呼ばれた女は、「嘘つき」と言って小さく笑う。

 明らかに服の上からでもわかる筋肉量。それでいて何故だか女性らしい体躯を維持している彼女は、シャツの首元をハタハタと仰ぐ。

 ローウェンはため息をついた。



「俺は一つ、でかいミスをしたんだ」

「へぇ。どんなミス?」



 サーチェスは面白がるようにニヤつき、傍の木にもたれ掛かる。イーボルトもやれやれと言った様子で煙を吐いた。

 ローウェンは話始める。



「あの小娘、俺が奴の技術の話をした際に目つきが疑いに変わりやがったんだ。後の商談の話は、ある程度のやつなら胡散臭いことに気が付くが、あそこで目の色変えるってのは相当キレる。俺はこの時点で発言を間違えていたんだ」



 悔しそうにそう言って、ローウェンはガシガシと頭をかく。



「そりゃ、つまり、あの小娘の技術を褒めるポイントが違ったってことか?」

「イーボルト。そうじゃない。要は、アイツの技術は確かに凄いが正直うちの連中ほどじゃないし、あのくらいの腕なら世界中たくさんいる。奴にはそれが分かってたから怪しんだんだよ。だから、あそこで本来俺は奴の技術を買いたいではなく、奴の技術を育成したいからうちに来いって言うべきだったんだ」

「なーるほど。交渉人は大変だなぁ。俺はそんなこと考えたことも無いね」



 頭を抱えるローウェンを眺めつつ、イーボルトはフゥと煙を吹かす。

 そんな二人を見てサーチェスは腕を組む。



「まぁ、でもだとしたらあの子かなり要注意じゃない? まだ16くらいでしょ? そんなにキレ者って逆に怖いわ」

「そこだよ。奴がこの点を意識したか意識してなかったかは知らねーが、少なくともやつは反応した。それだけでやつは十分面倒なやつなんだよ」



 ローウェンは再び唸りながら机に突っ伏する。

 その時、不意に周囲に熱風が吹き抜けた。



 !?



 その場にいた全員が身を強張らせる。

 何かただならぬ悪寒がたちこめ、キャンプ内に異様な緊張感が張りつめた。



『よぉ。遊びにきたぜぇ。相棒ぅ』



 気が付くとローウェンから少し離れたところに、異様な存在が立っている。



 赤く焦げた錆色の鋼鉄に包まれ、各所からは動くたびに音を立てて蒸気が漏れ出す。

 刺々しい装甲版と、むき出しになった配線と蒸気機関。

 目元は刺々しいバイザーに覆われ、その奥では目と思われる紫の発光体が二つ。

 機械男と呼ぶにふさわしいその人物は、茶目っ気のあるふざけた様子で手を振ってくる。



「……デッドキャスパー。何しに来た」



 うんざりしたような声でそう言ったローウェンは、ゆっくりと顔を上げた。

 デッドキャスパーと名を呼ばれたその機械男は、電子ノイズの混じる渋い声で話しかけてくる。



『「何しに来た」とは寂しいねぇ。……どうだい? 俺が流したモンは売れてんのか?』

「……あぁ。ほどほどにな。つーか、そんなことはどうでもいいんだよ。アンタが言ってたあの小娘、相当キレるぞ。ほんとに16か?」



 食って掛かるようにそう言って、ローウェンは機械男に詰め寄った。

 すると、デッドキャスパーはうんうんと頷き、両手を上げる。



『なるほどぉ。こんなところにいると思えば、さっそく接触したのかぁ。はは……。お前さんも馬鹿だなぁ。言ったろぉ。アレは特別だって』

「あんな言い方じゃわからん。てっきりただの小娘だと思って、マヌケ晒したろうが」



 声の大きさこそ押し殺しているものの、ローウェンの言葉には怒りが籠っている。

 自分の犯したミスが、彼にとってはそれほどに屈辱的なことだったのだ。

 しかし、デッドキャスパーはまるで気にしていない様子で、言葉を返す。



『マヌケを晒したのは、お前の責任だぁ。本当の商人ってのは、誰が相手だろうと侮りはしない。せっかく肩入れしてやっても、このザマじゃぁ転生者が鼻で笑えるぜェ』



 その言葉に、ローウェンは歯噛みし黙り込む。

 男は続けた。



『まぁ、別にいいさ。お前はまだ若い。今後も俺が入れ知恵してやるよ』



 楽しそうにそう言って、彼はローウェンの肩を叩く。

 そこで不意にイーボルトが口を開いた。



「ところでキャスパーさんよぉ。あの小娘は何なんだい? アンタが目つけてるくらいだ。なんかあるんだろ?」



 イーボルトの言葉に振り返ったデッドキャスパーは、ビシッと両方の人差し指を指す。



『いい質問だぁ!』



 ふんふんと上機嫌で鼻歌を歌いだす彼は、その場でくるりと回ってみせた。

 そしてひとしきり踊り満足したデッドキャスパーは、一層低い声で呟く。



『たぶんだが、あの娘は転生者だ』



 その言葉を聞き、俯いていたローウェンがハッとして顔を上げた。

 イーボルトもサーチェスも目を細め、彼の言葉に納得したように黙っている。

 周囲の人間もデッドキャスパーの言葉に耳を傾けていた。

 空間が静寂に包まれる中、先ほどまで取り乱してたローウェンが、ゆっくりと天を仰ぐ。



「なるほど……そいつは、別の意味で欲しくなってきたな」





 ☆☆☆





「で、なんでアンタがいんの」



 露骨なまでに不機嫌な声音で呟いた俺に、アテラは微笑む。



「それはもちろん。女の子を一人こんな危険なエリアに置いておけないからな」

「死ね」

「なんで?!」



 さりげない優しさのつもりか知らんが、クソキモいから消えろ。

 現実でそんな臭いセリフを言われて喜ぶ女はいない。

 心の底からそう思った俺は、半眼でアテラを睨む。



 ここは、俺たちの住む町から北にある山岳エリア。

 機関車を使って半日、更に運送用の借馬車を利用して3時間。

 そんな山奥に俺たちは訪れていた。



 今回の目的は、この山岳に住まう鋼竜の鱗を採取すること。

 先日のアテラから貰った設計図のおかげで、遠方狙撃用魔導ライフル「ガレット02」の基本構想と設計図はあらかた完成している。

 あとは、その発射エネルギーと多重の転写魔法式の圧に耐えられる金属を調達するだけ。

 ということで、その特別な金属の元になる鋼竜の鱗を採るために、ここまで来たというわけだ。



 本来ならば、鋼竜の鱗は遠方から輸入すれば済む話なのだが、量を欲していることと基本コストの高さ故に、今回は自己調達を余儀なくされている。

 要は、自分で拾えばタダだから来たというのが正しい。ただし、旅費以外。



 馬車から降りてここまで来るのに二時間。



 俺は昼間の太陽が照り付ける空を仰ぎ、片目を閉じる。



 深夜の列車で出てもこの時間だ。

 早々に目的を終えて、陽が沈む前までには山を下りなければならない。

 あのゴミの言う通り、このエリアは一等級の冒険者でも攻略に苦労するバケモノがうじゃうじゃいる。

 なんでもかつては、魔王の一派が支配していた領域だからとか、なんとか……。

 そんな魔物たち相手に、正面から戦って勝てるわけもがない。

 だからこそ、連中の活動が最も鈍い真昼間を狙って行動している。

 例えアテラが超絶無双の俺TUEEボーイでも、俺を守りながら山を下るのは楽な仕事ではないはずだ。

 本当はギルドにいる別の連中を連れて来たかったのだが、このゴミにうっかり見つかってしまい今に至る。

 正直鬱陶しくて仕方がないが、コイツは無条件でついてくるため報酬を払わなくていいのは助かる話だ。



 しばらく歩き山の中腹に差し掛かった時、俺は目の前の斜面に広がる岩の荒野を目にした。



 鋼竜の巣だ。



 広さにして、五十メートル四方はありそうな巨大な岩の斜面。その中心には、岩で固められた高さ三メートルほどの壁が見える。

 あそこの周りに鱗は落ちているはずだ。



「ねぇ。くれぐれも大きな音立てたり、魔法は使わないでよ?」



 隣にいるアテラを小突いた俺は、その場に荷物を下す。

 そして、大きい布袋のみを手にした俺は姿勢を低くして、ゆっくりと壁に向かっていく。



 この距離から見えない以上、親の鋼竜は留守のようである。

 もし、親がいれば留守になるまで数時間ほど待つ予定だったが、その必要はなさそうだ。

 ただ、今いないからと言って作業中に戻ってこないとも限らない。

 極力手短に、慎重に作業する必要がある。



 緊張で跳ねあがる鼓動の音がうるさく、俺はつい苦笑いを漏らした。



「……鋼竜の鱗、捕捉……重力変換、浮遊、一点集中、回収……と」



 ふと、振り返るとアテラのやつは、例のスマホを取り出し何やらぶつぶつ言っている。



「ちょっと、何して――――――」



 その直後、突然周囲に散らばっていた三十センチほどの鱗が次々に空中に浮かび上がる。

 浮遊した鱗は空中で一塊になると、フワフワとアテラの元に飛んで行き、彼の手元にある魔法陣の中に収まった。



 このどチート小僧がっ!!



 本悪的な殺意を覚えつつ、俺は来た道を戻る。

 そして、戻るなりアテラの腹に全力でパンチを入れた。

 しかし、アテラはヘラヘラと笑い、自慢げに魔法陣から鱗を取り出して見せる。



「全部で673枚。これだけあれば十分だよな?」

「十分だよな? じゃない。私の緊張感を返せ。返したら死ね」



 俺は、今度はその腹に蹴りを入れ、プイとそっぽを向いた。

 そっぽを向くついでにポニーテールでアイツの頬をぶっ叩いてやったが、何故かアイツは嬉しそうである。



 気色悪い。



 汚物を見るような冷ややかな視線を送る俺は、ポニーテールの埃を片手で払う。

 小僧のせいで拍子抜けな結果に終わってしまったが、結果オーライだ。今はこのチートにも目をつぶろう。

 そう自分に言い聞かせ、荷物を背負いなおす。



「……ん? ねぇ、ちょっと待って。アンタのその能力あればさ。まさか、帰りも……」

「うん。五秒で帰れるよ」

「……そぅ」



 俺は返す言葉も無く、ただ無言でアテラのニヤついた頬を全力でつねる。



「あだっあだだだだだだっ。ちょっ、痛い痛い痛い、やめて、なんで!?」



 奴の頬が腫れるまで全力でつねった俺は、アテラを解放して深いため息をついた。

 この世界に来てからため息が増えたな。

 そんなどうでもいい感想が漏れるほどに、俺のこの一日が虚しく思える。

 結局、転生特典でちょちょいのちょいか。それほんとに楽しいか?

 治癒魔法で瞬く間に腫れが引いていくアテラは、悪びれる様子も無く頭上にクエスチョンを浮かべていた。マジで死んでほしい。



 もともと「なろう系」の主人公能力は万能系が多く、「それアッサリ過ぎて退屈じゃない?」なんて思うこともしばしばだが、こうも目の前で見せつけられると何だかすべてが虚しくなってくる。

 多くの作品では、主人公のチートを目の当たりにしたヒロインたちは露骨なまでに目を輝かせ、主人公に尊敬の眼差しを向ける。

 だが、ネタを知っていれば何のことは無い。所詮は貰い物。自分で地道に積み上げたわけでも、勝ち取ったわけでもない。まがい物の力だ。



 そう思ってしまうと、何だかもう虚無感しかわかない。

 むしろ不思議だ。何故こいつは、そんなことでこうも誇らしげな顔が出来るのだろうかと。

 ウンザリした俺は、今度は敢えて大きなため息をつく。



「……帰ろ」



 罵声を浴びせる気力も無く、俺は小さく呟いて踵を返した。

 その時、



 オオオオオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!



 突然、空気を震動させるほどの強烈な咆哮が、大地を揺るがす。



 反射的に空を見上げると、そこには巨大なドラゴンが一匹、宙を旋回している。

 全身銀色の鋼鉄の鱗に覆われた全長三十メートルあるその巨体。

 間違いなく鋼竜だ。

 鋼竜は口に何やら大きな肉片を後ろ足に掴んでいる。おそらく雛に持ち帰った餌なのだろう。

 しかし、ドラゴンはそれを一向に巣に落とす気配は無く、グルグルと巣の周りを旋回している。

 岩場との境界で木陰にいるおかげか、向こうから俺たちの姿は見えていないようだ。



「……何か、変じゃね?」



 不意にその様子を見ていたアテラが声を漏らす。



「どういうこと?」



 聞き返した俺に、アテラは声を落とし解説する。



「ドラゴンは非常に愛情深い生物だ。巣に戻れば、すぐにでも餌を落として雛の元にすり寄るんだよ。今までたくさん見たから分かる。……でも、あのドラゴン様子が変だ。巣を確認しているのに、降りようとしない」



 すると、そのタイミングでドラゴンが再び咆哮をあげ、旋回をやめる。

 しかし、ドラゴンは巣に降りることはなく、そのまま遠方へと飛び去って行った。



「どうなってんの?」



 俺の疑問に、アテラは首をかしげる。



「とりあえず、見てみよう」



 言うなりアテラは駆け出し、巣の岩壁をよじ登る。

 俺もつられて駆け出すと、ワイヤーを使って岩壁を登った。

 そして――――



「「え?」」



 つい口をついた二人の声は重なり、風に溶けて消える。



 目の前に広がっていたのは、空っぽの巣だった。

 考えるより先に、巣の中に飛び降りた俺は周辺を調べる。

 地面に敷き詰められた藁には、各所にキラキラと輝く小さな鱗が散っており、つい先刻まで雛がこの場にいたことを匂わせる。



 雛が消えたのだ。



 どういうことだろうかと、俺は思考を巡らせる。

 ドラゴンの雛は非常に好奇心旺盛で、目に映るもの全てに触れたがることで有名だ。

 その生態ゆえに、親のドラゴンは子育ての際に雛たちが巣から出ていかないように巨大な壁をつくる。

 しかし、雛は消えていた。どういう――――



「ちょっと、リーナ。これ見ろよ」



 そこまで考えた時、アテラが地面を指さしながら俺を呼ぶ。

 急いで駆けよると、そこには人の足跡と車を引いたような跡が残されていた。



「野郎……、どこの連中か知らねーが、雛を売り飛ばすつもりだ」



 アテラの言葉に、俺は顔をしかめた。

 どこの世界にでもいる。貴重な生物を売り飛ばし、商売をする輩は。

 俺はグッと歯を食いしばり、拳を握る。

 これだから、人は愚かなのだ。

 前世でも、乾燥地帯で貴重な生物の違法な乱獲や捕獲が問題視されていたが、それはこっちでも同じようである。

 脳裏には、寂しそうに飛び去って行く先ほどのドラゴンがチラつき、俺は唇を噛んだ。



「……超絶無双男。出番だよ」

「え、何が?」



 唐突にそう言って立ち上がる俺に、アテラが困惑したような声を漏らす。

 足跡の渇き具合から察するに、まだそんなに時間は立っていないはずだ。

 一人なら絶対に無理だが、こっちには超絶チートスマホ侍がいる。

 俺は風で絡みつくポニーテールをさっと払いのけ、左腕のクロスボウに手をかけた。



「追うの。雛泥棒を! それで私たちが雛を取り戻して、親に返す! わかった?」

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