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第五章 今川と織田
第五十七矢 聖人
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「ひぃ、ひぃ!」
僧兵は必死の形相で逃亡していた。
(何なのだ、何なのだあれはぁ…)
僧兵がチラッと後ろを振り返ると、そこには鬼のような形相の男がいた。
そう、その男とは岡部親綱であった。
「逃げるなあ!!」
見る見るうちに、僧兵と親綱の距離が縮まっていき、ついにしかめっ面をした親綱が後ろから槍を振り下ろした。
僧兵は恐怖のうちに斬り倒されたのだった。
親綱が周りを見渡すと、敵が散り散りになって逃亡していくのが見えた。
「ふぅぅぅぅ…」
親綱は息を溜める。そして、
「おぬしらそれでも僧兵か!」
と逃げ行く門徒や僧兵たちに向かって叫んだ。
今川軍と一向一揆の戦いは、兵力差や兵の質で大きく優っていた今川軍の大勝に終わったのであった。
すると、斜め後方から息子の岡部元信が憤慨しながらそばに来た。
「全くです父上!半端な覚悟で戦をするなど、戦を冒涜しておるわ!」
元信はまだまだ戦い足りないと言わんばかりに、片腕をグルグルと回す。
親綱はニカッと笑う。
「流石は我が息子。戦の心構えをわかっておるわ!」
こうして、遠江国の一向一揆は収束していったのだった。
「そうですか、戸田は滅びましたか。」
玄海は淡々と僧兵の報告を受け止めていた。
「それともう一つ、遠江では我ら真宗の軍勢が今川に大敗し申した。」
「そうですか、あなたも報告ご苦労さまでした。」
玄海はまだ言葉に余裕を見せて僧兵を下がらせた。
それもそのはず。
三河国では未だに一向一揆が猛威を振るっていたのである。
その理由は二つある。
一つは三河国は織田と今川・松平の争いや松平広忠の死によって混沌としていた状況にあったこと。
そして、もう一つは戸田や門徒から寄付の名目で受け取った大量の金貨を用いて多数の傭兵を雇ったことだ。
残りの金貨はどうしたかというと、全て寺の改装に費やした。おかげで、寺はより豪華絢爛になっていた。
以上から三河国の一向一揆は、松平や織田と何とか渡りあえていたのだ。
だが玄海にとって、戸田が滅亡したことや今川軍が一揆を鎮圧したことなどはどうでも良いことだった。
(ああ…皆が私に関心を寄せている…)
玄海はゾクゾクと身体の内側から快感がこみ上げてくるのを覚える。
そう、この玄海という男は異常なまでに自己顕示欲が強かったのだ。
今、織田と松平、そして今川といった名だたる武家が一向一揆に関心を向けている。
それが玄海には嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。玄海の口角が徐々に上がってくる。
「御院主様?」
声を聞いてハッとすると、今までに見たことがない玄海の表情に困惑気味の僧侶が目の前にいた。
(つい無意識に顔に出ていましたか。)
玄海はすぐさまいつもの聖人のような人を優しく包み込む笑みを僧侶に向けた。
「どうかしましたか?」
「あ…いえ、高仁寺の源安殿がいらっしゃっておられます。」
「わかりました。すぐに向かいます。」
僧侶はその玄海の神々しい笑みをまともに見ることができず、そっぽを向いてしまった。
(先程の御院主様の表情は私の気のせいか。)
僧侶はそう納得した。
御院主様はあのような下品な笑みは浮かべまい、と。
その玄海は優しい瞳の奥にずっと本心を隠していた。
(そう、お前たちはそれでいいのです。所詮お前たちは私の思い通りに動く駒でしかないのですから。)
一度笑みを見せれば拝み、一度涙を見せればその涙につられ泣き出す。
玄海にとってそんな門徒や僧兵とは、愚かで浅はかな駒でしかなかった。
「田原城を攻略し申した。」
駿河国の駿府館で、俺は田原城攻略の報告を由比正信から聞いていた。
「お~やったね。」
俺が喜ぶと、正信は報告を続ける。
「ですが城は焼け落ちてしまい、しばらくは使い物になりませぬ。」
「マジかあ。プラマイゼロってことか。」
俺はガックリと肩を落とした。
(田原城があれば、今川の三河の拠点になったのに…)
三河国の状況は、以前にもまして混沌としている。
西三河を支配し、松平の領土も狙う織田家。
東三河を支配し、当主が不在の松平家。
そして三河国全域で広がっている一向一揆。
この三者がそれぞれ激しく争っていた。
「やっぱ、あれだね。僧侶の暴動をどうにかしたいよね。」
吉田氏好もうなずいた。
「はい、一揆は三河のみならず我らの領土にもすでに影響を及ぼしておりまするからな。」
「だよねー」
今回は比較的小さい規模の一向一揆で済んだが、三河国での一向一揆が長引けば再び遠江国でも連動して発生するだろう。その時に大規模の一向一揆が起ころうものなら、厄介なことになる。それだけは阻止しなければならない。
「俺としては松平さんに三河を治めてもらいたい所だけど、松平は当主が不在…いや、竹千代君がいるけど織田さんに人質にされてるんだっけ。」
俺は一つため息をついた。
「やっぱ、今こそ竹千代君奪還に動き出す時だよね。」
三河で新たなる大きな戦が始まろうとしていた。
僧兵は必死の形相で逃亡していた。
(何なのだ、何なのだあれはぁ…)
僧兵がチラッと後ろを振り返ると、そこには鬼のような形相の男がいた。
そう、その男とは岡部親綱であった。
「逃げるなあ!!」
見る見るうちに、僧兵と親綱の距離が縮まっていき、ついにしかめっ面をした親綱が後ろから槍を振り下ろした。
僧兵は恐怖のうちに斬り倒されたのだった。
親綱が周りを見渡すと、敵が散り散りになって逃亡していくのが見えた。
「ふぅぅぅぅ…」
親綱は息を溜める。そして、
「おぬしらそれでも僧兵か!」
と逃げ行く門徒や僧兵たちに向かって叫んだ。
今川軍と一向一揆の戦いは、兵力差や兵の質で大きく優っていた今川軍の大勝に終わったのであった。
すると、斜め後方から息子の岡部元信が憤慨しながらそばに来た。
「全くです父上!半端な覚悟で戦をするなど、戦を冒涜しておるわ!」
元信はまだまだ戦い足りないと言わんばかりに、片腕をグルグルと回す。
親綱はニカッと笑う。
「流石は我が息子。戦の心構えをわかっておるわ!」
こうして、遠江国の一向一揆は収束していったのだった。
「そうですか、戸田は滅びましたか。」
玄海は淡々と僧兵の報告を受け止めていた。
「それともう一つ、遠江では我ら真宗の軍勢が今川に大敗し申した。」
「そうですか、あなたも報告ご苦労さまでした。」
玄海はまだ言葉に余裕を見せて僧兵を下がらせた。
それもそのはず。
三河国では未だに一向一揆が猛威を振るっていたのである。
その理由は二つある。
一つは三河国は織田と今川・松平の争いや松平広忠の死によって混沌としていた状況にあったこと。
そして、もう一つは戸田や門徒から寄付の名目で受け取った大量の金貨を用いて多数の傭兵を雇ったことだ。
残りの金貨はどうしたかというと、全て寺の改装に費やした。おかげで、寺はより豪華絢爛になっていた。
以上から三河国の一向一揆は、松平や織田と何とか渡りあえていたのだ。
だが玄海にとって、戸田が滅亡したことや今川軍が一揆を鎮圧したことなどはどうでも良いことだった。
(ああ…皆が私に関心を寄せている…)
玄海はゾクゾクと身体の内側から快感がこみ上げてくるのを覚える。
そう、この玄海という男は異常なまでに自己顕示欲が強かったのだ。
今、織田と松平、そして今川といった名だたる武家が一向一揆に関心を向けている。
それが玄海には嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。玄海の口角が徐々に上がってくる。
「御院主様?」
声を聞いてハッとすると、今までに見たことがない玄海の表情に困惑気味の僧侶が目の前にいた。
(つい無意識に顔に出ていましたか。)
玄海はすぐさまいつもの聖人のような人を優しく包み込む笑みを僧侶に向けた。
「どうかしましたか?」
「あ…いえ、高仁寺の源安殿がいらっしゃっておられます。」
「わかりました。すぐに向かいます。」
僧侶はその玄海の神々しい笑みをまともに見ることができず、そっぽを向いてしまった。
(先程の御院主様の表情は私の気のせいか。)
僧侶はそう納得した。
御院主様はあのような下品な笑みは浮かべまい、と。
その玄海は優しい瞳の奥にずっと本心を隠していた。
(そう、お前たちはそれでいいのです。所詮お前たちは私の思い通りに動く駒でしかないのですから。)
一度笑みを見せれば拝み、一度涙を見せればその涙につられ泣き出す。
玄海にとってそんな門徒や僧兵とは、愚かで浅はかな駒でしかなかった。
「田原城を攻略し申した。」
駿河国の駿府館で、俺は田原城攻略の報告を由比正信から聞いていた。
「お~やったね。」
俺が喜ぶと、正信は報告を続ける。
「ですが城は焼け落ちてしまい、しばらくは使い物になりませぬ。」
「マジかあ。プラマイゼロってことか。」
俺はガックリと肩を落とした。
(田原城があれば、今川の三河の拠点になったのに…)
三河国の状況は、以前にもまして混沌としている。
西三河を支配し、松平の領土も狙う織田家。
東三河を支配し、当主が不在の松平家。
そして三河国全域で広がっている一向一揆。
この三者がそれぞれ激しく争っていた。
「やっぱ、あれだね。僧侶の暴動をどうにかしたいよね。」
吉田氏好もうなずいた。
「はい、一揆は三河のみならず我らの領土にもすでに影響を及ぼしておりまするからな。」
「だよねー」
今回は比較的小さい規模の一向一揆で済んだが、三河国での一向一揆が長引けば再び遠江国でも連動して発生するだろう。その時に大規模の一向一揆が起ころうものなら、厄介なことになる。それだけは阻止しなければならない。
「俺としては松平さんに三河を治めてもらいたい所だけど、松平は当主が不在…いや、竹千代君がいるけど織田さんに人質にされてるんだっけ。」
俺は一つため息をついた。
「やっぱ、今こそ竹千代君奪還に動き出す時だよね。」
三河で新たなる大きな戦が始まろうとしていた。
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