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第五章 今川と織田
第五十四矢 波紋広がる
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翌朝、朝食の用意が整ったため小姓は主君である松平広忠を呼びに行こうと広忠の部屋に向かっていた。
広忠の部屋付近に来た時、黒っぽいシミのような物が床に付着していた。
「…え。」
シミのすぐそばに護衛の死体が、小姓をじっと見ているかのように横たわっていた。
「うわあああああ!!!」
小姓は腰を抜かしてしまい、その場から立てなくなってしまった。
城下町にある巨大な屋敷では、重臣・石川清兼はちょうど朝食を食べ終えていた。すると、一人の小姓が訪れてきた。
「き、清兼様。殿が…殿が…」
声の震えからして、ただ事でないと感じた清兼はすぐに城へと向かった。
広忠の部屋付近では人だかりができていた。
人を退かせて、護衛たちの、そして広忠の変わり果てた姿を見て清兼は立ち尽くしていた。
しばらくして康正は小姓たちの方を振り返った。顔には涙を流した跡が残っていた。
「ここで見たものは全て忘れよ。よいな!!」
康正の迫力に押された小姓たちはコクリと頷いくしかなかった。その後、康正はごく一部の重臣を密かに集めた。
「殿が…一体誰に…」
「殿を暗殺した曲者を探し出すのじゃ!」
「探し出すなど、そのようなことができるのか?」
重臣たちはワーワーと喚き立てていた。
「今はそれどころでないわ!」
清兼がそんな重臣たちをピシャリと諫める。
「今、我らが考えるべきことは松平の今後。終わったことを今さら嘆いたとて、どうしようもないじゃろう。」
場が落ち着いた所で、康正は自身の意見を発した。
「今、世にこのことが知れ渡れば混乱の収拾がつかなくなる。ひとまずは、死を隠蔽しよう。」
康正の意見に賛成する重臣もいる中で、阿部定吉は疑問を呈した。
「いつまで隠蔽をするおつもりか。必ずやいつかは露見することになりますぞ。」
「それは…」
康正が言い淀んでいると、酒井正親がハッと思いついたように言った。
「竹千代様がお戻りになられるまででどうか。されば、当主不在という最悪の事態は免れまする。」
かくして、対外的には広忠は病に倒れたという情報を流して混乱を避けようとした一方で、岡崎城内では情報統制を徹底した。
幸い広忠の死を知っている者は少なく、広忠の死は上手く隠されたのだった。
また軍事面では一向一揆の対応は後回しにして、先に竹千代の奪還を優先した。
しかし広忠の死の直後、岡崎城の城下町ではある噂が流れ始めた。
「殿様はすでに織田の刺客によって殺されているんだとよ。」
「まさか!」
「でも、おかしくねえか。あんなに元気だった殿様が突如病だなんて…」
「確かにそうだけどよぉ。」
誰が言ったかも知られない根も葉もない噂。しかし、それは民衆や松平家の家臣に不安や疑念を焚きつけるには十分であった。
それは日に日に大きくなっていき、不信を抱いた家臣が松平家から離反する動きが起こった。岩松八弥もその動きに紛れて離反した。
「我らの役目は終えた。後は一向宗次第か。」
行商人はフウッと一息ついた。
その一向宗を動かす玄海はというと、
「仏敵・松平広忠に神罰が下りました。今こそ我ら真宗の力をこの三河にもたらすのです。」
そう門徒たちを煽り、一向一揆はさらに過激さを増していった。
離反者が続出して、かつ主なき松平家はこの勢いを止めることができず、瞬く間に三河全土に一向一揆が広がってしまったのだった。
それによって、東三河を支配下に置いていた織田も一向一揆と対峙することになり、松平領へと侵攻するどころではなくなった。
そんな三河国の混沌とした状況は駿府館にも伝わっていた。
「こんなに大事になるなんてね、一向宗だっけ?僧侶の方々の暴動。」
と、言うのも一向一揆の影響は今川の支配域である遠江国にまで及んでいた。
遠江国でも点在的に一揆が起こっており、三河国との国境付近は特に一揆の動きが激しく、関所などを占拠していた。そのせいで三河国に出兵できず、身動きが取れないでいた。
「困るんだよなー、関所封鎖されるのはさ。松平さんと連携取れないし、朝比奈さんたちに兵糧届けれないし…」
ということで、現状を打破するために一揆の鎮圧に取り掛かることにした。
「じゃ、僧侶の暴動は岡部親子に任せます。頼んだよ。」
「「はっ!」」
そうして、岡部親綱と元信は一揆の鎮圧へと向かった。
岡部親子が大広間から去った後、俺は吉田氏好と話していた。
「でも、松平さんも大変なときに病になっちゃったもんだよねー」
「確かに、気の毒に思いまする。」
「俺たちも病には気をつけないとね。」
その頃、田原城にも一向宗の門徒と僧兵が迫っていた。
広忠の部屋付近に来た時、黒っぽいシミのような物が床に付着していた。
「…え。」
シミのすぐそばに護衛の死体が、小姓をじっと見ているかのように横たわっていた。
「うわあああああ!!!」
小姓は腰を抜かしてしまい、その場から立てなくなってしまった。
城下町にある巨大な屋敷では、重臣・石川清兼はちょうど朝食を食べ終えていた。すると、一人の小姓が訪れてきた。
「き、清兼様。殿が…殿が…」
声の震えからして、ただ事でないと感じた清兼はすぐに城へと向かった。
広忠の部屋付近では人だかりができていた。
人を退かせて、護衛たちの、そして広忠の変わり果てた姿を見て清兼は立ち尽くしていた。
しばらくして康正は小姓たちの方を振り返った。顔には涙を流した跡が残っていた。
「ここで見たものは全て忘れよ。よいな!!」
康正の迫力に押された小姓たちはコクリと頷いくしかなかった。その後、康正はごく一部の重臣を密かに集めた。
「殿が…一体誰に…」
「殿を暗殺した曲者を探し出すのじゃ!」
「探し出すなど、そのようなことができるのか?」
重臣たちはワーワーと喚き立てていた。
「今はそれどころでないわ!」
清兼がそんな重臣たちをピシャリと諫める。
「今、我らが考えるべきことは松平の今後。終わったことを今さら嘆いたとて、どうしようもないじゃろう。」
場が落ち着いた所で、康正は自身の意見を発した。
「今、世にこのことが知れ渡れば混乱の収拾がつかなくなる。ひとまずは、死を隠蔽しよう。」
康正の意見に賛成する重臣もいる中で、阿部定吉は疑問を呈した。
「いつまで隠蔽をするおつもりか。必ずやいつかは露見することになりますぞ。」
「それは…」
康正が言い淀んでいると、酒井正親がハッと思いついたように言った。
「竹千代様がお戻りになられるまででどうか。されば、当主不在という最悪の事態は免れまする。」
かくして、対外的には広忠は病に倒れたという情報を流して混乱を避けようとした一方で、岡崎城内では情報統制を徹底した。
幸い広忠の死を知っている者は少なく、広忠の死は上手く隠されたのだった。
また軍事面では一向一揆の対応は後回しにして、先に竹千代の奪還を優先した。
しかし広忠の死の直後、岡崎城の城下町ではある噂が流れ始めた。
「殿様はすでに織田の刺客によって殺されているんだとよ。」
「まさか!」
「でも、おかしくねえか。あんなに元気だった殿様が突如病だなんて…」
「確かにそうだけどよぉ。」
誰が言ったかも知られない根も葉もない噂。しかし、それは民衆や松平家の家臣に不安や疑念を焚きつけるには十分であった。
それは日に日に大きくなっていき、不信を抱いた家臣が松平家から離反する動きが起こった。岩松八弥もその動きに紛れて離反した。
「我らの役目は終えた。後は一向宗次第か。」
行商人はフウッと一息ついた。
その一向宗を動かす玄海はというと、
「仏敵・松平広忠に神罰が下りました。今こそ我ら真宗の力をこの三河にもたらすのです。」
そう門徒たちを煽り、一向一揆はさらに過激さを増していった。
離反者が続出して、かつ主なき松平家はこの勢いを止めることができず、瞬く間に三河全土に一向一揆が広がってしまったのだった。
それによって、東三河を支配下に置いていた織田も一向一揆と対峙することになり、松平領へと侵攻するどころではなくなった。
そんな三河国の混沌とした状況は駿府館にも伝わっていた。
「こんなに大事になるなんてね、一向宗だっけ?僧侶の方々の暴動。」
と、言うのも一向一揆の影響は今川の支配域である遠江国にまで及んでいた。
遠江国でも点在的に一揆が起こっており、三河国との国境付近は特に一揆の動きが激しく、関所などを占拠していた。そのせいで三河国に出兵できず、身動きが取れないでいた。
「困るんだよなー、関所封鎖されるのはさ。松平さんと連携取れないし、朝比奈さんたちに兵糧届けれないし…」
ということで、現状を打破するために一揆の鎮圧に取り掛かることにした。
「じゃ、僧侶の暴動は岡部親子に任せます。頼んだよ。」
「「はっ!」」
そうして、岡部親綱と元信は一揆の鎮圧へと向かった。
岡部親子が大広間から去った後、俺は吉田氏好と話していた。
「でも、松平さんも大変なときに病になっちゃったもんだよねー」
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その頃、田原城にも一向宗の門徒と僧兵が迫っていた。
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