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第六章 三つ巴
第六十矢 接触
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「ん~やっぱおいしいわ、ここの饅頭。」
アンコの甘みが俺の口の中で広がる。
俺たちは駿府の町にある饅頭屋の長椅子に座って饅頭を食べていた。横には多恵や福姫、五郎や蓮嶺姫も同じく口をモグモグさせておいしそうに頬張っていた。
俺は今回行きたいと言っていた張本人である福に聞いた。
「おいしい?」
福は夢中に饅頭を食べていた手を止めて、
「はい!おいしゅうございます!」
目を輝かせて勢いよくうなずくのだった。
そんな俺たちの姿を物珍しそうに民衆は見ていていた。
(こんなに人に見られてると、食べづらいなぁ。)
本当はお忍びで行きたかったのだが、子供三人があちこちウロチョロして迷子になるのはマズいと思い、護衛をつけて視察という形で町を歩くことにしたのだ。
そんな大勢の民衆たちの隙間から行商人はこっそりと饅頭屋の様子を窺っていた。
(あれが今川義元…)
姿は見えたが、遠目だとどんな人間かがよくわからない。行商人が知りたかったのはどんな人間性をしているかということだった。
戦好きなのか、温厚なのか、はたまた策謀家なのか。
それ次第では、どのような傾向の策を講じてどのように戦を展開するかが見えてくるからである。
(一か八か、接触するか。)
すると、行商人は民衆を押しのけ始める。そして民衆の最前列に来たときに、敢えて民衆に押し出されたような感じで義元たちの前へと転げ出てきた。
「何者か!」
咄嗟に護衛が懐から刀を取り出す。それに対して、行商人はヒッと小さく悲鳴を上げた。
「す、すみませぬ。押し出されてしまって…ヒィ!」
行商人がビクビクと震えるのを見て、俺はジーッと見ていた。
「なんかさー、君ただ者じゃないよね。」
「は?」
(まさかこやつ、わしの正体を…!?)
行商人は動揺を顔には出さないようにして義元におそるおそる聞いた。
「ど、どうしてそのようにお思いに…?」
俺は腕を組んで考え込む。
「うーん、何かさっきから演技っぽい気がして。なんか顔つきとか雰囲気がただ者じゃない感じだったし。」
「雰囲気、ですか?」
「何となくねー。まっ、俺の勘違いかもだけど。」
(本気で言っているのか、この男は…)
行商人は言葉を疑った。自分で言うのもなんだが、演技には自信があった。今まで、あまたの人々を欺いてきた。それが現在“何となく“で見破られたのかもしれないのだ。
行商人はゴクッと唾を呑んだ。
(この勘の良さ…危険だ。今なら殺せる距離だが…)
しかし、行商人はすぐに思い直す。
(元より駿府に来たのは情報収集のため…ここは一度退こう。)
それに今暗殺をしようものなら、その前に護衛に阻止されて失敗してしまうだろう。
すると行商人はヨロヨロと立ち、
「わしはそんな立派な人ではありませぬよ~」
と、ニヘラと笑って見せた。
「俺の勘違いかなー。疑ってごめんね。」
「いえいえ、殿に勘違いをさせるわしが悪うござるのです。」
行商人はそう言って、ササッとその場から去っていった。
そしてその後は特に何も起こらず、俺たちは視察を楽しみ駿府館へと帰っているときのこと、
「コホッコホッ…」
「大丈夫?」
突然咳き込んだ多恵を俺は心配していた。
「大丈夫、むせただけにございまする。」
「そっか、なら良かった。」
俺はホッと安心して、ニコッと笑った。
その笑顔が多恵にとって、とても眩しい太陽のようなものだった。
今日はとても楽しい一日だった。
きっとこの日も思い出として永遠に自身の記憶に残るだろう。
殿や可愛い子供たち、そしてこの町に住む人々。かけがえのない私の大切な人々。
多恵は誰にも聞き取られないような声でボソッとつぶやいた。
「…ずっとそばにいられたら良いのに……」
「なんか言った?」
「いいえ、何でもありませぬ。」
多恵は殿の横でニコリと笑う。
俺にとって、その笑顔が眩しい太陽のようなものなのは言うまでもない。
アンコの甘みが俺の口の中で広がる。
俺たちは駿府の町にある饅頭屋の長椅子に座って饅頭を食べていた。横には多恵や福姫、五郎や蓮嶺姫も同じく口をモグモグさせておいしそうに頬張っていた。
俺は今回行きたいと言っていた張本人である福に聞いた。
「おいしい?」
福は夢中に饅頭を食べていた手を止めて、
「はい!おいしゅうございます!」
目を輝かせて勢いよくうなずくのだった。
そんな俺たちの姿を物珍しそうに民衆は見ていていた。
(こんなに人に見られてると、食べづらいなぁ。)
本当はお忍びで行きたかったのだが、子供三人があちこちウロチョロして迷子になるのはマズいと思い、護衛をつけて視察という形で町を歩くことにしたのだ。
そんな大勢の民衆たちの隙間から行商人はこっそりと饅頭屋の様子を窺っていた。
(あれが今川義元…)
姿は見えたが、遠目だとどんな人間かがよくわからない。行商人が知りたかったのはどんな人間性をしているかということだった。
戦好きなのか、温厚なのか、はたまた策謀家なのか。
それ次第では、どのような傾向の策を講じてどのように戦を展開するかが見えてくるからである。
(一か八か、接触するか。)
すると、行商人は民衆を押しのけ始める。そして民衆の最前列に来たときに、敢えて民衆に押し出されたような感じで義元たちの前へと転げ出てきた。
「何者か!」
咄嗟に護衛が懐から刀を取り出す。それに対して、行商人はヒッと小さく悲鳴を上げた。
「す、すみませぬ。押し出されてしまって…ヒィ!」
行商人がビクビクと震えるのを見て、俺はジーッと見ていた。
「なんかさー、君ただ者じゃないよね。」
「は?」
(まさかこやつ、わしの正体を…!?)
行商人は動揺を顔には出さないようにして義元におそるおそる聞いた。
「ど、どうしてそのようにお思いに…?」
俺は腕を組んで考え込む。
「うーん、何かさっきから演技っぽい気がして。なんか顔つきとか雰囲気がただ者じゃない感じだったし。」
「雰囲気、ですか?」
「何となくねー。まっ、俺の勘違いかもだけど。」
(本気で言っているのか、この男は…)
行商人は言葉を疑った。自分で言うのもなんだが、演技には自信があった。今まで、あまたの人々を欺いてきた。それが現在“何となく“で見破られたのかもしれないのだ。
行商人はゴクッと唾を呑んだ。
(この勘の良さ…危険だ。今なら殺せる距離だが…)
しかし、行商人はすぐに思い直す。
(元より駿府に来たのは情報収集のため…ここは一度退こう。)
それに今暗殺をしようものなら、その前に護衛に阻止されて失敗してしまうだろう。
すると行商人はヨロヨロと立ち、
「わしはそんな立派な人ではありませぬよ~」
と、ニヘラと笑って見せた。
「俺の勘違いかなー。疑ってごめんね。」
「いえいえ、殿に勘違いをさせるわしが悪うござるのです。」
行商人はそう言って、ササッとその場から去っていった。
そしてその後は特に何も起こらず、俺たちは視察を楽しみ駿府館へと帰っているときのこと、
「コホッコホッ…」
「大丈夫?」
突然咳き込んだ多恵を俺は心配していた。
「大丈夫、むせただけにございまする。」
「そっか、なら良かった。」
俺はホッと安心して、ニコッと笑った。
その笑顔が多恵にとって、とても眩しい太陽のようなものだった。
今日はとても楽しい一日だった。
きっとこの日も思い出として永遠に自身の記憶に残るだろう。
殿や可愛い子供たち、そしてこの町に住む人々。かけがえのない私の大切な人々。
多恵は誰にも聞き取られないような声でボソッとつぶやいた。
「…ずっとそばにいられたら良いのに……」
「なんか言った?」
「いいえ、何でもありませぬ。」
多恵は殿の横でニコリと笑う。
俺にとって、その笑顔が眩しい太陽のようなものなのは言うまでもない。
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