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第8章 地獄のカップル。
第5話 地獄のカップル。
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垂直離着陸型V-TOL型の12機の訓練用自衛隊オービターは、ハワイ訓練場の滑走路に所狭しと並んで駐機していた。
その先に自衛隊オービターより更にバカデカい、120メートル級のビックマム4機が並んで駐機している姿は、まさに壮観だった。
朝日を受けて黄金色に輝くオービターの各機。
36機の機動モービルもすでに簡単な整備を受けて格納作業が始まっていた。
各部隊のパイロットたちが、2機のビックドクで検診を受けた後、簡易イスに座りながら訓練報告と次の訓練準備の告知のブリーフィングを訓練将官から受けていた。
昇る朝日が戦士たちを照らしている。
反省会と告知が終わった部隊ごとオービターに乗る前の時間をおのおの過ごし始めた。
麗子チームのビックドクの前では朝食の炊き出しの大型テントが並び、軍空港スタッフやオービターパイロット、バックアップスタッフなどが、モービルパイロットより先に暖かい各種スープやファーストフードのケータリングで舌鼓をならしていた。
一緒に食事をしながら敵役の米陸軍の機動モービルHARMORパイロットたちと千歳シーラスワンの面々、ビックドクの医師達と親睦を深めていた。
ほとんどの小隊がブリーフィングも終わり、食事を始めた中で、なかなかブリーフィングの終わらない小隊があった。
小林小隊だった。
他の小隊に先駆けて試験訓練を繰り返していた、言い出しっぺの小林小隊。
慣れが入ったのか、ルオが他の小隊のスナイパーHARMORのタイミングを合わせず、先に上昇し単独行動をしたためだった。
敵役の教習アグレッサーの機動モービルHARMORや、審判役のパワード・スーツWALKERの準備が遅れて、地上ではてんやわんやの大騒ぎだったらしい。
第2大隊の日本国軍側の司令訓練教官から、かなり激しい叱責をうける小林小隊だった。
その少し離れた所で、ポツンとひとりで、きよしを待っているジェシカがいた。
給油トラックに寄りかかり、笑って叱責を受ける小林小隊のきよし・椎葉少尉を見ていた。
もう、きよしと付き合っているのが軍全員にバレたので、隠す必要がない。
堂々としたものである。
そんな大隊長のジェシカに気が付き、叱責を中断して敬礼する司令訓練教官。
ジェシカ・スミス中佐はこの第2大隊の若き大隊長様なのだ。
因みに、同じ訓練を受けた第1大隊は、訓練派遣されたポーランド宇宙軍のバルトシュ・カミンスキ中佐(千歳シーラスワン第1宙空急襲攻撃特別訓練大隊・大隊長)がポーランドパイロット18機、6つの小隊をまとめていた。
既に各小隊のブリーフィングも終わり、カミンスキ中佐の第1訓練大隊はケータリングに並んでいる。
訓練教官に怒られている小林小隊をテントの中からのぞいて見て、大笑いをしていた。
叱責の続きを受ける小林たち3人。
後ろからジェシカの笑い声に気が付き、振り向いてジェシカを見るきよし。
「こらっ!椎葉少尉!どこをみている!集中力がない!お前は小学生か!」
「はははっ!きよし、姉さん女房が来たんだわさ。はははっ。!」
「父兄参観みたいだなっ!あははっ。」
同じく、ジェシカを見ながら冷やかすルオと小林。
そんな2人にも怒る訓練教官。
「やかましい!バカ者っ!小林大尉と黄少尉!まだ終わっとらん!真剣に聞け3人とも!」
「あっすみません。はははっ。……ベェ。」
謝りながら、司令官に下を向いて、小さく舌を出すルオ。
「あっ!こらっ!上官に舌を出しやがった!黄少尉っ!出したな!この野郎っ!」
怒られる3人を見て手を叩いて笑うジェシカだった。
「アハハハッ!もう、ルオったら。」
そのジェシカの横に麗子とオリエッタが来た。
ジェシカに、温かいコンソメスープが入ったマグカップを渡すオリエッタ。
「あっ!オリエッタ博士。有難うございます。」
スープをすするジェシカ。
「ズッ。あー!美味しいです。ズズッ。」
そのジェシカの腰に腕をまわす麗子。
「だけど、あんたさジェシカ。とうとう軍にバレちゃったわね~。あははっ。」
いやらしい目をして、肩でジェシカをつつくオリエッタ。
他人事のように、楽しんで話すのだった。
続けて話すオリエッタ。
「もう、ジェシー。面倒だから、この際、千歳の軍のマンション引き払って、栗山に住んじゃえ!ね~麗子っ!きよし君の実家、農業も縮小してさ。道場の子弟達も独立してさ、ベット付きの空き部屋が6つもあるんだし。2階の居間も使ったらいいし。今はアイラちゃんの家具がちょこっとあるだけだし。ねぇ。」
「そう、そう!同じ大隊で休み一緒なんだからさ。ジェシーっ!そうしな。あははっ。京子姉さんも早く孫の顔みたいだろうし。あはははっ。」
「えーっ、孫っだなんて。まだ早いですぅ~。付き合い始めてまだ、半年も経ってないんですよ~。……うふふっ。」
怒られているきよしをニコニコしながら見つめ、スープをすするジェシカ・L・D・G・スミス中佐(千歳シーラスワン第2宙空急襲攻撃特別訓練大隊・大隊長)だった。
まんざらでもないジェシカの横顔をオタマジャクシのようなイヤらしい目でジェシカを見る麗子とオリエッタ両博士だった。
ケータリング用テントでは、ブリーフィングを終えたHARMORパイロットたちが食事を摂り始めている。
そのテントの端に座る、ドョーンとした集団がいた。
「うわ~、本当に付き合ってたんだ。うわ~。「俺の嫁(日本語)」、俺のジェシ~。俺の女神様~。ずっときよしを見てるよなー、絶対。」
きよしを腕を組んで待っているジェシカを見て、頭をがっくり下げる同じ第2訓練大隊の英国No1.コマンダー・HARMORパイロット、トミー・ランカスター大尉。
ランカスター大尉と、シラケムードが漂う千歳シーラスワンの独身パイロットの7名の面々。
顔を上げたランカスター大尉がスプーンを握ったまま頬杖をついた。
「まぁ、でもきよしは良いヤツだし。なんとも言えない気持ちだなぁ。悔しいけど。同じ第2訓練大隊で気張って一緒に頑張ったからなぁ。きよしは、俺も好きだしなぁ。おい、この気持!なんとかしてくれ~。」
後ろからまた1人、悲しい独身貴族がやって来た。
「もう、どういう事なんだ。まったく。トミーそれ、それどけて。よいしょっと。」
ケータリングの大皿を持って、トミー・ランカスター大尉の横に座る、ポーランド特別宇宙軍JWコスモスのレオン・ノヴァック中尉。
8名の独身貴族が揃った。
そのレオンが、頬杖をつく隣のトミーの肩を持って、シミジミ語った。
「正直、さすがに御舩閣下がメインに出て、京子博士がジェシーの名前を呼んだ時(ぇえっ!マジかよ~!)って。それも、椎葉と、俺のジェシカが付き合ってただなんて!今年最大のショックだった。いや、人生最大のショックかもしれない。」
食事のスプーンも進まず、横に映る現実を確認するたびに、ドヨーンとするテントの中からジェシカを見るポーランド、英国、台湾、女真帝国の独身パイロットたちだった。
そこへローマン・マズル大佐たちの千歳シーラスワンのベテランパイロットたちがテントに入って来た。
敵役の米軍機動モービルのアグレッサー(教官)HARMOR部隊をまとめ、自らも敵役に勤めていたローマン・マズル大佐だった。
他のシーラスワンの敵役の先輩パイロット連中と、笑いながらケータリングテントにやって来た。
(( ザザッ! ))
大型テントの千歳シーラスワンの配属新人の全員が起立し、敬礼をした。
その他のスタッフはそのまま食事をしたり、談笑をしていた。
ケータリングの方に歩きながら、ニコニコと返礼をするローマンとアグレッサーパイロットたち。
緊張し、敬礼のまま立っている新人たちに笑いながらローマンが手で押さえた。
「マァマァ、楽にして。楽にして。」
座る、32名のHARMORパイロット。
そして、テント全員に聞こえるように大声で告知した。
「いいか!あと10分もすると今回の成績が出る。今回の訓練が2大隊合同の最後の成績だな。以後、各小隊および大隊ごとの訓練になる。再来月、7月の実戦配備まで、各人。弱点をシュミレーターと個別訓練でしっかり克服しておけよ。今のままなら命が幾つあっても足らんぞ。いいか?」
(( イエッサー! ))
再び立ち上がり敬礼をして元気よく答える訓練生たちだった。
ニコニコしながらスマハンドの時計を見る大佐。
「8時30分に全大隊集合だ。これから3時間近くはのんびり出来るな。はははっ!司令官からの訓示の後、千歳に帰る。以上だ。」
(( イエッサー!))
返礼をしてケータリングに並ぶローマン大佐。
そして、席に着く訓練生たち。
また、ボヤキ始める独身のさえない各国のトップガン独身貴族たち。
「なんかぁさ……。また、きよしがトップなんだろうなぁ。俺、ローマン大佐から3発食らった。もう、敵司令ポイント、ゲッ!と、思って隙があったんだろうなぁ。至近距離からだぜ、信じられない。」
頭と、胸と肩を叩くノヴァック中尉。
顔を真っ赤にして、下を向いて話すトミー・ランカスター大尉。
「俺は、きよしのお陰で、ウチのイギリスの小隊が生き残れたけど。ヤツは凄すぎる。初動で、初動だぜ。馬乗りになってアグレッサー・スナイパー3機撃破って、訓練なのに急に俺、怖くなった。味方の俺たちが恐怖するなんて。味方で良かったってつくづく思ったわ。ハハハッ。笑うしかない。部下にはこんな気持ち言えないわ。ほんと。」
首を振りながら黙ってケータリングを見つめ始める独身貴族たち。
そんな中、成績発表のシーラス訓練司令部の上級将校が拡声器を持ってテントに入って来た。
ラーミス・ドーン、ドバイ宙軍准将がだった。
そして、自分のスマハンドを見ながら、拡声器を口に当てた。
「あっ!いよいよ成績発表だ。」
「おっ!」
食器をテーブルに置いて、かしこまる独身貴族チーム。
「コンチネンタル・バリステック13!チーム最高得点は……。第2大隊、大隊長のジェシカ・スミス小隊。得点は11,567ポイント。」
誰もが小林、椎葉、黄のチームと思っていたのが、外れて驚いていた。
テント内が騒然とした。
(( オォーッ! ))
驚くトミー・ランカスター大尉とレオン・ノヴァック中尉だった。
「えー!マジッかよ!」
「未央の小林小隊じゃないのかよ~。ウソだろ~!きよしがいるだろ。ルオも!」
小林のチームは黄ルオのミスにより、ペナルティーで減点を受けたのだ。
テントの外で、今も訓練司令から絞られていたのだ。
全員がテントの外を振り向くと、ジェシカが両腕を上げてからガッツポーズをした。
(( オォー! ))
(( ピーッ!ピュー! ))
拍手と口笛が沸くテント内。
ジェシカ小隊の2人の女性HARMORパイロットが、テントを飛び出してジェシカに抱き着いた。
( きゃーっ! )
「ついに隊長!一番になれました。」
「きゃー!ジェシー!やったー!」
ジェシカに抱き着く2人の部下。
USASFの天才スナイピング・ガンナー、リリアナ・ヒューズ少尉21歳と、全米の陸軍ナンバーワン・コマンダーパイロットのジュリア・T・ジャクソン大尉24歳だった。
彼女らは千歳に来てから、いつも1番を小林小隊にとられ、2番手3番手をうろうろしていた。
その彼女たちジェシカ・スミス中佐の小隊が念願のチーム成績1番を2大隊合同訓練最終日に取れ、喜びも一入だった。
その喜びに沸くジェシカたち。
それに振り向く小林たち3人。
すかさず訓練司令教官が3人を注意する。
「コラッ!どこを見てるお前たち!」
また叱られる小林小隊だった。
(( アハハハッ! ))
そのやり取りをみてケータリングテントは爆笑の渦だった。
頭を下げて、司令に見られないように下からジェシカをニッコリ見るきよし。
親指を上げてグットサインをジェシカにした。
そのジェシカも投げキッスをきよしにした。
ニコニコとジェシーときよしを見る2人の女性部下たち。
コマンダーHARMORに乗るジュリア・T・ジャクソンが笑顔で、ジェシカの両手を握った。
「ジェシー、椎葉少尉との続・恋バナ、帰りのオービターで楽しみにしてますわ。うふふ。失礼します。」
敬礼をするジュリア。
リリアナ・ヒューズもジェシカの手を握る。
「ジェシー、ホント良かった。テントで待ってるから。」
「ジュリーも、リリィも。リラックスしてね。私もすぐ行くわ。きよちゃんたち小林小隊と一緒に食べようか。今日は、2人共、本当に有難う。最後の最後に努力が報われたわね。」
2人に敬礼をするジェシカ。
そしてジェシカに返礼をする2人の美女パイロットたち。
2人がジェシカに手を振り、モデルの様にテントに向かって歩いて行くと、独身パイロットたちやスタッフから拍手や、指笛が聞こえてくる。
( ピューピューッ! )
( パチ、パチ、パチ! )
テントを見て腕を組んで苦笑いするジェシカ。
そして、振り向くときよしと目が合う。ジェシカは、即座に熱い投げキッスをした。
そのラブラブな2人を見て、訓練司令教官が呆れてしまった。
テントの中の全員がこちらを見て注目もしている。
その空気を察して、とうとう司令官も負けてしまった。
「……ははっ。そうか、解った解った。今回は誰も、ケガもせず無事に終わった。これで指導を終わる。ははっ。小林小隊!8時30集合だ!遅れるなよ!それでは起立っ!」
立ち上がる3人。
「それでは、解散っ!」
(( ハッ! ))
敬礼をする司令官と小林小隊。
司令官も、書類を檀上で片づけ始めた。
立ち上がろうとするきよしに、ジェシカが抱き着き、熱いキスをした。
その2人に驚いて、手で顔を隠して笑う未央とルオだった。
司令官も呆れて、ケータリングテントに向かった。
「アチャー!もう、いままで隠して来たのにぃ。ねぇ未央っ。」
「まあまぁ、いいじゃないかルオ。もう、腹減った。飯にしよう。」
「んだね。ちょっと!きよし!ジェシー!行くよ。」
抱き合ったままのきよしとジェシー。
我に返り照れ始めた。
そして、お互いの腰に腕を回し、楽しく話ながらテントに歩いて行った。
その後を笑いながら小林とルオが笑いながらついて行く。
テントの中では依然、成績の発表が続いていた。
独身8人の席は更に、どよ~んとした空気になっている。
羨ましそうに横を通る2人を見る独身パイロットの面々。
そんな席の横をきよしとジェシカは腰に手を回したまま楽しそうに話をしながらケイタリングの列にならんだ。
チームごとの成績発表が終わり各個人成績、アタッカー、スナイパー、コマンダー毎の成績発表が始まる。
ニコニコして食事をしながら聞くローマンのベテランパイロット席。
そして、息を呑んで成績を聞く準備をするジェシカ小隊の女性2人。
それに引き替え、ドョーンとしたままの独身パイロット席。
話し声が止み、急に皆、真剣に聞き始めた。
「それでは本日、最後の発表です。コンチネンタル・バリステック13!個人成績の発表です。」
シーンと静まり返るケータリングテント。
「それでは第1位……。」
息を呑む独身パイロットたち。
「まずはアタッカーの個人成績です。自己被弾0、完全破壊15機、行動不能5機、得点は3450ポイント。きよし・椎葉少尉です。小隊ペナルティー1000ポイントを差し引いた成績です。」
(( 何っ! ))
(( なんだって。 ))
(( うわー! ))
(( オーマイガッ! ))
(( マジかよ~!史上最高得点。うわぁー。 ))
ケータリングテントに歓喜の声が上がった。
( うわ~凄すぎる~! )
( たった市街地エリア10分でって。すごっ!ペナルティー入ってるんだろ!凄すぎっ! )
( 神の降臨だ!絶対きよしと戦いたくない。凄すぎ! )
テントに拍手と大歓声が沸いた。
ドヨーンとした独身パイロット8人は大きく目を開き口を開けたまま、ゆっくりきよし達を見た。
開けた口からスプーンを落とすトミー・ランカスターRSF大尉。
椎葉きよしは、もはや、適わぬ相手だったのだ。
ジェシカは自慢の彼氏を見上げてから、背伸びして両手でお子ちゃま顔の頬をはさみ思いっきりキスをした。
そして、きよしに抱き着いた。
( ピューピュー!パチパチパチッ! )
その2人を向いてテントの拍手が鳴りやまない。
「ゴホン、それで次にアタッカー第2位は、自己被弾2、完全破壊6、行動不能6機、得点は1989ポイントのジェシカ・L・D・G・スミス中佐です。」
( アグレッサーと、ヒール役のモービル50機投入で、2人で半分以上じゃないか。 )
( なんじゃそりゃ。どんなカップルなんだよ! )
( シバの神無双!きよし無双っ! )
( ミーティス(ジェシカ機コール名)って女神だよね。実は地獄の女神なん? )
( 地獄の使徒カップル! )
( 出た。 )
( 地獄のカップル! )
再び拍手に湧くテント。
きよしが今度はジェシカを腰下か片手で持って、抱き上げた。
手を上げて喜ぶジェシカ。
きよしの肩の上で身を縮めてきよしに熱いキスをした。
それを見て、ドョーン・レベルが更に急上昇した独身貴族チームだった。
( アチャー。 )
( もう無理。 )
( お、俺の嫁がぁ。 )
それから、上位5人毎のスナイパー、コマンダーの発表が続いた。
それ以外のチーム成績、個人成績はすべてスマハンドで見ることが出来た。
もちろんスナイパー1位はルオ。2位はもちろんリリアナ・ヒューズ。
コマンダー個人成績部門1位は未央だった。2位も同じくジェシカ小隊のジュリア・T・ジャクソン。
この小林小隊はペナルティーを受けた上での個人成績だったのだ。
小林小隊3人の成績は、機動モービルHARMORを保有する小国1国を凌ぐ成績なのだ。
今回の2大隊合同訓練では、教官のアグレッサー・チームや敵役モービルのパイロットは、千歳シーラスワンで数多くの実戦を経験し生き残った大ベテラン達だ。
ロシアやベラルーシとの中央ヨーロッパ国境防衛戦線、AXISとの熱河防衛戦線などで生き残った彼等だった。
しかし、今回の訓練ではその歴戦練磨のベテラン達が、訓練配属1か月のド新人にやられたのだ。
それまでの訓練内容は島嶼防衛訓練(離島へオービターから通常降下、その後は砲撃戦か白兵戦)、砲撃戦中心の山岳地帯や、白兵戦中心の市街地での模擬戦闘訓練だった。
市街地戦は決着には2日かかる事もあった。
ところがだ。
今回のロフテッド軌道からの急襲突撃降下訓練は大ベテランや実戦を経験したハズの司令官には大きなショックだった。
たった30分も経たず敵役モービルが全滅したのだ。
新たに観戦武官で参加したシラス加盟国軍の各国の司令官、戦略戦術上級指揮官達は事実を認めざるを得なかった。
特に、HARMORに対し否定的な各国の将官たちには大きなショックとなったのだった。
この米陸軍ハワイ島訓練場は島嶼部、平野部、森林部、都市部の全てが揃った訓練場である。
その中で、今回は一番厳しいとされる都市部エリアだった。
それも初めての市街地訓練場で小林小隊は最高得点を上げたのだった。
スマハンドで自分の成績を見て、ガッカリする者、天井を見て闘志を燃やす者、様々な反応が続いて行く。
そんな湧き上がるケータリングテントの中では、余裕を持って食事するアグレッサー部隊のベテランパイロットの面々もいた。笑いながらのひと時。
余裕の食事風景だった。
肩、胸、背中を叩いて被弾箇所を仲間に教えるローマン大佐。
隣のパイロットに笑いながら話し始める。
「きよしの完全破壊17機の内の1機は俺だ。はははっ。叔父さん参った参った。教え子にな。もう、誰もきよしに敵わない。きよしは旧型のカワサキの34式で、椎葉専用機体での訓練か。俺たちヒール役は新型、ロールアウトしたばかりのファイティングシリーズ。新型だぜ。新型。俺のファイティング・スーなら、調子に乗ったきよしへ、少しは、お灸据えたろうと思ったけど。どうして、どうして。本当に、かすりもしないわ。アハハハッ。」
「マジですか?大佐。」
ローマンの話を驚きながら聞いていた、同じヒール役のUSAF正規教官パイロットだった。
「マジだ。なるほど、対馬でのきよしの凄い戦果が改めて納得出来た。はははっ、凄いわ。あ奴めには、機体の性能の優劣は全く関係ない。もうきよしに敵わん。少なくとも地球上、誰もな。」
そこへ、到着したローマンの妻のオリエッタ博士が、野菜一杯のケータリング皿を持ってローマンの横に座った。
キスの挨拶をする夫妻。
オリエッタが自分の持ってきた野菜をローマンの皿に移しながら、ローマンに小言を言った。
「パパッ、もう野菜摂らないと。これ食べなさい。もうパパは肉ばっかり。(ポーランド語)」
ローマンの部下達や米国陸軍パイロット達が夫婦を見て笑い始める。
周りの目を気にして、皿に野菜を盛るローマン。
「はいはい。わかってるべや、ごめんなさい。食べるべさ。はい、お野菜一杯食べんべ。(北海道弁)」
いきなりの北海道弁で、目を丸くするアグレッサー教官たち。
苦笑いのオリエッタ博士。
部下の目線を気にしながら、少し照れて、モリモリと野菜を食べるローマンだった。
そのローマンの横に座っているUSAFパイロットが、ローマンの肩を叩き、前方のテントの奥に座るきよしとジェシカをスプーンで指した。
ジェシカの部下の美女2人と小林やルオが楽しく話をしながら食べている。
その横に座るジェシカが自分のケータリング皿の野菜をきよしの皿に移して、何やら文句を言っていた。
ハンバーグやソーセージばかりのきよしのケータリング皿。
怒られた子供のように、しょんぼり黙って野菜を食べ始めていたのだった。
( おほほほっ。 )
スプーンを持った手で口を隠して笑うオリエッタ。
一緒に笑うアグレッサー教官たち。
「栗山でも、ジェシー。きよしちゃんにね、ジンギスカンの肉ばっかり食べてたきよしに、健康考えてモヤシや、タマネギを無理やり食べさせていたわね~。うふふふっ!さすが姉さん女房。京子も焼き餅焼くわけだ。(ポーランド語)」
「えっ?京子姉さん、ジェシーに焼き餅焼いてるの?なんでだべ?ジェシーも、京子姉さんも、弐人とも仲いいべさ。(北海道弁)えっ?えっ?ジェシーを、正月に栗山の実家に連れてったの俺。きっかけ作ったのも俺!なんか罪悪感するわ~。京子姉さんとジェシー、関係よくないの?(ポーランド語)」
「もうパパったら。トルンのお母さんも一緒よ。男は鈍いわね~。おほほほっ。ほらっ早く野菜お食べっ。一人息子だもの。女って幾つになっても、そんなものよ。おほほほ。(ポーランド語)」
「んだかぁ?良くわかんね~べさ。(北海道弁)」
黙って野菜を食べるローマン大佐。
それを見つめるオリエッタ。
その2人の先では野菜を食べるきよしを、優しい笑顔で見つめるジェシカが居た。
その先に自衛隊オービターより更にバカデカい、120メートル級のビックマム4機が並んで駐機している姿は、まさに壮観だった。
朝日を受けて黄金色に輝くオービターの各機。
36機の機動モービルもすでに簡単な整備を受けて格納作業が始まっていた。
各部隊のパイロットたちが、2機のビックドクで検診を受けた後、簡易イスに座りながら訓練報告と次の訓練準備の告知のブリーフィングを訓練将官から受けていた。
昇る朝日が戦士たちを照らしている。
反省会と告知が終わった部隊ごとオービターに乗る前の時間をおのおの過ごし始めた。
麗子チームのビックドクの前では朝食の炊き出しの大型テントが並び、軍空港スタッフやオービターパイロット、バックアップスタッフなどが、モービルパイロットより先に暖かい各種スープやファーストフードのケータリングで舌鼓をならしていた。
一緒に食事をしながら敵役の米陸軍の機動モービルHARMORパイロットたちと千歳シーラスワンの面々、ビックドクの医師達と親睦を深めていた。
ほとんどの小隊がブリーフィングも終わり、食事を始めた中で、なかなかブリーフィングの終わらない小隊があった。
小林小隊だった。
他の小隊に先駆けて試験訓練を繰り返していた、言い出しっぺの小林小隊。
慣れが入ったのか、ルオが他の小隊のスナイパーHARMORのタイミングを合わせず、先に上昇し単独行動をしたためだった。
敵役の教習アグレッサーの機動モービルHARMORや、審判役のパワード・スーツWALKERの準備が遅れて、地上ではてんやわんやの大騒ぎだったらしい。
第2大隊の日本国軍側の司令訓練教官から、かなり激しい叱責をうける小林小隊だった。
その少し離れた所で、ポツンとひとりで、きよしを待っているジェシカがいた。
給油トラックに寄りかかり、笑って叱責を受ける小林小隊のきよし・椎葉少尉を見ていた。
もう、きよしと付き合っているのが軍全員にバレたので、隠す必要がない。
堂々としたものである。
そんな大隊長のジェシカに気が付き、叱責を中断して敬礼する司令訓練教官。
ジェシカ・スミス中佐はこの第2大隊の若き大隊長様なのだ。
因みに、同じ訓練を受けた第1大隊は、訓練派遣されたポーランド宇宙軍のバルトシュ・カミンスキ中佐(千歳シーラスワン第1宙空急襲攻撃特別訓練大隊・大隊長)がポーランドパイロット18機、6つの小隊をまとめていた。
既に各小隊のブリーフィングも終わり、カミンスキ中佐の第1訓練大隊はケータリングに並んでいる。
訓練教官に怒られている小林小隊をテントの中からのぞいて見て、大笑いをしていた。
叱責の続きを受ける小林たち3人。
後ろからジェシカの笑い声に気が付き、振り向いてジェシカを見るきよし。
「こらっ!椎葉少尉!どこをみている!集中力がない!お前は小学生か!」
「はははっ!きよし、姉さん女房が来たんだわさ。はははっ。!」
「父兄参観みたいだなっ!あははっ。」
同じく、ジェシカを見ながら冷やかすルオと小林。
そんな2人にも怒る訓練教官。
「やかましい!バカ者っ!小林大尉と黄少尉!まだ終わっとらん!真剣に聞け3人とも!」
「あっすみません。はははっ。……ベェ。」
謝りながら、司令官に下を向いて、小さく舌を出すルオ。
「あっ!こらっ!上官に舌を出しやがった!黄少尉っ!出したな!この野郎っ!」
怒られる3人を見て手を叩いて笑うジェシカだった。
「アハハハッ!もう、ルオったら。」
そのジェシカの横に麗子とオリエッタが来た。
ジェシカに、温かいコンソメスープが入ったマグカップを渡すオリエッタ。
「あっ!オリエッタ博士。有難うございます。」
スープをすするジェシカ。
「ズッ。あー!美味しいです。ズズッ。」
そのジェシカの腰に腕をまわす麗子。
「だけど、あんたさジェシカ。とうとう軍にバレちゃったわね~。あははっ。」
いやらしい目をして、肩でジェシカをつつくオリエッタ。
他人事のように、楽しんで話すのだった。
続けて話すオリエッタ。
「もう、ジェシー。面倒だから、この際、千歳の軍のマンション引き払って、栗山に住んじゃえ!ね~麗子っ!きよし君の実家、農業も縮小してさ。道場の子弟達も独立してさ、ベット付きの空き部屋が6つもあるんだし。2階の居間も使ったらいいし。今はアイラちゃんの家具がちょこっとあるだけだし。ねぇ。」
「そう、そう!同じ大隊で休み一緒なんだからさ。ジェシーっ!そうしな。あははっ。京子姉さんも早く孫の顔みたいだろうし。あはははっ。」
「えーっ、孫っだなんて。まだ早いですぅ~。付き合い始めてまだ、半年も経ってないんですよ~。……うふふっ。」
怒られているきよしをニコニコしながら見つめ、スープをすするジェシカ・L・D・G・スミス中佐(千歳シーラスワン第2宙空急襲攻撃特別訓練大隊・大隊長)だった。
まんざらでもないジェシカの横顔をオタマジャクシのようなイヤらしい目でジェシカを見る麗子とオリエッタ両博士だった。
ケータリング用テントでは、ブリーフィングを終えたHARMORパイロットたちが食事を摂り始めている。
そのテントの端に座る、ドョーンとした集団がいた。
「うわ~、本当に付き合ってたんだ。うわ~。「俺の嫁(日本語)」、俺のジェシ~。俺の女神様~。ずっときよしを見てるよなー、絶対。」
きよしを腕を組んで待っているジェシカを見て、頭をがっくり下げる同じ第2訓練大隊の英国No1.コマンダー・HARMORパイロット、トミー・ランカスター大尉。
ランカスター大尉と、シラケムードが漂う千歳シーラスワンの独身パイロットの7名の面々。
顔を上げたランカスター大尉がスプーンを握ったまま頬杖をついた。
「まぁ、でもきよしは良いヤツだし。なんとも言えない気持ちだなぁ。悔しいけど。同じ第2訓練大隊で気張って一緒に頑張ったからなぁ。きよしは、俺も好きだしなぁ。おい、この気持!なんとかしてくれ~。」
後ろからまた1人、悲しい独身貴族がやって来た。
「もう、どういう事なんだ。まったく。トミーそれ、それどけて。よいしょっと。」
ケータリングの大皿を持って、トミー・ランカスター大尉の横に座る、ポーランド特別宇宙軍JWコスモスのレオン・ノヴァック中尉。
8名の独身貴族が揃った。
そのレオンが、頬杖をつく隣のトミーの肩を持って、シミジミ語った。
「正直、さすがに御舩閣下がメインに出て、京子博士がジェシーの名前を呼んだ時(ぇえっ!マジかよ~!)って。それも、椎葉と、俺のジェシカが付き合ってただなんて!今年最大のショックだった。いや、人生最大のショックかもしれない。」
食事のスプーンも進まず、横に映る現実を確認するたびに、ドヨーンとするテントの中からジェシカを見るポーランド、英国、台湾、女真帝国の独身パイロットたちだった。
そこへローマン・マズル大佐たちの千歳シーラスワンのベテランパイロットたちがテントに入って来た。
敵役の米軍機動モービルのアグレッサー(教官)HARMOR部隊をまとめ、自らも敵役に勤めていたローマン・マズル大佐だった。
他のシーラスワンの敵役の先輩パイロット連中と、笑いながらケータリングテントにやって来た。
(( ザザッ! ))
大型テントの千歳シーラスワンの配属新人の全員が起立し、敬礼をした。
その他のスタッフはそのまま食事をしたり、談笑をしていた。
ケータリングの方に歩きながら、ニコニコと返礼をするローマンとアグレッサーパイロットたち。
緊張し、敬礼のまま立っている新人たちに笑いながらローマンが手で押さえた。
「マァマァ、楽にして。楽にして。」
座る、32名のHARMORパイロット。
そして、テント全員に聞こえるように大声で告知した。
「いいか!あと10分もすると今回の成績が出る。今回の訓練が2大隊合同の最後の成績だな。以後、各小隊および大隊ごとの訓練になる。再来月、7月の実戦配備まで、各人。弱点をシュミレーターと個別訓練でしっかり克服しておけよ。今のままなら命が幾つあっても足らんぞ。いいか?」
(( イエッサー! ))
再び立ち上がり敬礼をして元気よく答える訓練生たちだった。
ニコニコしながらスマハンドの時計を見る大佐。
「8時30分に全大隊集合だ。これから3時間近くはのんびり出来るな。はははっ!司令官からの訓示の後、千歳に帰る。以上だ。」
(( イエッサー!))
返礼をしてケータリングに並ぶローマン大佐。
そして、席に着く訓練生たち。
また、ボヤキ始める独身のさえない各国のトップガン独身貴族たち。
「なんかぁさ……。また、きよしがトップなんだろうなぁ。俺、ローマン大佐から3発食らった。もう、敵司令ポイント、ゲッ!と、思って隙があったんだろうなぁ。至近距離からだぜ、信じられない。」
頭と、胸と肩を叩くノヴァック中尉。
顔を真っ赤にして、下を向いて話すトミー・ランカスター大尉。
「俺は、きよしのお陰で、ウチのイギリスの小隊が生き残れたけど。ヤツは凄すぎる。初動で、初動だぜ。馬乗りになってアグレッサー・スナイパー3機撃破って、訓練なのに急に俺、怖くなった。味方の俺たちが恐怖するなんて。味方で良かったってつくづく思ったわ。ハハハッ。笑うしかない。部下にはこんな気持ち言えないわ。ほんと。」
首を振りながら黙ってケータリングを見つめ始める独身貴族たち。
そんな中、成績発表のシーラス訓練司令部の上級将校が拡声器を持ってテントに入って来た。
ラーミス・ドーン、ドバイ宙軍准将がだった。
そして、自分のスマハンドを見ながら、拡声器を口に当てた。
「あっ!いよいよ成績発表だ。」
「おっ!」
食器をテーブルに置いて、かしこまる独身貴族チーム。
「コンチネンタル・バリステック13!チーム最高得点は……。第2大隊、大隊長のジェシカ・スミス小隊。得点は11,567ポイント。」
誰もが小林、椎葉、黄のチームと思っていたのが、外れて驚いていた。
テント内が騒然とした。
(( オォーッ! ))
驚くトミー・ランカスター大尉とレオン・ノヴァック中尉だった。
「えー!マジッかよ!」
「未央の小林小隊じゃないのかよ~。ウソだろ~!きよしがいるだろ。ルオも!」
小林のチームは黄ルオのミスにより、ペナルティーで減点を受けたのだ。
テントの外で、今も訓練司令から絞られていたのだ。
全員がテントの外を振り向くと、ジェシカが両腕を上げてからガッツポーズをした。
(( オォー! ))
(( ピーッ!ピュー! ))
拍手と口笛が沸くテント内。
ジェシカ小隊の2人の女性HARMORパイロットが、テントを飛び出してジェシカに抱き着いた。
( きゃーっ! )
「ついに隊長!一番になれました。」
「きゃー!ジェシー!やったー!」
ジェシカに抱き着く2人の部下。
USASFの天才スナイピング・ガンナー、リリアナ・ヒューズ少尉21歳と、全米の陸軍ナンバーワン・コマンダーパイロットのジュリア・T・ジャクソン大尉24歳だった。
彼女らは千歳に来てから、いつも1番を小林小隊にとられ、2番手3番手をうろうろしていた。
その彼女たちジェシカ・スミス中佐の小隊が念願のチーム成績1番を2大隊合同訓練最終日に取れ、喜びも一入だった。
その喜びに沸くジェシカたち。
それに振り向く小林たち3人。
すかさず訓練司令教官が3人を注意する。
「コラッ!どこを見てるお前たち!」
また叱られる小林小隊だった。
(( アハハハッ! ))
そのやり取りをみてケータリングテントは爆笑の渦だった。
頭を下げて、司令に見られないように下からジェシカをニッコリ見るきよし。
親指を上げてグットサインをジェシカにした。
そのジェシカも投げキッスをきよしにした。
ニコニコとジェシーときよしを見る2人の女性部下たち。
コマンダーHARMORに乗るジュリア・T・ジャクソンが笑顔で、ジェシカの両手を握った。
「ジェシー、椎葉少尉との続・恋バナ、帰りのオービターで楽しみにしてますわ。うふふ。失礼します。」
敬礼をするジュリア。
リリアナ・ヒューズもジェシカの手を握る。
「ジェシー、ホント良かった。テントで待ってるから。」
「ジュリーも、リリィも。リラックスしてね。私もすぐ行くわ。きよちゃんたち小林小隊と一緒に食べようか。今日は、2人共、本当に有難う。最後の最後に努力が報われたわね。」
2人に敬礼をするジェシカ。
そしてジェシカに返礼をする2人の美女パイロットたち。
2人がジェシカに手を振り、モデルの様にテントに向かって歩いて行くと、独身パイロットたちやスタッフから拍手や、指笛が聞こえてくる。
( ピューピューッ! )
( パチ、パチ、パチ! )
テントを見て腕を組んで苦笑いするジェシカ。
そして、振り向くときよしと目が合う。ジェシカは、即座に熱い投げキッスをした。
そのラブラブな2人を見て、訓練司令教官が呆れてしまった。
テントの中の全員がこちらを見て注目もしている。
その空気を察して、とうとう司令官も負けてしまった。
「……ははっ。そうか、解った解った。今回は誰も、ケガもせず無事に終わった。これで指導を終わる。ははっ。小林小隊!8時30集合だ!遅れるなよ!それでは起立っ!」
立ち上がる3人。
「それでは、解散っ!」
(( ハッ! ))
敬礼をする司令官と小林小隊。
司令官も、書類を檀上で片づけ始めた。
立ち上がろうとするきよしに、ジェシカが抱き着き、熱いキスをした。
その2人に驚いて、手で顔を隠して笑う未央とルオだった。
司令官も呆れて、ケータリングテントに向かった。
「アチャー!もう、いままで隠して来たのにぃ。ねぇ未央っ。」
「まあまぁ、いいじゃないかルオ。もう、腹減った。飯にしよう。」
「んだね。ちょっと!きよし!ジェシー!行くよ。」
抱き合ったままのきよしとジェシー。
我に返り照れ始めた。
そして、お互いの腰に腕を回し、楽しく話ながらテントに歩いて行った。
その後を笑いながら小林とルオが笑いながらついて行く。
テントの中では依然、成績の発表が続いていた。
独身8人の席は更に、どよ~んとした空気になっている。
羨ましそうに横を通る2人を見る独身パイロットの面々。
そんな席の横をきよしとジェシカは腰に手を回したまま楽しそうに話をしながらケイタリングの列にならんだ。
チームごとの成績発表が終わり各個人成績、アタッカー、スナイパー、コマンダー毎の成績発表が始まる。
ニコニコして食事をしながら聞くローマンのベテランパイロット席。
そして、息を呑んで成績を聞く準備をするジェシカ小隊の女性2人。
それに引き替え、ドョーンとしたままの独身パイロット席。
話し声が止み、急に皆、真剣に聞き始めた。
「それでは本日、最後の発表です。コンチネンタル・バリステック13!個人成績の発表です。」
シーンと静まり返るケータリングテント。
「それでは第1位……。」
息を呑む独身パイロットたち。
「まずはアタッカーの個人成績です。自己被弾0、完全破壊15機、行動不能5機、得点は3450ポイント。きよし・椎葉少尉です。小隊ペナルティー1000ポイントを差し引いた成績です。」
(( 何っ! ))
(( なんだって。 ))
(( うわー! ))
(( オーマイガッ! ))
(( マジかよ~!史上最高得点。うわぁー。 ))
ケータリングテントに歓喜の声が上がった。
( うわ~凄すぎる~! )
( たった市街地エリア10分でって。すごっ!ペナルティー入ってるんだろ!凄すぎっ! )
( 神の降臨だ!絶対きよしと戦いたくない。凄すぎ! )
テントに拍手と大歓声が沸いた。
ドヨーンとした独身パイロット8人は大きく目を開き口を開けたまま、ゆっくりきよし達を見た。
開けた口からスプーンを落とすトミー・ランカスターRSF大尉。
椎葉きよしは、もはや、適わぬ相手だったのだ。
ジェシカは自慢の彼氏を見上げてから、背伸びして両手でお子ちゃま顔の頬をはさみ思いっきりキスをした。
そして、きよしに抱き着いた。
( ピューピュー!パチパチパチッ! )
その2人を向いてテントの拍手が鳴りやまない。
「ゴホン、それで次にアタッカー第2位は、自己被弾2、完全破壊6、行動不能6機、得点は1989ポイントのジェシカ・L・D・G・スミス中佐です。」
( アグレッサーと、ヒール役のモービル50機投入で、2人で半分以上じゃないか。 )
( なんじゃそりゃ。どんなカップルなんだよ! )
( シバの神無双!きよし無双っ! )
( ミーティス(ジェシカ機コール名)って女神だよね。実は地獄の女神なん? )
( 地獄の使徒カップル! )
( 出た。 )
( 地獄のカップル! )
再び拍手に湧くテント。
きよしが今度はジェシカを腰下か片手で持って、抱き上げた。
手を上げて喜ぶジェシカ。
きよしの肩の上で身を縮めてきよしに熱いキスをした。
それを見て、ドョーン・レベルが更に急上昇した独身貴族チームだった。
( アチャー。 )
( もう無理。 )
( お、俺の嫁がぁ。 )
それから、上位5人毎のスナイパー、コマンダーの発表が続いた。
それ以外のチーム成績、個人成績はすべてスマハンドで見ることが出来た。
もちろんスナイパー1位はルオ。2位はもちろんリリアナ・ヒューズ。
コマンダー個人成績部門1位は未央だった。2位も同じくジェシカ小隊のジュリア・T・ジャクソン。
この小林小隊はペナルティーを受けた上での個人成績だったのだ。
小林小隊3人の成績は、機動モービルHARMORを保有する小国1国を凌ぐ成績なのだ。
今回の2大隊合同訓練では、教官のアグレッサー・チームや敵役モービルのパイロットは、千歳シーラスワンで数多くの実戦を経験し生き残った大ベテラン達だ。
ロシアやベラルーシとの中央ヨーロッパ国境防衛戦線、AXISとの熱河防衛戦線などで生き残った彼等だった。
しかし、今回の訓練ではその歴戦練磨のベテラン達が、訓練配属1か月のド新人にやられたのだ。
それまでの訓練内容は島嶼防衛訓練(離島へオービターから通常降下、その後は砲撃戦か白兵戦)、砲撃戦中心の山岳地帯や、白兵戦中心の市街地での模擬戦闘訓練だった。
市街地戦は決着には2日かかる事もあった。
ところがだ。
今回のロフテッド軌道からの急襲突撃降下訓練は大ベテランや実戦を経験したハズの司令官には大きなショックだった。
たった30分も経たず敵役モービルが全滅したのだ。
新たに観戦武官で参加したシラス加盟国軍の各国の司令官、戦略戦術上級指揮官達は事実を認めざるを得なかった。
特に、HARMORに対し否定的な各国の将官たちには大きなショックとなったのだった。
この米陸軍ハワイ島訓練場は島嶼部、平野部、森林部、都市部の全てが揃った訓練場である。
その中で、今回は一番厳しいとされる都市部エリアだった。
それも初めての市街地訓練場で小林小隊は最高得点を上げたのだった。
スマハンドで自分の成績を見て、ガッカリする者、天井を見て闘志を燃やす者、様々な反応が続いて行く。
そんな湧き上がるケータリングテントの中では、余裕を持って食事するアグレッサー部隊のベテランパイロットの面々もいた。笑いながらのひと時。
余裕の食事風景だった。
肩、胸、背中を叩いて被弾箇所を仲間に教えるローマン大佐。
隣のパイロットに笑いながら話し始める。
「きよしの完全破壊17機の内の1機は俺だ。はははっ。叔父さん参った参った。教え子にな。もう、誰もきよしに敵わない。きよしは旧型のカワサキの34式で、椎葉専用機体での訓練か。俺たちヒール役は新型、ロールアウトしたばかりのファイティングシリーズ。新型だぜ。新型。俺のファイティング・スーなら、調子に乗ったきよしへ、少しは、お灸据えたろうと思ったけど。どうして、どうして。本当に、かすりもしないわ。アハハハッ。」
「マジですか?大佐。」
ローマンの話を驚きながら聞いていた、同じヒール役のUSAF正規教官パイロットだった。
「マジだ。なるほど、対馬でのきよしの凄い戦果が改めて納得出来た。はははっ、凄いわ。あ奴めには、機体の性能の優劣は全く関係ない。もうきよしに敵わん。少なくとも地球上、誰もな。」
そこへ、到着したローマンの妻のオリエッタ博士が、野菜一杯のケータリング皿を持ってローマンの横に座った。
キスの挨拶をする夫妻。
オリエッタが自分の持ってきた野菜をローマンの皿に移しながら、ローマンに小言を言った。
「パパッ、もう野菜摂らないと。これ食べなさい。もうパパは肉ばっかり。(ポーランド語)」
ローマンの部下達や米国陸軍パイロット達が夫婦を見て笑い始める。
周りの目を気にして、皿に野菜を盛るローマン。
「はいはい。わかってるべや、ごめんなさい。食べるべさ。はい、お野菜一杯食べんべ。(北海道弁)」
いきなりの北海道弁で、目を丸くするアグレッサー教官たち。
苦笑いのオリエッタ博士。
部下の目線を気にしながら、少し照れて、モリモリと野菜を食べるローマンだった。
そのローマンの横に座っているUSAFパイロットが、ローマンの肩を叩き、前方のテントの奥に座るきよしとジェシカをスプーンで指した。
ジェシカの部下の美女2人と小林やルオが楽しく話をしながら食べている。
その横に座るジェシカが自分のケータリング皿の野菜をきよしの皿に移して、何やら文句を言っていた。
ハンバーグやソーセージばかりのきよしのケータリング皿。
怒られた子供のように、しょんぼり黙って野菜を食べ始めていたのだった。
( おほほほっ。 )
スプーンを持った手で口を隠して笑うオリエッタ。
一緒に笑うアグレッサー教官たち。
「栗山でも、ジェシー。きよしちゃんにね、ジンギスカンの肉ばっかり食べてたきよしに、健康考えてモヤシや、タマネギを無理やり食べさせていたわね~。うふふふっ!さすが姉さん女房。京子も焼き餅焼くわけだ。(ポーランド語)」
「えっ?京子姉さん、ジェシーに焼き餅焼いてるの?なんでだべ?ジェシーも、京子姉さんも、弐人とも仲いいべさ。(北海道弁)えっ?えっ?ジェシーを、正月に栗山の実家に連れてったの俺。きっかけ作ったのも俺!なんか罪悪感するわ~。京子姉さんとジェシー、関係よくないの?(ポーランド語)」
「もうパパったら。トルンのお母さんも一緒よ。男は鈍いわね~。おほほほっ。ほらっ早く野菜お食べっ。一人息子だもの。女って幾つになっても、そんなものよ。おほほほ。(ポーランド語)」
「んだかぁ?良くわかんね~べさ。(北海道弁)」
黙って野菜を食べるローマン大佐。
それを見つめるオリエッタ。
その2人の先では野菜を食べるきよしを、優しい笑顔で見つめるジェシカが居た。
0
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