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第2章
70.【幕間】バンジャマンの決断②
バンジャマンは一通り仕事を片付け、アマンディーヌの墓参りに向かう。
時刻は日付を跨ぐ少し前になってしまった。
灯りは手元にある魔道具しかなく、足元も見え辛い。
夜の墓場はどうしても薄気味悪さが漂う。
それでもそこに実体はなくとも、愛する人がいれば輝き出すのだから不思議だ。
前回と同じように、ふわふわと重力を感じさせない様子でアマンディーヌは浮いていた。
「アマンディーヌ……」
『そろそろ来ると思っていました』
「……さすがだな」
『褒め言葉では無いですよ? 貴方は虚勢を張っているもの。自分が弱いのを認められない軟弱者ということです』
「アマンディーヌの言う通りだ」
容赦ない言葉も、今のバンジャマンはその通りだと受け取ることが出来た。
その虚栄心が、レティシアをそして幼いジュスタンを歪めたのだろう。
「ああ……そうだな。私は弱い。アマンディーヌの死を受け入れられず、自分の事しか考えられなかった。……どう考えても、親を失ったジュスタンとレティシアが1番辛いのにな」
『そうですね。そして気づくのが遅すぎたのです』
貴族に家族の情は必要ないという者も一定数いる。
けれど、今のリュシリュー公爵家はもうそう言う次元から超越している。
誰がどう見ても、気が狂った一族となっているのだ。
そしてその原因は公爵家当主のバンジャマンだ。
『ジョゼフが言った通り、レティシアとは離れた方が良いでしょう。あの子にとって、あなた達が近くにいること自体が毒でしかないのは、もう分かっているのでしょう?』
「……ああ」
陛下にも報告して、養子の話も進めた方が良いだろう。もうこのリュシリュー公爵家は、バンジャマンの代で終わりだ。
ジュスタンにはせめて、公爵家の重荷を背負わせない様に。
そしてレティシアの視界に入らない様に。
バンジャマンが全ての罪を背負って生きていかねばならない。レティシアが倒れた事で、漸く理解したのだ。
『貴方が出来ることはもう殆ど無いです。けれど、貴方はレティシアが知らない所で償い続けなさい』
「ああ」
『レティシアの幸せを祈り続けなさい』
「誓う」
アマンディーヌの言葉に、決意を込めて頷く。
その様子を見て、アマンディーヌは表情を変える。少し寂しそうに。
『レティシアとジュスタン。私が生きていたら、貴方の暴走も止められて今と違う人生があったでしょうね』
「いや、アマンディーヌは何も悪くない。全て私が悪いのだ。私が間違えたのだ」
アマンディーヌが流行病に罹らなければ。
バンジャマンが少しでも子供達に向き合えていれば。
ジョゼフの忠告に耳を傾けていれば。
たらればを語っても、過去が変わることは無い。
『ジュスタンは私に会うことを躊躇していますね。伝えておいて下さい。死者である私に会いに来る必要はないと。レティシアも私の記憶なんてないから、無理して来なくていいと』
「伝えておこう。ただ、墓参りをしたいと言ったら連れてくる」
『ありがとうございます。でも貴方も、あまり此処に来たらダメですよ。生きている人を大切にして下さいね』
「ああ、分かった」
◇◇◇
それから1週間後、レティシアが目醒めた。バンジャマン達と顔を合わすことなく、レティシアはジョゼフの家に行った。
レティシアを乗せた馬車が遠ざかって行くのを、自室の窓から見送った。
その日に陛下にはレティシアの養子縁組の申請と、将来的な公爵位の返上を告げた。
元々養子縁組は考えられていたこと。陛下の温情で、長引かせていたに過ぎない。当主が希望すれば、渋る理由もない。粛々とその申請は受け入れられた。
爵位の返上に関しては、直ぐに答えは出せない。どうしてもその後に起きる問題も大きいからだ。念入りな準備が必要になる。
その場には王妃とジルベールもいた。2人ともバンジャマンの話を聞いて思うところがあったのか、ある程度話がまとまると2人で話し合っていた。
それも終わると、王妃はバンジャマンに言う。
「良いわ。体調が良くなったら、レティシアに会って一度話を聞きます。レティシアの気持ちによっては、また考えなければいけません」
「お願いします。私は今後、レティシアの希望がない限り会うつもりはありません」
「……そう」
「けれど何か必要なことがあれば、レティシアが気づかないように協力したいと思います」
「分かりました。頭にいれておきます」
その場で書類の準備をして、バンジャマンは公爵邸へ帰る。
公爵邸に到着すれば、出迎えにジュスタンがいることに気がつき、声をかける。
「ジュスタン。どうした」
「父上、王城ではどんな話を?」
ここは玄関ホール。使用人も数人いて、場所が場所なので一旦執務室へ移動する。
今はジョゼフもレティシアの看病をする為に家に帰っているので、執務室には2人しかいない。
ソファに座り、王城でのことをジュスタンに全て話した。
話を聞き終わったジュスタンは、バンジャマンに質問する。
「爵位を返上した後は、どうするつもりですか?」
「まだ具体的な計画は立てていない。が、レティシアの為になることを考えている。この国から出ていくつもりもないし、王都にはいるつもりだ。その方が、レティシアの噂だけでも聞けるからな。それに王都から離れることは、レティシアから逃げることと一緒だ」
「……」
「お前が公爵を継いだところで、今回の事が原因で社交界でも生きていけないだろう。だから――」
「では俺も、父上と同じようにします」
その言葉に驚くバンジャマン。ジュスタンの青い瞳が決意を湛えていた。
「俺もレティシアから逃げない。レティシアの知らない所で、償いに生きます」
「……そうか」
ジュスタンの決断を、バンジャマンは止めない。ジュスタンの気持ちはバンジャマンも同じだからだ。
あれほど自分達を憎んでいるレティシアに、姿を見せるつもりはない。もうレティシアは何もこちらに望んでいないのだから。
レティシアには、バンジャマン達を忘れて幸せに生きてほしい。それでも自分たちが償いに生きることが、唯一自分達に出来ることだと思った。
レティシアが望まない限り、自分達はレティシアに直接関わらない。
自己満足に過ぎないが、それでもこれからの人生で幸せになることを、自分達に許さないで生きることを決意した。
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