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第4章
110.貴方と歩んでいきます
準備が終わったと報告が入る。会場の入り口に向かう。
結婚式が始まるのだ。
レティシアの気持ちは、不思議なほど凪いでいた。緊張もしていないし、高揚しているわけでもない。
隣にいるジルベールもそうだ。凛々しい表情で、立っている。
レティシアの視線に気が付いたのか、ジルベールがレティシアを見る。
「緊張していなさそうだね」
「ええ。人生での大舞台の一つですのに、至っていつも通りですわ」
「私もだよ」
「わたくし達にとって、ここはスタートラインですものね」
「そうだね。ここで終わりではない。これからも、道は続いている」
中から聞こえるざわめきが大きくなる。音楽も鳴り出し、ゆっくりと扉が開かれた。
ジルベールと共に入場すると、皆が拍手をくれる。
式は滞りなく進み、様々な人から祝福を受けた。
陛下の説明がうまくいったようで、ジルベールとの仲が疑われることもない。
会場内での式が終了すると、国賓は退出し始める。特に交友が深いものは残っているが、大体のものはここで帰り始める。
なぜなら、今度は外に出て国民に挨拶するからだ。国外へのアピールはここまでですよ、という意思表示だ。
とはいえ、ここまでですでに昼の時間は過ぎている。ちゃんと時間はたっぷりとっていたので、不満を感じるものはいなかった。
国民も新たな王太子夫妻の誕生を待っていただろう。なにせ例年より遅いのだから。本格的なパレードは後日になるが、簡単なお披露目ということだ。
バルコニーに出ると、歓声が上がる。なんなら先ほどより大きい。
手を振ると、更に歓声が大きくなる。
聞こえてくる言葉も、レティシア達を歓迎する言葉ばかりだ。
「……この期待を裏切らないようにしなくては」
「そうだね。けれどレティシアなら大丈夫だよ」
「あら、ご自身は含めないのですか?」
「私はそれが使命だから、大丈夫になるようにするだけさ」
その一言は色々な重みを感じた。王太子になるべく、努力してきた年数。そしてレティシアへの想いも。
「ではわたくしも、貴方を支えられるように精進しなくては。……妻なのですから」
「レティシア……」
レティシアの言葉に、ジルベールは感極まったような表情になる。
すると急にレティシアに跪く。
「で、殿下?」
「改めて、言わせてほしい。レティシア、私は生涯をかけて貴女と共に歩んでいけるように努力する。どうか、私と共に来てほしい」
「もちろんですわ。今までのことを、踏み台にしてより高みに行きましょう。今のわたくし達なら難しいことではありませんわ。ジルベール様」
「!」
初めてジルベールを名前で呼ぶ。
もう伴侶になったことと、一緒に歩むことの覚悟を込めて。
ジルベールの目が潤む。わたくしのために行動し始めてから、涙もろくなったなと思う。
「レティシア、ありがとう」
そう言うと立ち上がり、レティシアの体を持ち上げた。
「で、ジルベール様⁉︎」
習慣で殿下と呼びそうになったけれど、かろうじて踏みとどまる。
急な浮遊感に驚いていると、歓声が今まで以上に大きくなった。
あまりの大きさにさすがに驚くレティシアだが、国民の目を見て喜びに変わる。
その直後、別の歓声が上がる。何人かはレティシア達ではなく、空を見ている。
釣られるように空に目をやると、今までに見たことがないくらい大きな虹が、2つもかかっていた。
「……”イーリスの祝福”」
「イーリス様も私達を祝福してくださるのか」
レティシアもジルベールも呆然と言葉を零す。
虹がかかったことに、国民は更に歓喜した。
「おめでとうございます‼︎」
「これからのご活躍、期待しています!」
「ジルベール殿下万歳‼ レティシア妃万歳‼︎」
その歓声は鳴りやむことを知らず。
しばらくその体勢で、レティシア達は国民たちに答え続けた。
◇◇◇
結婚式が終わったその日の夜。
レティシアは念入りに磨かれて、寝室にいた。
結婚した貴族が通る道。即ち初夜である。
ルネ達のおかげで見た目も抱き心地も良くなったと思うけれど、緊張と不安がレティシアを支配する。
どのくらい時間が経っただろうか。緊張のあまり、時間感覚がなかった。
扉がノックされる。
「レティシア、入っていいかい?」
「は、はい!」
声が裏返ってしまう。
ジルベールがガウンを羽織って入ってくるのに、更に心臓が暴れだす。
結婚式は全く緊張しなかったのに、自分の変化に驚いてしまう。
もちろん、そんなレティシアの過緊張はジルベールに伝わってしまっている。
「……大丈夫かい?」
「大丈夫……ではないです」
正直に答えれば、ジルベールは少し考えているようだ。よもや中止しようなどと考えているのだろうか。
大前提としてこの初夜から逃げるわけにはいかない。
レティシアは大きく深呼吸して、震える手を差し出した。ジルベールに意図が伝わるように。
「だから……手を握ってください。ずっと」
一瞬悩んだようだけれど、レティシアの意志を尊重してくれるようだ。
冷えたレティシアの手を温めるように、大きな手が包み込む。
「分かった。けれどゆっくりするから、止まってほしくなったらちゃんと言ってほしい」
「はい」
ジルベールとレティシアは慎重にベッドに入る。
ゆっくりレティシアを気遣ってくれるジルベールに、レティシアの緊張と不安も少しずつ解けていく。
ジルベールの体温を感じられることが、涙が出るほど嬉しい。痛みすらも、幸せだった。
2人が身も心も一つになっていく。
幸せの絶頂のまま、初夜は過ぎていった。
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