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氏神様は猫の神様
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付け足された仕事の内容に、私は大きく瞳を瞠った。
生贄……って、あの、生贄?
「ええと……。おとっつぁん、それは言わない約束でしょって言って、連れていかれる……」
「それは借金のカタにヤクザに連れていかれるやつでしょ。どっから出てきたのよ、その発想」
すかさず突っ込まれて、私の混乱は少し修正される。
じゃあ生贄って……生贄って……。
「だーいじょうぶよお。生贄っていったって、ただの真似事だから」
「真似事……」
言うと、三重子さんがこっくり頷いた。
松里さんは、笑ってちがうちがうと手をぶらぶら振る。
「毎月ね、そういう祭事があんの。祀られてる山の神に生贄をお供えする、ていう神事。本当に食べられちゃうわけじゃないから安心してよ」
「あ、なんだ……生贄とか言うから、びっくりしました」
「昔々は、本当にやってたらしいけどね。言い伝えでそういうのがあって。でも、その故事も実際に生贄を食べたって話じゃなくて、生贄に娘を差し出されて神様困ったっていう話」
「へえ……なんだか、面白そうな話ですね」
「猫の神様は、いい神様じゃから。悪いことはせんはずよ」
三重子さんが、のんびりとした口調で言う。
こういう田舎には、土地ごとにいろんな昔話があるんだなあ。
「猫の神様って、なんですか?」
私が訊くと、ああ、と松里さんが頷いた。
「この辺りの山神を統べるって言われてる神様。神社に祀られてて、猫の神様って呼ばれてるわ。神様が踏んだ岩とかあってね。猫の肉球みたいな足跡ついてるの。面白いでしょ」
「か、かっわいい……」
猫の足跡ついてる岩。見てみたい。
「じゃあ、バイトしてくれる人が見つかったって連絡ちゃうわね」
「はい、よろしくお願いします」
私はできるだけ丁寧に頭を下げた。
本当にありがたくて、少し胸に込み上げるものがある。
私……バイトという期限付きだけど、仕事が見つかったんだ。
働けるんだ。
「里ちゃん、着物は着方わかる?」
「き、着物は……成人式で着たくらいで」
「じゃ、三重子さんに教えてもらうといいわよ」
「はいはい。簡単じゃから、すぐ覚えられるよお」
「なんだか、色々とお世話になります……」
やや恐縮しながら、私はまた頭を下げた。
三重子さんは、ずっとにこにこしている。
その顔を見ていると、私はだんだんと身体に活力がみなぎってくる気がした。
笑顔ってすごい。
どん底って気分だった私がこうして引っ張りあげられてしまった。
「じゃ、とりあえず後はお布団干して。少し片づけしましょうかね」
お茶会は、実り多く終わった。
私たちはおしゃべりしながら茶器を片付け、家の掃除に取り掛かった。
母屋はかなり広かったけど、松里さんと三重子さんが手伝ってくれたおかげで、ほとんど時間はかからなかった。
生活に必要なものは、祖母が残しておいてくれている。
あらためて、色んな人に助けてもらっていると感じた。
ちなみにお布団を取り込んだら、汐がふかふかになった布団の上に丸くなっていた。
あんまり気持ちよさそうで、動かせなかったりして。
私たちは半眼の怖い顔して眠る黒猫を置いて、お昼ご飯を一緒する。
それでこの日の集まりは、お開きとなったのだった。
生贄……って、あの、生贄?
「ええと……。おとっつぁん、それは言わない約束でしょって言って、連れていかれる……」
「それは借金のカタにヤクザに連れていかれるやつでしょ。どっから出てきたのよ、その発想」
すかさず突っ込まれて、私の混乱は少し修正される。
じゃあ生贄って……生贄って……。
「だーいじょうぶよお。生贄っていったって、ただの真似事だから」
「真似事……」
言うと、三重子さんがこっくり頷いた。
松里さんは、笑ってちがうちがうと手をぶらぶら振る。
「毎月ね、そういう祭事があんの。祀られてる山の神に生贄をお供えする、ていう神事。本当に食べられちゃうわけじゃないから安心してよ」
「あ、なんだ……生贄とか言うから、びっくりしました」
「昔々は、本当にやってたらしいけどね。言い伝えでそういうのがあって。でも、その故事も実際に生贄を食べたって話じゃなくて、生贄に娘を差し出されて神様困ったっていう話」
「へえ……なんだか、面白そうな話ですね」
「猫の神様は、いい神様じゃから。悪いことはせんはずよ」
三重子さんが、のんびりとした口調で言う。
こういう田舎には、土地ごとにいろんな昔話があるんだなあ。
「猫の神様って、なんですか?」
私が訊くと、ああ、と松里さんが頷いた。
「この辺りの山神を統べるって言われてる神様。神社に祀られてて、猫の神様って呼ばれてるわ。神様が踏んだ岩とかあってね。猫の肉球みたいな足跡ついてるの。面白いでしょ」
「か、かっわいい……」
猫の足跡ついてる岩。見てみたい。
「じゃあ、バイトしてくれる人が見つかったって連絡ちゃうわね」
「はい、よろしくお願いします」
私はできるだけ丁寧に頭を下げた。
本当にありがたくて、少し胸に込み上げるものがある。
私……バイトという期限付きだけど、仕事が見つかったんだ。
働けるんだ。
「里ちゃん、着物は着方わかる?」
「き、着物は……成人式で着たくらいで」
「じゃ、三重子さんに教えてもらうといいわよ」
「はいはい。簡単じゃから、すぐ覚えられるよお」
「なんだか、色々とお世話になります……」
やや恐縮しながら、私はまた頭を下げた。
三重子さんは、ずっとにこにこしている。
その顔を見ていると、私はだんだんと身体に活力がみなぎってくる気がした。
笑顔ってすごい。
どん底って気分だった私がこうして引っ張りあげられてしまった。
「じゃ、とりあえず後はお布団干して。少し片づけしましょうかね」
お茶会は、実り多く終わった。
私たちはおしゃべりしながら茶器を片付け、家の掃除に取り掛かった。
母屋はかなり広かったけど、松里さんと三重子さんが手伝ってくれたおかげで、ほとんど時間はかからなかった。
生活に必要なものは、祖母が残しておいてくれている。
あらためて、色んな人に助けてもらっていると感じた。
ちなみにお布団を取り込んだら、汐がふかふかになった布団の上に丸くなっていた。
あんまり気持ちよさそうで、動かせなかったりして。
私たちは半眼の怖い顔して眠る黒猫を置いて、お昼ご飯を一緒する。
それでこの日の集まりは、お開きとなったのだった。
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