猫の神様はアルバイトの巫女さんを募集中──田舎暮らしをして生贄になるだけのカンタンなお仕事です──

春くる与

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おいしい御飯は喧嘩も仲裁する

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「里ちゃん家、なんだかエライことになっちゃってるわね。どしたの」

 三重子さんが帰った後、やってきた松里さんは居間の様子を覗き見てそう言った。
私もそう思います。
囲炉裏端では人型になった汐と氏康さんとが、無言で対峙していた。

 氏康さんはさすがに甲冑姿ではなかったけれど、やっぱり侍の装束というものを身に着けている。
神主姿の汐といると、時代劇の撮影でもしてるみたい。
なにより、近郊の神様が勢ぞろいしている家ってすごいな。

「あはは……三重子さんから角煮の御裾分けいただきまして。それ待ちの列なんですよ」

 力なく笑って言うと、松里さんはお腹を抱えて笑っていた。
うん……笑うしかないよね、もう。

「やっだあ、もう!きんつば頂いたから、アタシもお裾分けに来たんだけど。絵面が面白すぎるわ……!!」

 並んで静かに角煮の登場を待つ神様二人に、松里さんは腹筋痛めそうに笑い続けている。
笑えるのは分かる。でも、それより。

「あ、丸きんつば。私、ここの梅ぼ志飴も大好きです……!」

「お、いい趣味してるわね。アタシも、あれ大好き」

 わあい、甘いもの大歓迎。

「よかったら、松里さんも夕飯一緒にどうですか。角煮丼」

「え、いいの。ラッキー」

「どうぞどうぞ。すごいわ、お裾分けだけで今日の晩御飯はデザートまで御馳走」

 美味しいものが色々と揃ったと思うと、それだけで顔がにやけてしまう。
梅雨の時期ってことで、少し憂鬱になっていたんだけど。
美味しいものって、天気すら吹き飛ばして人を幸せにしてくれると思う。

 ご飯が炊けたら、後はのせるだけだし。
そんなわけで今夜の贅沢メニューはこんな感じだ。
食前酒に三重子さんから分けてもらった梅酒を一杯。
そして炊き立てご飯の角煮丼。とれたて野菜のサラダ。あったかい御味噌汁。
これだけでも幸せなのに、食後にきんつばを熱い御茶と。

 なんだかもう、とろけちゃいそう。
太りそうって点には目をつむる。
汐と氏康さんは、お互いに無言だったけれど。
食べ始めてしまうと、もう二人とも夢中だった。

 美味しいもんね、三重子さんの料理。
とろとろの柔らかいお肉は、なんともご飯が進む味。
噛むと甘みと旨味があふれだす。

「美味しかったーあ。そして、さらに甘いもので幸せ」

 食後の御茶を楽しみながら、松里さんがしみじみと呟く。

「思いがけずの、特別な日になりました。お裾分けの力が偉大」

 私が言うと、松里さんは汐と氏康さんを見る。

「アタシも得しちゃった。……けど、思いがけずっていうと、あんたたち。汐はともかく、氏康はなぁんでココにいるのよ」

「あ、私が雨宿りに誘ったんです」

「それよ。雨宿りって、そもそも、この村に何しに来たの」

 松里さんが追及すると、氏康さんはむっつりと眉を寄せた。
あまり言いたくはないらしい。
けれど、こういう時に松里さんは強気だ。グイグイ行く。

「話しなさいよォ。雨宿りさせてもらって、ご飯まで食べさせてもらって、デザートまで食って、だんまりで通すつもりぃ?」

「……」

 畳みかけ方がすごい。
やや酔っ払いのような絡みに、私はちょっとハラハラする。
氏康さん、怒りだしたりしないだろうか。
大丈夫かしら。

「……」

 汐は黙って、我関せずに御茶ときんつばを堪能している。
甘いもの好きなのね。

「……三重子は」

 むすりとしたまま、氏康さんは話しだした。
私は怒りだされなかったことにホッとする。

「もともと、俺の村の人間だ。ここへは嫁に来たが。俺の氏子だった」

 俺の村、というのは氏康さんが土地神として祀られている村の事だろうか。
隣村みたいなものかな。
そこから、この村にお嫁に来たってことか。

「今はここに住んでるんだから、あんた関係なくなーい?」

 い、言い方が容赦ないなあ。
とは思うけれど、松里さんの言うことももっともだ。

 土地の神様と人間の関係って、引っ越せばその越した先の神様と縁を結んで、元の神様とは切れるものなんじゃないのかな。
氏康さんは、苦々しそうに表情をゆがめた。

「……帰ってくると思ってた。三重子の結婚相手は、嫁いですぐに病気で死んだからな」
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