51 / 67
職業選択の自由
しおりを挟む
蓮川さんは、掃除が終わったら帰っていいからと言い置いて社務所に戻っていった。
残された私は掃除を再開しながら、さっきの話について色々と考えてしまう。
神社って当たり前にあるものだと思っていたけれど、経営とか働く人手とか難しいことがたくさんあるんだな。
とくに過疎の田舎では、成り手がないという神社の管理者である神職の方々。
蓮川さん一人を見ても、高齢化が進んでいることは理解できるし。
つらつらと物思いにふけっていると、傍らで人の姿になった汐が懐手をしながら言った。
そういえばここらは少し肌寒くなってきたよね。
「……お前、さっきの話を聞いて宮司になろうなんて思っていまいな」
「……」
訊かれて私は少し黙り込む。
そういう言い方をするってことは、汐は私が神職になるのは反対なのかな。
「私がなったら、何か都合の悪いことでもある……?」
贄が神職だと不味いとか、そういうことでもあるのかと首を傾げて問うてみる。
汐は私の方を見ないまま、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「将来の職というものは、もっと……希望をもって選ぶものだろう。一生かけて、やり遂げたいとか。一生を捧げて構わないと思うほど、その仕事が好きだとか」
「……」
汐の言わんとするところは、分かった。
わかったけれど……。
「いや……そこまでものすごい決意で職をきめる人って、少ないんじゃないかな」
たしかにそういう人もいるだろうし、そうなれれば素敵だけど。
そこまで重い気持ちで決める人って、わりと一握りだと思うけどな。
「昨夜見た、熱情大陸の影響受けすぎじゃない?」
思わず訊くと、汐は驚いたように私の顔を見た。
あ、図星なんだね。
すごい感動したよね。あの職人さんの御話。
この仕事に誇りをもってます、みたいなお話もカッコよかったし。
「……ちがうのか。人間は、皆ああいうものかと」
「いや、もちろん、ああいうすごい人もいるけど。……親の家業を継ぐ、とか。少し興味を持ったので、とかいうのも立派に選ぶ理由にならないかな」
「……」
私はそういう人の意志も、きちんと尊重したいと思う。
だけど汐は、私の言葉に驚いたように黙り込んでしまった。
それから何か考えるような顔つきになり、眉根を寄せた。
「それで里は……興味を持ったのか?宮司という職に」
訊き返されて私は、少し口を噤んだ。
なんだろう、訊かれてすごくもやもやとする。
汐は真剣な表情で私にそう訊いたけれど、私自身は訊かれたこと自体に何か言い知れない感情を覚えてしまった。
──面白くない。
端的に感情だけを取り出すと、そんな感じ。
なぜだろう。私は今、汐に腹を立てている。
子供が地団太ふんで言い返してやりたいって思うような、そんな幼くてわがままな気持ちで。
「……私は」
そう言って汐を見上げた。
黒い綺麗な瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
「一生、汐の傍に居たいと思ってるから。そのための方法に宮司になるって考えるの、おかしくないでしょ」
一息の早口言葉みたいに言ってやると、汐は飛び出してきた自転車の前で固まった猫みたいな顔をしていた。
やめてよ、轢いちゃいそうになるじゃない。
だけど、取り消したりしてやらない。
赤くなったりもしてやらない。
「里……それは……」
おろおろと何か言おうとする汐を無視して、私は掃除を再開した。
「……」
「里、それは、その……」
知らない。私は怒ってる。
色々と考えて一生懸命、あなたの傍に居られる方法を考えていた私に、頭ごなしに否定するようなことしか言わない汐なんか、知らない。
視線を合わせないでいると、汐は猫に戻って私の足元をウロウロとした。
猫の時と人間の時と変わらない、なんて言っておきながら。
その姿だと私が許すと思ってるんでしょう。
……その通りだよッ!
そぉっと半分しゃがみ込むようにして、ちょっとだけ頭を撫でてやる。
耳を下げてふんふんと鼻先を押し付けてこようとするのへ、それは許さない。
半分許すけど、半分はまだ許さない。
残った掃除を片づけながら、私は半分ずつの複雑な感情に悩み続けた。
残された私は掃除を再開しながら、さっきの話について色々と考えてしまう。
神社って当たり前にあるものだと思っていたけれど、経営とか働く人手とか難しいことがたくさんあるんだな。
とくに過疎の田舎では、成り手がないという神社の管理者である神職の方々。
蓮川さん一人を見ても、高齢化が進んでいることは理解できるし。
つらつらと物思いにふけっていると、傍らで人の姿になった汐が懐手をしながら言った。
そういえばここらは少し肌寒くなってきたよね。
「……お前、さっきの話を聞いて宮司になろうなんて思っていまいな」
「……」
訊かれて私は少し黙り込む。
そういう言い方をするってことは、汐は私が神職になるのは反対なのかな。
「私がなったら、何か都合の悪いことでもある……?」
贄が神職だと不味いとか、そういうことでもあるのかと首を傾げて問うてみる。
汐は私の方を見ないまま、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「将来の職というものは、もっと……希望をもって選ぶものだろう。一生かけて、やり遂げたいとか。一生を捧げて構わないと思うほど、その仕事が好きだとか」
「……」
汐の言わんとするところは、分かった。
わかったけれど……。
「いや……そこまでものすごい決意で職をきめる人って、少ないんじゃないかな」
たしかにそういう人もいるだろうし、そうなれれば素敵だけど。
そこまで重い気持ちで決める人って、わりと一握りだと思うけどな。
「昨夜見た、熱情大陸の影響受けすぎじゃない?」
思わず訊くと、汐は驚いたように私の顔を見た。
あ、図星なんだね。
すごい感動したよね。あの職人さんの御話。
この仕事に誇りをもってます、みたいなお話もカッコよかったし。
「……ちがうのか。人間は、皆ああいうものかと」
「いや、もちろん、ああいうすごい人もいるけど。……親の家業を継ぐ、とか。少し興味を持ったので、とかいうのも立派に選ぶ理由にならないかな」
「……」
私はそういう人の意志も、きちんと尊重したいと思う。
だけど汐は、私の言葉に驚いたように黙り込んでしまった。
それから何か考えるような顔つきになり、眉根を寄せた。
「それで里は……興味を持ったのか?宮司という職に」
訊き返されて私は、少し口を噤んだ。
なんだろう、訊かれてすごくもやもやとする。
汐は真剣な表情で私にそう訊いたけれど、私自身は訊かれたこと自体に何か言い知れない感情を覚えてしまった。
──面白くない。
端的に感情だけを取り出すと、そんな感じ。
なぜだろう。私は今、汐に腹を立てている。
子供が地団太ふんで言い返してやりたいって思うような、そんな幼くてわがままな気持ちで。
「……私は」
そう言って汐を見上げた。
黒い綺麗な瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
「一生、汐の傍に居たいと思ってるから。そのための方法に宮司になるって考えるの、おかしくないでしょ」
一息の早口言葉みたいに言ってやると、汐は飛び出してきた自転車の前で固まった猫みたいな顔をしていた。
やめてよ、轢いちゃいそうになるじゃない。
だけど、取り消したりしてやらない。
赤くなったりもしてやらない。
「里……それは……」
おろおろと何か言おうとする汐を無視して、私は掃除を再開した。
「……」
「里、それは、その……」
知らない。私は怒ってる。
色々と考えて一生懸命、あなたの傍に居られる方法を考えていた私に、頭ごなしに否定するようなことしか言わない汐なんか、知らない。
視線を合わせないでいると、汐は猫に戻って私の足元をウロウロとした。
猫の時と人間の時と変わらない、なんて言っておきながら。
その姿だと私が許すと思ってるんでしょう。
……その通りだよッ!
そぉっと半分しゃがみ込むようにして、ちょっとだけ頭を撫でてやる。
耳を下げてふんふんと鼻先を押し付けてこようとするのへ、それは許さない。
半分許すけど、半分はまだ許さない。
残った掃除を片づけながら、私は半分ずつの複雑な感情に悩み続けた。
0
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
異世界に転移したらぼっちでした〜観察者ぼっちーの日常〜
キノア9g
ファンタジー
※本作はフィクションです。
「異世界に転移したら、ぼっちでした!?」
20歳の普通の会社員、ぼっちーが目を覚ましたら、そこは見知らぬ異世界の草原。手元には謎のスマホと簡単な日用品だけ。サバイバル知識ゼロでお金もないけど、せっかくの異世界生活、ブログで記録を残していくことに。
一風変わったブログ形式で、異世界の日常や驚き、見知らぬ土地での発見を綴る異世界サバイバル記録です!地道に生き抜くぼっちーの冒険を、どうぞご覧ください。
毎日19時更新予定。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる