猫の神様はアルバイトの巫女さんを募集中──田舎暮らしをして生贄になるだけのカンタンなお仕事です──

春くる与

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神様のいない十一月

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 やってきた十一月に、神様たちは皆それぞれに出雲へと旅立っていった。
一緒に行くものかと思っていたのだけど、松里さんには修学旅行じゃあるまいしと笑われた。
人間なら行先が同じなら一緒に行こうかってなるものだと思うんだけどな。
神様たちは群れないものらしい。
出雲へ行くのも仕事のようなものだからということだった。
ばらばらに、だけど一斉に彼らは行ってしまった。

 汐は少しだけ何か言いたそうにしていたけれど、結局は行ってきますとだけ言い置いて、行ってしまった。
もっと話しておきたかったけれど、慌ただしい旅立ちに何か特別なことができたわけではない。
お弁当を作って渡せたのが、せめてもの見送りだった。
三人分作って、それぞれに渡したのだけど。
気付いたら汐の好物ばかり作っていて、自分に呆れてしまった。

 そうして神様たちは、出かけていった。
それで何か私たち人の生活に変わりがあるわけではない。
日常は切れ目なく続く。
私は毎日、巫女のバイトにいそしんで、三重子さんは冬の支度に忙しい。
東京にいた頃にはクリスマス商戦がはじまって、街にはジングルベルが鳴り響いていたけど。
この里だとやっぱりメインは、お正月だ。

 豪雪地帯というわけでもない村だけど、やっぱり近くのお店は年末年始に長くお休みするらしい。
となると、御籠りする準備が必要になるわけである。

 実家からは帰ってこないのかと訊かれたけど、お正月の神社って掻き入れ時というやつだと思う。
バイトの巫女がいないのは困るだろうなと思うと、とてもじゃないけど帰る予定は立てられなかった。

 ……いや、白状してしまおう。
私は帰りたくなかった。ここに居たかった。
お正月、家族で過ごすのはもちろん楽しいだろうと思う。
天使のような甥っ子にも、会いたい。
だけど三重子さんや汐や松里さん、氏康さん、村の皆と過ごすお正月も、きっと楽しい。
この土地を離れがたいと、私自身が思っていた。

「里ちゃん、おせちはどうするの」

 三重子さんに訊かれて、まだ十一月なのに随分と気が早いなと思って私は笑う。
いつものように、バイトに行く前に立ち寄った時のことだった。

「レトルトとか冷凍のものでもたせようかなって思ってるけど、足りないかな?」

「なんなら、一緒に作るかい?少しずつ用意して、作り方を覚えるといいんじゃよ」

「え、三重子さんが教えてくれるの?」

 作ったら、汐は喜んでくれるだろうか。
今は遠い彼のことを考えて、私は少し胸苦しくなる。
当たり前だけど、何の連絡もないし今はどの辺りにいるのかとか全く分からない。
帰ってくるのは十二月になってからのことだろう。
そしたら、忙しい師走になるだろう。

「……教えてもらえるなら、作ってみようかな」

「お餅つきもするじゃろう?集会所で、皆の家の分もしてくれるから。あんこの炊き方も覚えないとね」

「あんこ餅!」

 うわあ、美味しそう。
出来立てとか、絶対に美味しい。

「草餅もね、塩味がいい塩梅で美味しいんじゃよ。よもぎを余分に摘んでおいたから、分けてあげる」

 いいなあ、村での年末年始。楽しみが多い。

 ねえ、汐。

 そう呼びかけようとして、私は彼が今はいないことを思い出して立ち竦んだ。
たった今、居ないんだと考えたばかりなのに。
つい油断してしまう。
寂しい……と、思い出したら感じてしまうから、できるだけ不在であることを考えないようにしているのに。

「……里ちゃん?」

「あ、うん。ありがとう。私、自分の家でお餅つきなんてしたことないから、楽しみ」

 私がぼんやりしているのを見て、三重子さんが不思議そうに顔を覗き込んでくる。
慌てて、なんでもないと首を振ったけれど、色んなことがお見通しだったようだ。

「……そういえば、最近、汐ちゃんを見かけんね」

「……!」

 不意に汐の名前を出されて、私はうろたえた。
まるで考えていたことを、読まれたみたい。

「見かけないと、寂しいもんじゃね。里ちゃんも、寂しいじゃろう」

 そう宥めるようにやさしく言われて、私は苦笑しながら頷いた。

「うん……寂しいね」

 寂しい。すごくすごく、寂しい。
自分でもびっくりするくらい、そう思っている。
そんな自分に泣いてしまいそうになる。
胸の奥が痛くて、ぎゅっと掴まれたみたいに苦しい。
汐……あなたの居ないこの場所は、どんどん寒くなるみたい。
冬に向かっているんだから、当たり前なんだけど。

 早く帰ってきて。
今はそればかり考えてしまう。
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