猫の神様はアルバイトの巫女さんを募集中──田舎暮らしをして生贄になるだけのカンタンなお仕事です──

春くる与

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夢のつづき

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 夢の中で、私は白い闇の中を歩いていた。
足元さえまともに見えない程、濃くて白い靄。
なのに私は、まるで迷うことなく歩いていく。
この先に何があるのか、知っているから。

 やがて白い闇の向こうに、ぽつりと黒い染みみたいなものが見える。
私はそれを目指して、足を急がせる。

 はやく、はやく──。

 急がないと、いなくなってしまう。
ここから?
ううん、この世から。
だから急いで。もつれるような足で、それでも私は走る。

 はやく、はやく、はやく……助けなくちゃ。

 黒い染みは近づくと、小さな黒い子猫なのだと分かった。

 黒い子猫……。
尻尾は一本だし、そもそも子猫はうまれたてくらい小さかった。

 だけど、私は苦しいほどに切ない気持ちで、駆け寄る。
だってなぜだか分かるんだ。

 ……ああ、汐だ。これは、汐だ。

 やっと、会えた。
こんなところにいたんだね。
おかえり。おかえりなさい……。

 泣き出したいような思いで、私は子猫を抱き上げた。
子猫の小さな手足は冷たい。
ぴくりとも、動かない。

 どうしよう。どうしてあげたらいいの。
だけど抱きしめたら、温かくなった。
それが嬉しくて、私は泣きながら笑う。

 汐──もう、大丈夫。





 夢からの覚醒は、突然だった。
強く肩を揺さぶられて、私はハッと瞳を見開く。
すぐ近くに、松里さんと三重子さんの顔があって私は瞬きをした。

 え、なに、どういうこと。
寝すぎて起こされた?
訳が分からなくて、ぼんやりとしていると松里さんが怖い顔をして私の肩を揺さぶった。

「里ちゃん、しっかりして。起きてる?汐が……」

 汐が。
その名前に、私は確信を持って言った。

「……汐が、帰ってきたんでしょう?」

 私が言うと、松里さんは大きく目を見開いてから、ゆっくりと首を横に振った。
あれ、そういえば松里さんはいつ帰ってきたのだろう。
私、寝ぼけてるんだろうか。

「ちがうの、里ちゃん。汐が帰って来たんじゃ……」

「でも、私、呼ばれました」

 松里さんの言葉を遮って、言い張る。
あの夢。ひどくはっきりと確信している自分が不思議だった。

 汐に呼ばれたんだ、私。
あの夢の、あの場所に。

 松里さんは、まだ怖い顔をしている。
三重子さんはわけがわからないみたいで、ただきょとんとしていた。

「呼ばれたって……汐に?ありえない……」

「あ、でも……いつもの汐じゃなかったです。黒猫なのは同じだけど、子猫で……尻尾も一本しかなかった」

「子猫……普通の尻尾の……」

 私が夢のおぼろな記憶を口にすると、松里さんは大きく息を吸ってから、限界まで吐きだした。
そうして、がっくり項垂れる。

「ど、どうしたんですか、松里さん……」

「うん、間違ってない。高天原で聞いた通りだわ」

 松里さんはそう言うと、もう一度大きくため息をつく。
それから三重子さんを振り返った。

「ごめえん、三重子さん。お茶淹れてくれない?ここまで走りっぱなしで喉がカラカラなのよ、アタシ」

 松里さんがいつものように遠慮なく言うと、三重子さんは私たちに何も訊かず、はいはいと笑った。
訳が分かんなかっただろうに何も聞かないの、すごいと思う。
私なら余計なことまで問い詰めちゃうなあ。

 もしかしたら三重子さんは、何もかもお見通しなのかもしれないって時々思うけど。
三重子さんがお茶を淹れに行った隙に、松里さんが小声でささやく。

「もしかして、その夢の中で交感した?」

「あ……はい。そうかも。だけど、月齢がどうとか言ってなかったですか。交感するのに必要なことだって」

「その夢、たぶん神域だから出来たんだと思うわ。前に、お祭りやったでしょ。ああいうとこ」

 ああ、あの時の。
氏康さんに初めてあった時の夢。
あれが神域っていうのか。

「あっちはこちらの世界と違って、私たちの力にあんまり制限がかからないから。にしても……」

 松里さんが、じろりと私を見る。
なんだかすごく恨みがましい目つきで、私はちょっとたじろいだ。
なんだなんだ。何か恨まれるようなことしたっけ。

「あんたたちは、ほんっと人騒がせよね」

 えええ、たちってことは汐と私?
汐だけじゃなくて?
騒がせた心当たりがなくて、私は首をひねる。
すると松里さんに、ぴんとおでこを弾かれた。
……痛い。ちょっと涙目になる。

「ま、いいわ。──あいつ、帰って来るわよ」

 笑ってそう言う松里さんは、もう怖い顔はしていなかった。
晴れ晴れとした表情に、私も頷く。

 汐──なぜだか今、私は汐と繋がっている気がしてる。
だから、手に取るように、わかるんだ。
あの小さな猫が、私のいるところへ駆けてくるのが。
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