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第18話
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仕事の合間を縫って、アレク様と薬草菜園に訪れると、二人でしゃがみこんで戦っていた。
「何の変哲もないこの雑草ですが、恐ろしく生命力が高いです。根を残すことなく引き抜かなければなりません」
雑草は少し見ないだけでも成長してしまうので、週に一度、必ず雑草取りをやっているのだ。
最初は公爵家のアレク様に手伝わせるのは申し訳ないと思い、避けていた。でも、今は違う。
助手なら手伝ってもらうべきだ。そう判断して、共に雑草を引っこ抜いている。
そして、彼にはその才能があった。
「魔法陣に使うインクを作る際、不純物をピンセットで取り除く工程がある。それに比べれば、なんてことはない」
どれほどの修羅場をくぐってきたのか、小さい頃から雑草を取り続けている私は理解した。
ひたすら効率だけを重視し、己の感情をなくす行為、無の境地である。
アレク様はいま、無の境地に突入し、雑草を抜き続けていた。
「魔法の研究で引きこもっていると思っていましたが、なかなかやりますね」
「宮廷薬師の方が引きこもりだろう」
「ごもっともです」
広い薬草菜園の中を歩き回り、二人で無心になって雑草を引き抜いていると、アレク様の目の色が変わる場所があった。
ラルフ様の薬に使うミレンゲ草のエリアである。
このまま放っておいても、アレク様は無心のまま雑草を引き抜いてくれるだろう。とても綺麗な土地になり、薬草もスクスクと育ってくれるはず。
しかし、雑草取りには極意がある。腰を痛めないように、余計な行動を取らないのが鉄則なのだ。
「このタイプの雑草は雑魚です。放っておいても勝手に死にますよ」
「強者みたいな台詞だな」
「何を言っているんですか。薬草菜園を創造した私は、この場において神です。邪悪な組織である雑草には、神の手で裁きを与えなければなりません。これは雑草と神々の戦争なんですよ」
「おい、待て。いま俺まで神に含まなかったか?」
「助手なんですから、当たり前でしょう。さあ、腰を痛めないように気を付けながら、悪に裁きを与えましょう」
「協力はする。だが、そのテンションはどうにかしてくれ」
アレク様のやる気を引き出そうとしていただけなのに、まさか断られてしまうとは。
男の人って、難しい。
「じゃあ、適当に雑草だけ抜いてください」
「急激にテンションを下げるのはやめろ」
「我が儘ですね」
「お前には言われたくない。前から思っていたが、オンとオフとの切り替えが激し過ぎるぞ」
結局、二人でブツブツ話しながら雑草を取り続けると、いつもよりだいぶ早く作業を終えた。
これから二人でやれば、もっと遅くまで寝てもいいんじゃないだろうか、と考えてしまうあたり、私は平常運転である。
一方、アレク様は途中から様子が変で、何か思い悩むようにボーッとすることがあった。
「折り入って頼みがあるんだが、聞いてもらってもいいか?」
「いいですよ。引き受けます」
「いや、まだ何も言っていない」
「構いません。仕事がなければ暇ですし、断る理由がありませんから」
私にとって、アレク様は家族のように繋がりの深い人なのだ。力になれるのなら、手を貸してあげたい。
すでに悩んだ上での頼み事だと思うし、アレク様が私を陥れるような真似をするはずがない。
「そうは言ってもだな……」
「ラルフ様と婚約するためにも、恩を売っておいた方がいいでしょう。グリムガル公爵家が断りにくくなりますので、縁談の話を進めるには有効な手段です。他にもまだ理由を付けた方がいいですか?」
「本当に……いいのか? 後悔しても知らないぞ」
「大丈夫です。何も問題ありません」
前回は私の我が儘で買い出しに付き合ってもらったし、アレク様が頼ってくれることなど、滅多にないだろう。
きっと相談の内容も、ラルフ様に関係することで――。
「わかった。では、明日から始まる騎士団と魔術師団の合同部隊の隊長を任せる。頑張ってくれ」
「……はい?」
唐突に責任重大な任務を言い渡された私は、まったく理解ができなかった。
「……はいー?」
思わず、眉をひそめて二度聞きである。
「すでに引き受けると了承を得たはずだが」
「言いましたっけ? 断る理由しかありませんよ」
「問題ないと言っていたことも記憶している」
「王のいない王国くらいは問題があります。緊急事態のレベルですから」
「もう遅い。後悔しても知らないと言っておいただろ」
先ほどまで顔色をうかがってきたアレク様は、もういない。とんでもない仕事を押し付け、用は済んだ、と言わんばかりに清々しい表情をしている。
普通に考えてそんな頼み事、ある? ううん、絶対ない。あり得ない。
だって、私は下っ端の宮廷薬師ですよ?
なんですか、その合同部隊の隊長って。薬師に求めるのは体調管理であって、合同部隊の隊長を求めないでください。
当然、斜め上の頼み事を事前に了承してしまった私は、必死に泣きつくことしかできなかった。
「お願いします。考え直してください。そんなエグイ頼み事だと思わなかったんです」
「頑なに説明を拒んだのは、お前だろ」
「ごもっともです。ごもっともなんですけどもっ! そんな頼み事あります!?」
「逆ギレするな。貴族なら自分の言葉に責任を持つべきだ」
何とか前言撤回を求めたものの、アレク様が折れてくれることはなかった。
私、ニーナ・ルベットは、人生最大のピンチを迎えようとしていた。
「何の変哲もないこの雑草ですが、恐ろしく生命力が高いです。根を残すことなく引き抜かなければなりません」
雑草は少し見ないだけでも成長してしまうので、週に一度、必ず雑草取りをやっているのだ。
最初は公爵家のアレク様に手伝わせるのは申し訳ないと思い、避けていた。でも、今は違う。
助手なら手伝ってもらうべきだ。そう判断して、共に雑草を引っこ抜いている。
そして、彼にはその才能があった。
「魔法陣に使うインクを作る際、不純物をピンセットで取り除く工程がある。それに比べれば、なんてことはない」
どれほどの修羅場をくぐってきたのか、小さい頃から雑草を取り続けている私は理解した。
ひたすら効率だけを重視し、己の感情をなくす行為、無の境地である。
アレク様はいま、無の境地に突入し、雑草を抜き続けていた。
「魔法の研究で引きこもっていると思っていましたが、なかなかやりますね」
「宮廷薬師の方が引きこもりだろう」
「ごもっともです」
広い薬草菜園の中を歩き回り、二人で無心になって雑草を引き抜いていると、アレク様の目の色が変わる場所があった。
ラルフ様の薬に使うミレンゲ草のエリアである。
このまま放っておいても、アレク様は無心のまま雑草を引き抜いてくれるだろう。とても綺麗な土地になり、薬草もスクスクと育ってくれるはず。
しかし、雑草取りには極意がある。腰を痛めないように、余計な行動を取らないのが鉄則なのだ。
「このタイプの雑草は雑魚です。放っておいても勝手に死にますよ」
「強者みたいな台詞だな」
「何を言っているんですか。薬草菜園を創造した私は、この場において神です。邪悪な組織である雑草には、神の手で裁きを与えなければなりません。これは雑草と神々の戦争なんですよ」
「おい、待て。いま俺まで神に含まなかったか?」
「助手なんですから、当たり前でしょう。さあ、腰を痛めないように気を付けながら、悪に裁きを与えましょう」
「協力はする。だが、そのテンションはどうにかしてくれ」
アレク様のやる気を引き出そうとしていただけなのに、まさか断られてしまうとは。
男の人って、難しい。
「じゃあ、適当に雑草だけ抜いてください」
「急激にテンションを下げるのはやめろ」
「我が儘ですね」
「お前には言われたくない。前から思っていたが、オンとオフとの切り替えが激し過ぎるぞ」
結局、二人でブツブツ話しながら雑草を取り続けると、いつもよりだいぶ早く作業を終えた。
これから二人でやれば、もっと遅くまで寝てもいいんじゃないだろうか、と考えてしまうあたり、私は平常運転である。
一方、アレク様は途中から様子が変で、何か思い悩むようにボーッとすることがあった。
「折り入って頼みがあるんだが、聞いてもらってもいいか?」
「いいですよ。引き受けます」
「いや、まだ何も言っていない」
「構いません。仕事がなければ暇ですし、断る理由がありませんから」
私にとって、アレク様は家族のように繋がりの深い人なのだ。力になれるのなら、手を貸してあげたい。
すでに悩んだ上での頼み事だと思うし、アレク様が私を陥れるような真似をするはずがない。
「そうは言ってもだな……」
「ラルフ様と婚約するためにも、恩を売っておいた方がいいでしょう。グリムガル公爵家が断りにくくなりますので、縁談の話を進めるには有効な手段です。他にもまだ理由を付けた方がいいですか?」
「本当に……いいのか? 後悔しても知らないぞ」
「大丈夫です。何も問題ありません」
前回は私の我が儘で買い出しに付き合ってもらったし、アレク様が頼ってくれることなど、滅多にないだろう。
きっと相談の内容も、ラルフ様に関係することで――。
「わかった。では、明日から始まる騎士団と魔術師団の合同部隊の隊長を任せる。頑張ってくれ」
「……はい?」
唐突に責任重大な任務を言い渡された私は、まったく理解ができなかった。
「……はいー?」
思わず、眉をひそめて二度聞きである。
「すでに引き受けると了承を得たはずだが」
「言いましたっけ? 断る理由しかありませんよ」
「問題ないと言っていたことも記憶している」
「王のいない王国くらいは問題があります。緊急事態のレベルですから」
「もう遅い。後悔しても知らないと言っておいただろ」
先ほどまで顔色をうかがってきたアレク様は、もういない。とんでもない仕事を押し付け、用は済んだ、と言わんばかりに清々しい表情をしている。
普通に考えてそんな頼み事、ある? ううん、絶対ない。あり得ない。
だって、私は下っ端の宮廷薬師ですよ?
なんですか、その合同部隊の隊長って。薬師に求めるのは体調管理であって、合同部隊の隊長を求めないでください。
当然、斜め上の頼み事を事前に了承してしまった私は、必死に泣きつくことしかできなかった。
「お願いします。考え直してください。そんなエグイ頼み事だと思わなかったんです」
「頑なに説明を拒んだのは、お前だろ」
「ごもっともです。ごもっともなんですけどもっ! そんな頼み事あります!?」
「逆ギレするな。貴族なら自分の言葉に責任を持つべきだ」
何とか前言撤回を求めたものの、アレク様が折れてくれることはなかった。
私、ニーナ・ルベットは、人生最大のピンチを迎えようとしていた。
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