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第33話
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一年に一度の大きなパーティー『建国祭』に出席する羽目になった私は、セレス様のご厚意でおめかしさせられていた。
岩盤浴で毒素を落とし、エステで全身を揉みくちゃにされて、美容院で髪の毛を整えてもらう。
途中で様子を見に来たセレス様は「やっぱりね!」と言っていたが、こっちはサッパリである。
友達が手伝ってくれる領域を超えていると思うのは、私だけだろうか。豪華な昼食まで用意してくれるなんて……好き。
お金は取られないので、存分に楽しもうと思い始めるあたり、私は現金な女だと自覚した。
そのまま夜まで身を委ね続けた私は今、王城の一室でメイドさんたちのお世話になっている。
目を閉じているだけで勝手にメイクをしてくれて、髪も綺麗にまとめていただき、新鮮な薬草のように綺麗な緑色のドレスを着せてもらった。
ヒールの高い純白の靴まで履かせられるが、さすがに履き慣れていなくてバランスを取るのが難しい。でも、私がこんな華やかな服装をするのは、最初で最後だと思うので、記念に履かせていただく。
だって、まるで貴族令嬢みたいなんだもの。いや、貴族令嬢なんだけど。
おめかししてくれたメイドさんたちも、着慣れていない私に疑問を抱いているみたいで、ヒソヒソと話し始めていた。
「王城七不思議の一つとカウントされる薬師の方、だったわよね?」
「え、ええ。顔と名前が一致しない人」
「嘘……。今まで着付けを担当してきた中でも、一番かも」
次々と無言で頷くメイドたちの視線を浴びた私は、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
セレス様の指示を受け、わざわざ着付けをしてくれたのに、一番面倒くさかったと思わせるなんて……。あまりの心地良さに任せきってしまい、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいである。
「あの、本当にありがとうございました。お手数をおかけして、申し訳ないです」
居ても立っても居られなくなり、私はペコペコと頭を下げ、急ぎ足で部屋を後にする。
メイドさんの「綺麗な花が咲いたね……」と気の抜けた声が聞こえたが、何のことかはわからない。
部屋の花瓶には、最初から咲いた花が添えられていたというのに。
***
胃に穴が開きそうな気持ちを抑え、パーティー会場にやってくると、とんでもない数の人がいた。
テーブルには立食用の料理が置かれていて、見渡す限りは人、人、人。同じ空間にいるだけで胸焼けしそうになるほど、大勢の貴族がパーティーを楽しんでいる。
帰りたい……。こんな大勢の人に見られながら国王様に挨拶しなければならないなんて、地獄以外の何ものでもない。
全力で気配を消したら、私の功績も忘れられるんじゃないだろうか……などと迷走していると、トレイに飲み物を乗せた執事さんが歩いてきた。
「お嬢様。お飲み物はどうされますか?」
「えっ? 私? あっ、えーっと……」
「こちらがアルコールの入った赤ワインで、こちらが葡萄ジュースになっております」
「じゃ、じゃあ、赤ワインで」
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます……」
どうしよう、お嬢様扱いされた。
いや、それよりどうして影の薄い私に声をかけることができたんだろうか。大勢の人がいる夜となれば、存在感が限りなく薄くなるはずなのに。
赤ワインの方が高そうだと思って選んじゃうあたり、思っている以上に私は冷静で、平常運転だが。
ボーッと立っていると迷惑になりそうなので、赤ワインをグイッと飲みほした後、ひとまず人が少なそうな場所に避難する。
まずは国王様の居場所を突き止めて、早く挨拶だけ済ませなければならない。いつでもパーティー会場から撤退できるようにしておかないと、ダンスタイムに巻き込まれてしまう。
一度も踊ったことのないダンスタイムになったら、恥をかくだけ。そもそも、パーティーのマナーすら曖昧なのだ。
まあ、影の薄い私がドレスを着ただけで、殿方にダンスを誘われることはないだろう。
綺麗なドレスに身を包んだところで、私は野に咲く雑草にすぎない。影に隠れる雑草が着飾っても、誰も見向きはしな――。
「君みたいな素敵な人に出会えるなんて、今日はとても素晴らしい日だよ」
そんなことを思っていた矢先だった。明らかに酔って顔が赤い中年男性に声をかけられてしまう。
今年でバツ五を迎えた伯爵家の当主、ロイド・ブルームス様だ。
いつも怒鳴り散らしてくる私の患者さん……いや、もう患者さんではないか。城下町の薬師に診てもらうと離れていった人なのだから。
パーティーでは会いたくなかったな、と思っているのも束の間、持っていたグラスを見せてきた彼は、どや顔を決めていた。
「あ、これが目に入っちゃった? 俺、酒に強いんだよね」
などと言い、平然とした表情でクイッと喉に流し込む。
酒が強いことをカッコイイと誤解しているのだろうか。薬師としては、目の前で患者が体を痛めつけているようなものなので、とても印象が悪い。
私の患者データを脳内から引っ張り出すと、この男性には酒をやめるように三回ほど警告した記憶がある。
症状が悪化し続けていたのも、本人が酒に溺れた影響で間違いない。
「酒に酔わない分、君みたいな可愛い子に酔っちゃうんだよね」
間違いなく自分に酔ってますね。あ、こっちに近寄って来なくても大丈夫です。
「もっと体を労わった方がいいと思いますよ」
「俺のこと、心配してくれるんだ? 嬉しいな」
「いえ、仕事上の会話です。個人的な感情はありません」
「君って、そうやって照れちゃうタイプなんだね。かーわいい」
いや、ポジティブ! 嫌悪感を出しているはずなのに、照れているように見られるとは!
「不思議だね。君とは初めて会った気がしないんだ」
毎月顔を合わせてましたからね。なんだったら、数日前にお会いしています。また拡大解釈して誤解されそうなので、余計なことは言いませんが。
でも、このまま付きまとわれるのは怖い。どうにもセレス様のドレスパワーで印象が変わり、存在感が強くなっているみたいだ。宮廷薬師だと名乗ったところで、絶対に信じてもらえないだろう。
近くにアレク様もセレス様もいないから助けを求められないし、大きな声を出してパーティーを壊すわけにはいかない。
近くに見えるメイドさんに押し付けるわけにもいかないから……、少し遠いけど、飲み物を運ぶ執事さんに助けを求めよう。
「この後、一緒に踊らないか?」
「いえ、けっこうです。踊れないので」
「じゃあ、ちょうどいいよ。俺は教えるのがうまいんだ。すぐに上達するからね。先にダンスの予習をしておこうか」
酔っぱらいに手をつかまれそうになり、反射的に手を引くと、慣れないヒールでバランスを崩してしまう。
自分ではどうしようもなく、そのまま後ろに倒れると、ドンッと誰かにぶつかった。運良く支えてくれた人がいたのだ。
「あのっ、ごめんなさ……」
「薬師の仕事も大変だな」
パッとぶつかった人を見上げると、そこにはアレク様の姿があった。
まだ体調が悪そうな顔色をしていると思いつつも、助けを求められる人が来て、安堵する気持ちの方が強い。
「へえ、君は薬師だったんだ。どうりで俺の体を心配してくれていたわけだよ。君みたいな薬師が面倒を診てくれるのなら、毎週でも通いたくなっちゃうね」
まだ酔っ払いが変なことを言ってるけど、これ以上は関わる必要がない。ひとまず、アレク様の後ろに隠れて、様子をうかがうことにした。
高貴な人を盾にする作戦である。
「薬師の忠告も聞かずに、酒を浴びるように飲んでいるとはな。酒に溺れる貴族ほど、情けないものはない」
私の言いたいことをアレク様が代弁してくれると、酔っぱらいがイラッとした表情でガンを飛ばしてくる。どうやら目の前の男性がアレク様だと気づかないほど、酒が回っているみたいだ。
「あ? うるせえぞ! いったいどこのどいつだ? 俺は野郎と話す趣味なんて……」
二人の目が重なりあった瞬間、酔っぱらいはすぐに間抜け面に変わる。
目を高速でパチパチパチパチッと瞬きする姿は、それはもう……酒に飲まれてやってしまったという感じが前面に出ていた。
運が悪いのは、自分で大きな声を出したため、周囲の視線を集めてしまい、軽い事件へと発展していることだ。
「建国祭でアレク様に喧嘩売るとか、正気の沙汰じゃないぞ」
「国が誇る魔術師の女に手を出すなんて最低ね。……あれ? アレク様って婚約してたっけ?」
「そもそもどこの家の女性だ? まったく見覚えがないな」
やはりセレス様に借りたお嬢様ドレスのパワーで、私の影薄い属性が消失しているみたいだ。酔っ払い騒動よりも目立ってしまうなんて……このドレス、存在感がスゴイッ!
とはいえ、今の私はどのように見られているんだろうか。見渡す限りは私の患者なんだけど、誰も正体に気づいてくれている人はない。
アレク様はすぐに気づいてくれたのに。
「いや、あの、サーセン。自分、ちょっと酔っちゃったみたいっす。はは、サーセン」
尋常じゃないほどの冷や汗を流した酔っ払いは、冷静ではいられないみたいで、物凄い勢いで平謝りしていた。
「サーセン。本当にサーセン。自分、お邪魔みたいっすね。失礼しゃーす」
ピューッ! という効果音が聞こえてきそうな勢いで退散するが、会場には大勢の人がいるので、色々な人にぶつかっている。どうしても早く逃げ出したいらしく、至るところで「サーセン」と平謝りしていた。
たぶん、ああいう人は後日呼び出されるだろう。
……あっ、魔術師団として警備していたセレス様が取り押さえた。「あんたのためじゃないのよ!!」と怒っているので、これはもう、ご愁傷様としか言いようがない。
アレク様とセレス様という二人の公爵家に目をつけられたら、今後の貴族人生は寂しいものになりそうだ。
「で、いつまで俺で隠れるつもりだ?」
「あっ、いえ。あの、ありがとうございました」
酔っ払いという危険が去ったため、ゆっくりとアレク様から離れる。それと同時に、私は気づいてしまう。
アレク様の温かい背中から離れたくない。
もしかしたら、この気持ちを……人は恋と呼ぶかもしれない、と。
岩盤浴で毒素を落とし、エステで全身を揉みくちゃにされて、美容院で髪の毛を整えてもらう。
途中で様子を見に来たセレス様は「やっぱりね!」と言っていたが、こっちはサッパリである。
友達が手伝ってくれる領域を超えていると思うのは、私だけだろうか。豪華な昼食まで用意してくれるなんて……好き。
お金は取られないので、存分に楽しもうと思い始めるあたり、私は現金な女だと自覚した。
そのまま夜まで身を委ね続けた私は今、王城の一室でメイドさんたちのお世話になっている。
目を閉じているだけで勝手にメイクをしてくれて、髪も綺麗にまとめていただき、新鮮な薬草のように綺麗な緑色のドレスを着せてもらった。
ヒールの高い純白の靴まで履かせられるが、さすがに履き慣れていなくてバランスを取るのが難しい。でも、私がこんな華やかな服装をするのは、最初で最後だと思うので、記念に履かせていただく。
だって、まるで貴族令嬢みたいなんだもの。いや、貴族令嬢なんだけど。
おめかししてくれたメイドさんたちも、着慣れていない私に疑問を抱いているみたいで、ヒソヒソと話し始めていた。
「王城七不思議の一つとカウントされる薬師の方、だったわよね?」
「え、ええ。顔と名前が一致しない人」
「嘘……。今まで着付けを担当してきた中でも、一番かも」
次々と無言で頷くメイドたちの視線を浴びた私は、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
セレス様の指示を受け、わざわざ着付けをしてくれたのに、一番面倒くさかったと思わせるなんて……。あまりの心地良さに任せきってしまい、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいである。
「あの、本当にありがとうございました。お手数をおかけして、申し訳ないです」
居ても立っても居られなくなり、私はペコペコと頭を下げ、急ぎ足で部屋を後にする。
メイドさんの「綺麗な花が咲いたね……」と気の抜けた声が聞こえたが、何のことかはわからない。
部屋の花瓶には、最初から咲いた花が添えられていたというのに。
***
胃に穴が開きそうな気持ちを抑え、パーティー会場にやってくると、とんでもない数の人がいた。
テーブルには立食用の料理が置かれていて、見渡す限りは人、人、人。同じ空間にいるだけで胸焼けしそうになるほど、大勢の貴族がパーティーを楽しんでいる。
帰りたい……。こんな大勢の人に見られながら国王様に挨拶しなければならないなんて、地獄以外の何ものでもない。
全力で気配を消したら、私の功績も忘れられるんじゃないだろうか……などと迷走していると、トレイに飲み物を乗せた執事さんが歩いてきた。
「お嬢様。お飲み物はどうされますか?」
「えっ? 私? あっ、えーっと……」
「こちらがアルコールの入った赤ワインで、こちらが葡萄ジュースになっております」
「じゃ、じゃあ、赤ワインで」
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます……」
どうしよう、お嬢様扱いされた。
いや、それよりどうして影の薄い私に声をかけることができたんだろうか。大勢の人がいる夜となれば、存在感が限りなく薄くなるはずなのに。
赤ワインの方が高そうだと思って選んじゃうあたり、思っている以上に私は冷静で、平常運転だが。
ボーッと立っていると迷惑になりそうなので、赤ワインをグイッと飲みほした後、ひとまず人が少なそうな場所に避難する。
まずは国王様の居場所を突き止めて、早く挨拶だけ済ませなければならない。いつでもパーティー会場から撤退できるようにしておかないと、ダンスタイムに巻き込まれてしまう。
一度も踊ったことのないダンスタイムになったら、恥をかくだけ。そもそも、パーティーのマナーすら曖昧なのだ。
まあ、影の薄い私がドレスを着ただけで、殿方にダンスを誘われることはないだろう。
綺麗なドレスに身を包んだところで、私は野に咲く雑草にすぎない。影に隠れる雑草が着飾っても、誰も見向きはしな――。
「君みたいな素敵な人に出会えるなんて、今日はとても素晴らしい日だよ」
そんなことを思っていた矢先だった。明らかに酔って顔が赤い中年男性に声をかけられてしまう。
今年でバツ五を迎えた伯爵家の当主、ロイド・ブルームス様だ。
いつも怒鳴り散らしてくる私の患者さん……いや、もう患者さんではないか。城下町の薬師に診てもらうと離れていった人なのだから。
パーティーでは会いたくなかったな、と思っているのも束の間、持っていたグラスを見せてきた彼は、どや顔を決めていた。
「あ、これが目に入っちゃった? 俺、酒に強いんだよね」
などと言い、平然とした表情でクイッと喉に流し込む。
酒が強いことをカッコイイと誤解しているのだろうか。薬師としては、目の前で患者が体を痛めつけているようなものなので、とても印象が悪い。
私の患者データを脳内から引っ張り出すと、この男性には酒をやめるように三回ほど警告した記憶がある。
症状が悪化し続けていたのも、本人が酒に溺れた影響で間違いない。
「酒に酔わない分、君みたいな可愛い子に酔っちゃうんだよね」
間違いなく自分に酔ってますね。あ、こっちに近寄って来なくても大丈夫です。
「もっと体を労わった方がいいと思いますよ」
「俺のこと、心配してくれるんだ? 嬉しいな」
「いえ、仕事上の会話です。個人的な感情はありません」
「君って、そうやって照れちゃうタイプなんだね。かーわいい」
いや、ポジティブ! 嫌悪感を出しているはずなのに、照れているように見られるとは!
「不思議だね。君とは初めて会った気がしないんだ」
毎月顔を合わせてましたからね。なんだったら、数日前にお会いしています。また拡大解釈して誤解されそうなので、余計なことは言いませんが。
でも、このまま付きまとわれるのは怖い。どうにもセレス様のドレスパワーで印象が変わり、存在感が強くなっているみたいだ。宮廷薬師だと名乗ったところで、絶対に信じてもらえないだろう。
近くにアレク様もセレス様もいないから助けを求められないし、大きな声を出してパーティーを壊すわけにはいかない。
近くに見えるメイドさんに押し付けるわけにもいかないから……、少し遠いけど、飲み物を運ぶ執事さんに助けを求めよう。
「この後、一緒に踊らないか?」
「いえ、けっこうです。踊れないので」
「じゃあ、ちょうどいいよ。俺は教えるのがうまいんだ。すぐに上達するからね。先にダンスの予習をしておこうか」
酔っぱらいに手をつかまれそうになり、反射的に手を引くと、慣れないヒールでバランスを崩してしまう。
自分ではどうしようもなく、そのまま後ろに倒れると、ドンッと誰かにぶつかった。運良く支えてくれた人がいたのだ。
「あのっ、ごめんなさ……」
「薬師の仕事も大変だな」
パッとぶつかった人を見上げると、そこにはアレク様の姿があった。
まだ体調が悪そうな顔色をしていると思いつつも、助けを求められる人が来て、安堵する気持ちの方が強い。
「へえ、君は薬師だったんだ。どうりで俺の体を心配してくれていたわけだよ。君みたいな薬師が面倒を診てくれるのなら、毎週でも通いたくなっちゃうね」
まだ酔っ払いが変なことを言ってるけど、これ以上は関わる必要がない。ひとまず、アレク様の後ろに隠れて、様子をうかがうことにした。
高貴な人を盾にする作戦である。
「薬師の忠告も聞かずに、酒を浴びるように飲んでいるとはな。酒に溺れる貴族ほど、情けないものはない」
私の言いたいことをアレク様が代弁してくれると、酔っぱらいがイラッとした表情でガンを飛ばしてくる。どうやら目の前の男性がアレク様だと気づかないほど、酒が回っているみたいだ。
「あ? うるせえぞ! いったいどこのどいつだ? 俺は野郎と話す趣味なんて……」
二人の目が重なりあった瞬間、酔っぱらいはすぐに間抜け面に変わる。
目を高速でパチパチパチパチッと瞬きする姿は、それはもう……酒に飲まれてやってしまったという感じが前面に出ていた。
運が悪いのは、自分で大きな声を出したため、周囲の視線を集めてしまい、軽い事件へと発展していることだ。
「建国祭でアレク様に喧嘩売るとか、正気の沙汰じゃないぞ」
「国が誇る魔術師の女に手を出すなんて最低ね。……あれ? アレク様って婚約してたっけ?」
「そもそもどこの家の女性だ? まったく見覚えがないな」
やはりセレス様に借りたお嬢様ドレスのパワーで、私の影薄い属性が消失しているみたいだ。酔っ払い騒動よりも目立ってしまうなんて……このドレス、存在感がスゴイッ!
とはいえ、今の私はどのように見られているんだろうか。見渡す限りは私の患者なんだけど、誰も正体に気づいてくれている人はない。
アレク様はすぐに気づいてくれたのに。
「いや、あの、サーセン。自分、ちょっと酔っちゃったみたいっす。はは、サーセン」
尋常じゃないほどの冷や汗を流した酔っ払いは、冷静ではいられないみたいで、物凄い勢いで平謝りしていた。
「サーセン。本当にサーセン。自分、お邪魔みたいっすね。失礼しゃーす」
ピューッ! という効果音が聞こえてきそうな勢いで退散するが、会場には大勢の人がいるので、色々な人にぶつかっている。どうしても早く逃げ出したいらしく、至るところで「サーセン」と平謝りしていた。
たぶん、ああいう人は後日呼び出されるだろう。
……あっ、魔術師団として警備していたセレス様が取り押さえた。「あんたのためじゃないのよ!!」と怒っているので、これはもう、ご愁傷様としか言いようがない。
アレク様とセレス様という二人の公爵家に目をつけられたら、今後の貴族人生は寂しいものになりそうだ。
「で、いつまで俺で隠れるつもりだ?」
「あっ、いえ。あの、ありがとうございました」
酔っ払いという危険が去ったため、ゆっくりとアレク様から離れる。それと同時に、私は気づいてしまう。
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もしかしたら、この気持ちを……人は恋と呼ぶかもしれない、と。
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