タイムトラベル同好会

小松広和

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第4章 熱き逃亡の果てに

第39話 真実の愛

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 俺達のすぐ近くにあるチューブを赤いサイレンを回した車のような丸い物体が通り過ぎていった。
「早くこの場所を離れましょう。追求はその後でしてあげるわ」
胡桃の表情は険しかった。
「わかったわよ」
萌の声はいつもの明るいものではない。

「ここは塔の端よ。すぐ横を交通用のチューブが通ってるわ。このチューブを辿りながら壁に沿って行けばタクシー乗り場に着くはずよ。そこから別の塔に行けるわ。ここはもう警察の手が回っているから少しでも遠くに行きましょう」
萌が歯切れよく言う。

 俺達の横は透明な硝子状の壁になっている。そこからは外の景色が綺麗に見える。そして様々な大きさの塔がチューブで繋がっていた。その中を楕円形の乗り物が行き来しているのだ。
「タクシー乗り場ってどちらに行けばいいんだ?」
「どちらでもいいから進むのよ」
「無闇に走ってもダメだわ」
「間違っててもいいじゃない。私達がいるのは楕円形の建物よ。まっすぐ同じ方向に進むめばいつかはタクシー乗り場に辿り着くはずよ」
萌は冷静だ。言われてみればその通りである。

 俺たちは萌の言う通り走ることにした。道が続く限りどこまでも。
「この看板タクシーよね」
「これって文字の下に丸が書いてあるだけだぞ」
「ここの車は球体よ。ほら、この世界に来てすぐに見たじゃない」
今の萌は凄い。何だか胡桃の存在が霞んで見えるほどだ。

「あったわ!」
胡桃が喜びの声を上げる。
「間違いないわね。チューブの中を移動する球体が人を乗せて走ってるわ」
タクシー乗り場と思しきところには十名ほどの人が並んでいた。一つの球体には四名まで乗れるらしい。俺たちが並んでいる間にもいつ警察が来るかわからない。俺達はドキドキしながら怪しい人物のように辺りをキョロキョロ見てしまった。

 いざ俺たちの番が回ってくると、俺達はいち早くタクシーと思しき球体に乗り込もうとした。しかし、そう簡単にことは進まないものだ。突然警報が鳴り出したのである。
「どういうこと?」
胡桃が叫ぶと、
「おそらく顔認識ね。この塔全体に萌たちの顔が出回っているのよ。指名手配犯としてね」
萌が冷静に答えた。
「とにかくここを離れましょう。すぐに警察が来るわ」
俺たちは萌の指示に従ってこの場を離れることにした。

 しかし、タクシーに乗れないとなると移動する手段が限られてくる。何とかこの塔から移動する方法はないものか。
 俺たちは当てもなく走った。どこに行けばいいのか全く見当が付かない。
「エレベーターね! とにかくエレベーターがある所に行くわよ!」
突然、萌が叫ぶ。
「エレベーターがある場所なんてわかるの?」
「わかるわけないわ。でも探すしかないの。人が集まってそうなところを目指して走るわよ」
もう萌の言葉を信じるしかない。

 俺たちは萌の後について走った。かなり疲れが溜まってきたのか、ふくろはぎが痛い。
「今度は『疲れたからもう走れない』とは言わないのね?」
胡桃が息を切らせながら言った。萌は何も答えず走り続ける。答えたくないのか、はたまた答えられないのか。スピードは結構速い。

「あそこよ!」
萌が指差した方向にはエレベーターらしきものが見える。
「どのエレベーターへ乗ればいいんだ?」
俺は六つあるカラフルなエレベーターに近付いてみた。そこには数字も何も書かれていない、矢印もない綺麗な色の扉が並んでいるだけだ。

「どれでもいいわ。違ってたらまた乗り直せばいいだけよ」
胡桃が言うと、
「ちょっと待って。萌たちの目的地はこの塔以外の場所に行くことよね。出口に行けばいいわけだから下に行けばいいのよ」
「下に行くエレベーターかどうかなんてわからないわよ」
胡桃はやや焦っているのか早口になっている。
「矢印でわかるわ。ほらエレベーターが来たら大きな矢印が出るでしょう」
萌がここでも的確な指示を出す。

 そして、萌がピンクの扉に手を触れる。だが開かない。他のエレベーターも確かめたが、どれも開かなかった。
「どうなってるんだ?」
「たぶん、ここまで手配が廻っているのよ」
萌が残念そうな表情で言った。

 タクシーもダメ、エレベーターもダメ。八方塞がりじゃねえか。一体どうしたらいいんだ?
「とにかくこの場を離れましょう」
久しぶりに胡桃が提案した。
「階段はないのか? 非常階段とかあるんじゃねえのか?」
「エレベーターに乗った時には見なかったわね」
胡桃はそう答えながらも何やら真剣に考えている。もちろん俺も考えているが全く思いつかない。屋上に行けばヘリコプターでもあるのか? もし、あったとしても乗れるわけがないのだが。

 俺は萌を見た。萌は何も言わず周りを見回している。胡桃は腕組みをしてじっと目を瞑っている。俺はというと何もできないまま只困っているだけだ。情けない。この二人を助けることもできないのか。男として女を守れないのは俺の信条に反する。俺にとって最もあってはいけないことなんだ。

 俺は何も考えずに話した。
「とにかくどこかに行こう。何かヒントが見つかるかもしれねえ」
俺の言葉にみんなで当てもなく走った。
 途中警備ロボットを見ては道を変え、警察官らしき人物を見ては逆戻りをした。そして、疲れ切った俺たちが辿り着いた場所は、最初に転送された空き地だった。

「もうダメかもしれないわ」
胡桃が珍しく弱気なことを言う。
「もし、捕まったら私たちどうなるのかな?」
「そんな弱気でどうするのよ胡桃。きっといい方法があるはずよ」
「そうだ。諦めたら試合終了だ。もう一度タクシー乗り場へ行ってみようぜ。もしかしたら歩いて隣の塔へ行くチューブがあるかもしれねえ。」
「そんなチューブは見なかったけど」

「状況を考えて! そんなこと言ってる時じゃないでしょ? 状況が掴めないからあなたは好きな彼一人振り向かせることができないんじゃなくて?」
「何よいきなり」
「私というライバルが出てきたから少しは言えるようになったけど。もし私がいなかったら永遠に今のままじゃなくて?」
「萌、どうしたの?」
「私は絶対に諦めない。だから真歴君は絶対に渡さない。胡桃じゃ真歴君を幸せにはできないから。私が幸せにしてみせる。だから胡桃には渡さない」
萌が初めて俺のことを下の名前で言った。

「萌、あなた焦ってるの?」
「どうして私が焦らなくちゃいけないの? これからもずっと私は真歴君と一緒にいるんだから!」
萌は両手で顔を押さえると大きな声を出して泣き出した。萌の今の心境は俺にはわからない。ただ俺の知らない何か重大なことを知ってるのではないかと思う。だったらなぜ教えてくれないのだ?

「ここで捕まるわけにはいかねえ。行こうぜ。警察の手が届かない所に」
萌と胡桃は小さく頷いた。俺たちは最後の力を振り絞って空き地を離れることにしたその時。

「そこまでだ」
突然男の声がした。
 俺たちが振り向くと、後ろからユリナの家に来た警察官が近付いてくる。
「ご苦労だったなIM21」
男の視線の先は萌に向いていた。
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