知ってるけど言いたくない!

るー

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その19

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定期的に額にキスが落ちてくる様になって、エティは途中からやめてほしいと手で制した。だかその白く柔らかな手のひらに唇はあてられた。


「節操がないわよ」

「こんな山の中で節操も何もないだろ」


眉を寄せて抗議しても、クリフォードは澄ました顔で笑っている。エティが顔を上げるとクリフォードと息がかかるくらいの距離だった。それに気づいてからはエティは上を向かないよう心掛けた。

クリフォードの唇は見た目よりも柔らかい。舌は厚みがあってエティよりも熱く情熱的に動く。

昨夜の記憶がフッと蘇り、エティは身を強張らせた。


「どうした?」

「あ、えっと……ちょっと降りていい?」

「ああ、あまり奥に行くなよ」


クリフォードにふわりと降ろされ、エティが道を外れて森に入ろうとするとレオがそれを止めた。


『エティ、さっきから狼がいる。離れると危ないよ』


さすが動物は勘がいい。本能で感じ取るのだろう。クリフォードの前では言葉で返事ができないため、エティは「大丈夫」と合図をするようにレオの鼻先をポンポンと触った。

荷馬車が通れる程の道から、木々の生い茂る森の中を少し歩くと、レオが教えてくれた狼の姿があった。


「お久しぶり。元気だった?また来てくれたのね」

『ああ、何だ、今回はエティひとりじゃないのか』


尻尾が挨拶代わりにフラフラと揺れた。エティが屈みこんで話しかけると狼は目の前で大人しく座った。この狼はエティの母親の使いで、以前エティがこの森を抜ける時に付き添ってくれた狼だった。その時はエティはまだ動物の言葉はわからなかったが、この狼が一緒で心強かったのを覚えている。


『言葉がわかるようになったんだな。それに子供じゃなくなった』

「それは見た目の事を言ってるの?せっかく来てくれたけどあまり近寄ると、クリフォードに短剣を向けられるかもしれないから気をつけてね。私は大丈夫だから先に帰ってくれてもいいわよ」

『わかった。客人を連れているとリーに伝えておくよ』

「ありがとう」


エティは狼を見送ると来た道を戻った。


『エティから狼の匂いがする。知り合いだったのかい?』


レオが顔を擦り寄せてきたのでエティはヨシヨシと撫でてやった。狼には触れないようにしたのに、近くに寄ったからかレオはすぐに気づいたようだ。エティはにっこり笑って軽く頷いた。

レオから降りてエティを待っていたクリフォードは、ついでに休憩しよう、と近くの木の元に敷物を広げた。ちょうど昼時だ。宿で用意してもらった簡易な食事をとった。


「なぜそんなに離れているんだ。もっとこっちに来い」

「結構です」


エティが冷たく言い放つと、クリフォードは首を傾げた。


「昨夜はあんなに甘えていたのに」

「ちょっと!レオの前で変な事言わないで!それに、あ、甘えてなんかないしっ!」

『……エティ、クリフォード様は剣も見た目もレベル高いけど、ボクとしてはあまりオススメしないな……』

「レオ!違うから!」

「レオに誤魔化す必要ないだろ?どうしてそんなに焦っているんだ?」


オタオタしているエティの側に行くと、クリフォードはエティを自分の膝に乗せた。


「お、降ろして。これじゃあ食べられない」

「俺が食わせてやる。ほら、口開けて」

「そんな恥ずかしい真似できない!自分で食べるからっ」


エティはクリフォードの手からサンドウィッチを奪うと大きな口を開けて食べ始めた。クリフォードはそれを嬉しそうに眺めながら自分も食べ進めた。

エティが本気で嫌がる様子がないためか、レオは暴れる事なく、逆に呆れたように2人を見ていた。
クリフォードがエティに惚れているのは見ればわかる。こんなに甘い人だったんだと、クリフォードの意外な一面を知ってレオは驚いた。


山の中の国境を越え、無事に山を抜けるとポツポツと建物が見え始めた。隣国の街に入ったのだ。


「へぇ、初めて来たが良いところだな。ここからはどの位だ?」

「城の近くだからまだ遠いわ。もう少し街の中に行ったら宿を探さないと」


エティはしどろもどろで付け加えた。


「べ、別々の部屋がいい」


またクリフォードに組み敷かれるかもしれないと予防線を張った。酷いことをされた訳ではないが、恋人同士ではないので別々が当たり前なのだ。

クリフォードは無言で暫く考えた後、ため息混じりに答えた。


「ダメだ。一緒の部屋にする。原因はわからないが姿がガラリと変わったお前が心配だ。目の届く所にいて欲しい」

「いじめ、ないでよ」

「いじめてない。可愛がっただけだ」

「わー!わー!やめて!」


真っ赤な顔でエティが狼狽えるのを、クリフォードは口元を緩めながら見下ろした。


暫くして店が幾つか目立ち始めた所でクリフォードとエティはレオから降りた。歩きながら街中を見て回ることにしたのだ。


エティの生まれ育った国とクリフォードのいた国は、土地や気候に恵まれているお蔭で生活の豊かさは然程変わらない。昔から争いもなく友好な関係だと聞いている。どちらの国も穏やかで明るい性格の人達が多く、抵抗なくどちらの国も往き来できる。実際、エティ達が山の中を進む途中、何台も荷馬車とすれ違っていた。


「どこかで休んでて貰える?私は着替えに必要な服を買ってくる」

「一緒に行く。レオは店の側で邪魔にならないようにしておくから」

「えー……」


エティは不満の声を出したが、クリフォードはエティの手を握って離さなかった。さっきからチラホラいる街の人が、物珍しそうにクリフォードを見ている。どこにいてもその容姿は目立ってしょうがない。

エティは集める視線をクリフォードひとりのせいにしたが、実は半分自分に向けられているのに気づいていなかった。

紫銀の髪はこの国でも珍しく、更に元々顔のパーツが良かったエティは一晩で見違えるほど美しい女性になった。本人は歳をとった、くらいの考えで自分が他人からどう見られているのかなんて微塵も感じていなかった。そんなエティを過保護に扱ってしまうのは仕方ないと思うのはクリフォードだけでなくレオも同じだった。


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