知ってるけど言いたくない!

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その47

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「毒と言っても、またあなたを呪うわけじゃないわ。まだ魔力を十分に発揮できないエティと違ってあたしの魔力は強力なの。だからあなたの中にあるエティの力を、エティ自身に戻す事が簡単にできるわ。でもそれをするとエティの雇い主、あなたの命は消えるわ」


瀕死のエティを助ける方法が一つだけあると切り出したローズに、詳しく話を聞いたクリフォードは何の迷いもなくそうしてくれと頷いた。


「エティの雇い主、最後に手紙でも残す?女がいっぱいいるって聞いたけど」


ローズに軽く言われ、クリフォードは思わず目つきを鋭くさせてしまった。
一体誰からそんなデタラメな話を聞いた?まさかエティがそう思っていてローズに相談でもしたというのか。


「俺にはエティだけだ。確かに、昔は身体の関係だけの女性は多くいた。でも心が動いたのはエティひとりだ」

「最低な男ね」

「……だな。エティにも言われた」


クリフォードは懐かしさに思わず笑みを浮かべた。

「その最低男から頼みがある。最後に一度だけエティの顔が見たい」


ローズは考え込むようにクリフォードから視線を外した。そして不満の表情を浮かべたまま立ち上がり「目を閉じて」とクリフォードの側に立った。ソファーから腰を上げたクリフォードが瞼を下ろした瞬間、ふわりと一瞬だけ浮遊感に襲われた。


「もういいわよ」


目を開けるより先に覚えのある香りが鼻をくすぐり、そこが前に泊まったエティの部屋だとわかった。
クリフォードがゆっくり瞼を開けると目の前にベッドで静かに眠るエティの姿があった。一瞬で自分のいる場所が変わった事よりも、心から求めていたエティに会えた喜びが大きかった。しかしエティは息をしていないのではと思ってしまうほど弱い呼吸で、記憶の中の元気に笑うエティとはかけ離れた弱々しい姿だった。

クリフォードはエティの髪を愛おしそうに撫でると額にそっと唇をあてた。


「エティ、お前を愛している」


優しく微笑みながらそう言うと、エティの顔を頭に焼き付けるかのようにジッと眺めた。




「礼を言う。心残りはあるが思い出に持っていく」


クリフォードはローズにそう言うと無理に笑った。




「そう。じゃあ大事な話があるからこっちに来て」


そう明るく言うとローズはにっこり笑った。

直前までクリフォードを嫌悪していたようなローズの態度が手の平を返したように変わり、クリフォードは思いっきり戸惑った。



「エティを任せられる人物かどうか試させてもらったわ」

エティの部屋を出て、それこそ見覚えあるリビングでローズから今度こそ本当の真実を聞き、クリフォードは情けないと思いながらも涙を浮かべた。
エティは無事だと、ただ疲れて眠っているだけだと聞いて身体中の力が全て抜けてしまったような感覚だった。


「この後エティにお説教するから邪魔しないでよね」


目を覚ましたエティとローズのやり取りを、クリフォードはエティの部屋の外で全て聞いていた。
途中何度も目の前の扉を開け、エティを抱き締めたいと思ったがローズから固く注意を受けていたのもあって必死で堪えた。
同時に、ローズの説教よりハンクの嫌味の説教の方が何十倍もマシだと心から思った。




「姉さんから全部聞いたんでしょう?本当は全て上手く終わったら自分の口から言うつもりだったんだけど……私は半分魔女なの」


まだどこか疲れが見えるような顔でエティは力なく笑った。


「それは俺と一緒になるのに何か問題があるのか?」

「…………ないわ」


瞬きした瞳からまたひとつ涙が溢れた。その涙を指で拭い、瞼にキスをした。その流れで唇にも触れようとした途端、またローズから待ったの声がかかった。


「続きは後にしてもらえる?父さん達帰って来たから」


ローズの背後の扉にアルフォンスとリリアンの姿を見たクリフォードとエティは気まずそうにそうっと離れた。





回復しきれてなかったエティは、もう一度リリアンから癒やしの力で治療され本来の体力に戻った。ローズからのとんでもないお説教があったせいかリリアンとアルフォンスからは、二人に対して何も咎めるような言葉はなかった。ただ一つだけ、リリアンは陰でクリフォードに補足した。


「偶然とはいえ、可愛がってる妹の恋人に自分がかけた呪いがついているのを知って、ローズは色々な意味でとても落ち込んでいたわ。呪われる程の酷い男ならエティには相応しくないと何度も口にしていたから、さぞかし冷たくされたでしょう?」


許してあげてね、と母親リリアンは娘の為にフォローに回った。
許すも何もローズには感謝しかない。そう返すと少し曇っていた顔は、エティに似た優しい笑顔になった。



クリフォードはエティの家族が揃ったその場でアルフォンスに向かってずっと決めていたことを告げた。


「エティを妻として連れて帰ります」

「思ったより早かったな」


アルフォンスはそう言ってフッと笑った。
前回のクリフォードとのやり取りを思い出しているのだろう。


「お決まりの言葉を使うべきでしたか?」

「いや、前回のと今ので十分満足した。後は俺より本人に言ってやれ」

「え、何?何の話?」

急に自分に注がれた視線にエティはあたふたとした。


ローズの店の裏に繋いでおいたレオは、いつの間にかローズがクリフォードの元まで連れ来ていた。恐らく自分を移動させたのと同じ手段だろうとクリフォードは思った。レオだけでなく、ローズはあの夜倒れたエティも同様に運んだのだろう。


「レオ!!聞いたわ、レオがフォードを連れて来てくれたって。なんて賢い子なの!」

レオの首に抱きつくエティにレオは容赦なく擦り寄った。案の定、体重の軽いエティはどんどん後ろに押されていった。


「レオ、嬉しいのはわかるが少し加減しろ」


エティの背中を支えながら、クリフォードは改めてレオを誇りに思った。レオが道を覚えていてくれたからエティの手を取れた。


「エティの恋人。向こうまで送ってあげましょうか?」

「……気持ちだけ頂く。せっかくだからゆっくり帰りたい」


少しレベルアップしたローズからの呼び方に、クリフォードは苦笑いした。どうやらエティの恋人と認識してはもらえたようだが、クリフォードの今の立ち位置は婚約者だ。次に会う時、結婚式だとしても今度は「エティの婚約者」と呼ばれそうだ。



エティの家族と挨拶を済ませ、エティとクリフォードは屋敷へ戻るためレオに乗って出発した。
夕刻時に出たため街の中心部あたりで二人は宿に入る事にした。
場所的に繁盛している宿らしく、手頃な値段の割に広く浴室もついて綺麗な部屋だった。


部屋に入ってすぐにクリフォードはエティを後ろから抱き締めた。


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