ひょんなことから異世界を保安することになりました ーPlayー

塩大福くん

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第一章 4月クレイム

第十三話 鍛錬

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 「なぁ、これからどうすんだよ、ラビット?」
 
 昇るならさっさと階段を昇ってしまおうという考えなのか、一人で先々に行ってしまう笹倉さんがぶっきらぼうに彼女に尋ねる。

 それに反応したラビットは、んー、と口に手を当てながら悩み、上目遣いで愛華を見る。通常の男子なら悩殺されているところだろう。現に優人は多少のダメージを受けたのか目が僅かに泳がせている。
 うーんと悩んでから、数秒後、口角をクイッと上げて、さあねーとしらばっくれた。

 一方、その会話を追いかける駒木さんは長距離にわたる階段を昇っているからだろう。先程からハァハァと息を切らしている。
 まだまだ階段は続きそうですよ、駒木さん。と心の中で呟く。
 
 「あとラビット、何故君はあのとき僕を傷つけたんだ?」

 個人的な質問を投げかけ、ふてくされた目で僕はじろりとラビットを見る。
 赤いメッシュを入れた彼女は階段を昇っているにも関わらず、イヤリングをキラリと光らせながらクルッと振り返って僕の質問に一言、「愚問ね」と目を伏せながら呟いたあとに目を爛々と輝かせながらニッコリと笑った。

 「適当よ適当♡なんとなく、よ♡」

 ニシシッと歯を魅せると、再び前を向き、階段をテクテクと昇っていった。
 その回答に僕は当然ながら納得行かず、ムキになって反論をしたくなったが、ラビットがまともに返すはずもない、と変な納得をしてしまったのでそれはやめておいた。

 彼女は裏の、顔なのだ。彼女は確かに人間とは程遠い動物であるのは間違いない。だがしかし、彼女が行うその一挙手一投足は彩芽に通づるのだ。

 僕が彩芽に対して冷たく接したその態度が引き金となり、こんなことになってしまったとしたら、僕はこれからどんな顔を向け、どんな言葉をかければいいのだろうか。
 ひれ伏してただひたすらに謝ったとしても、やりきれない、やるきれない思いが残るのだろう。

 最悪の場合彩芽は死んでしまったかもしれない。そんなことがあったら僕は、僕は‥


 ーーーーーもう死んでも償いきれない、だろう

 「にしても私の説得はあんなにも聞きやしなかったにすんなりと聞いたねぇ♡」

 ニンマリと笑いながら彼女は、まるで僕の思考が分かったように一人でに話を始める。
 その言葉を聞いた彩芽は何故か茹でダコのようにみるみるうちに顔が赤くなり口をパクパクしながら

 「お、お兄ちゃんはだって家族だもん!」

 と僅かに声を震わせながらラビットの背中をパチッと軽めに叩いた。

 その時、客観的に見てその微笑ましい瞬間は直ぐに終わった。 
 彩芽は顔を真っ青にしてすぐさまふり返り、数秒後、また背中をラビットの背中を何度もペシペシと叩く。

 「あ、ようやく気づいたのかしら♡」
 
 ラビットは何度も叩かれたにも関わらず、にやっと笑って彩芽を見た。

 「ラビットを叩いたら、私もおんなじところが痛くなる‥」
 
 ポツリと呟き、信じられない、という顔でラビットを見つめる。

 「当たり前じゃない♡そもそも私は貴方の多重人格者みたいなもんなんだから痛覚は共有されるわよ♡」 

 「す、すごい‥ほんとにラビットって私の裏の顔なんだ‥」 

 「何よ今更‥貴女ほんとに面白いわね♡」

 くすっと笑い、彩芽を見る。彩芽は面白いと言われたことに理解が出来ず、首を傾げながら階段を昇る。

 階段を長々と昇った先には重厚感のあるカーペットが敷かれた部屋が待ち構えていた。
 部屋の中央に鎮座するのは古ぼけた王座‥などではなく、幾重にも重なる綺羅びやかな日光だった。 
 その上に目を向けると、そこには美しいデザインのステンドグラスが壁にはめられていた。金髪の上に冠をのせて一本のバラを差し出し、ひざまずく王子らしき人物とその目線の先で口を抑えてその姿勢に感激する白色のドレスを着た姫のような人物が描かれている。
 
 綺麗なステンドグラスに目を向けていると、ふと何かの記憶が脳裏によぎった。
 忘れかけている記憶。何か忘れてはいけないような淡い記憶が。


 


 無数の有彩色が取り囲む花畑。目の前にそびえ立つ教会。
 誰かに握られた左手には人の肌の温もりを感じる。
 ふとその先をみるものの、その顔をぼやけていてよく見えない。
 にわかに吹いた柔らかい風が僕たちの身体を包み込む。

 『‥姉、ちゃん‥‥‥‥‥きく‥‥‥‥‥たら、‥と、』

 『‥‥婚‥‥‥‥よう‥!』

 優しい陽の光が僕らを照らす。


 
 一瞬瞬きをすると、まるでふと目が覚めたように今の景色を瞳に映し出した。
 何だ今の景色は‥?見覚えはないが、何故か懐かしい光景のように感じる。

 ‥もしかして、小さい頃の記憶‥?

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
 僕は皆のほうに目を向け、ラビットが話し出すのを待つことにした。

 「さて、と既に私の力は貴方の力になった訳だけど、使いこなすために練習しないとね♡」

 案の定ラビットは話を始め、彩芽にニコリとほほえみかける。
 すると、耳に当てたイヤホンからジジッと音が鳴り、僕たちへのメッセージを予言する。

 『んー、今調べてみたんだけどさ、ラビットの力はどうやら、まあ、簡単に言ったらサイコキネシスみたいな力なんだよねぇ‥結構使いこなすには辛そうかなー』

 木原さんの鈴のような声が耳に届き、僕はその内容に困惑する。
 そんなに使いこなすのは難しいのか、と顔をしかめるが、無理に使えるようにならなくてもいいかと言おうとするが、そんなことを言うわけにもいかず、僕は黙り込んだ。

 「まず手のひらを前に差し出して?」

 ラビットは彩芽の横に立ち、手短に教え始める。

 「そして操りたいもの、手始めにあの机にある万年筆を追い求めるように見つめて」

 ラビットが机の上を指さし、軽くウインクをする。

 「意識を集中させて。その万年筆に自分の意識をすべて注ぎ込んで貴方の手のひらにある感触、実感を想像して」
 
 彼女が横でそっとささやき、フフッと笑う。
 彩芽は必死にやろうとしているようだが、どうにも出来ないようで、むぅ‥と唸る。

 「‥出来ない‥」 

 
 ーーーーー約30分後

 「やった!出来た!」

 暇を持て余した隊員たちが、ラビットからの鬼の特訓を受けさせられているのをよそに、各々別のことをし始めた頃、彩芽の嬉しそうな声が部屋に響く。 
 その中で読書をしていた僕はふと目を向けるとそこには確かに彩芽の手の上で不安定に動く万年筆があった。

 「やったやった!見てみんな!」

 振り返り、僕たちに目を向けるとラビットがしまった!というふうに慌てて口を押さえ、上ずった声を出す。

 「あ、意識外すと万年筆が‥」

 え?と間抜けな声を出した彩芽の意志を裏切り、万年筆は一人でに暴走し始め、その矛先は髪をくくった男子へと‥

 「いっっったぁ‥!」
 
 寝不足により椅子に座り寝ていた優人さんの頭には暴走した万年筆が当たり、彼の目を覚ますきっかけとなった。
 突然のことにびっくりした彼は足元に落ちた万年筆を拾い上げ、慌てて駆けつけた彩芽にポンと渡す。

 「あ、ご、ごめんなさい‥優人さん‥」

 「いや、いいよ‥しょうがないし」

 万年筆を貰った彩芽は頬を緩め、先程の余韻に浸っていた。

 「なんか、感動するなぁ‥」

 ニヤニヤと笑っている彼女にラビットがまだまだね、という師匠のような目を向ける。

 「ま、慣れるとこんなことも出来るわよ♡」

 と言った彼女はふと駒木さんに目線を向け、ニヤリと笑ったかと思うとーーーーー

 「きゃあっ!!!!」

ーーーーー彼女のヒラリとしたスカートを能力を使い、いとも容易くバッと一気にめくりあげたのだった。

 僕は慌てて目を伏せたが、瞬間的だとしても一度見てしまったものはなかなか脳内から消えなかった。
 白いすべすべな足に似つかわしい、細やかなレースがあしらわれた上品で控えめな白色の‥
 ‥いや、変なところに血流が巡っても困る。これは脳内から消し去ろう。

 「‥おい、男子二名。見てないだろうね?」

 愛華がギロリと僕たちを睨み、きつい口調で問いかける。
 その眼光にyesと答えられるはずもなく、僕は全速力で首を横に振った。

 「いや?見てないよ?」

 同じく優人も白々しくnoの言葉を告げる。

 『可愛らしい白色の、だったねー』

 そんな絶妙な空気感をぶち壊すような木原さんの爆弾発言、いやミサイル級発言に場は冷たく固まり、反比例するようにみるみると美緒の顔が赤くなっていく。

 『ちょ、木原さん、後で怒られますよ?!』

 アキの声がイヤホンから響き、だってー、という木原さんの声があとを追う。

 「アイツ、帰ったら即ぶっ潰す‥!!」

 本来ラビットに向けられるべき笹倉さん殺意は何故か木原さんに向くことになったところで優人さんがぼんやりと呟く。

 「アキが止めたのが不幸中の幸いか‥」

 話を遮断するようにラビットが中にはいって割り、まぁまぁと宥める。
 当の本人が何を言うか‥と僕ははぁ、とため息をついた。

 「ま、ともかく私を呼びたかったらまた呼んで、いつでも憑依してあげるから♡」

 「あ、待って!」

 この場をひとまず切り上げようとしたラビットに声をかけた彩芽に全員が視線を向けた。

 「‥?」

 ラビットは不思議そうな目をして彩芽を見つめる。

 「お兄ちゃん達は、先帰ってて!」

 不思議と彩芽のその言葉に逆らう気持ちはせず、僕らは一足先に塔の外で待つことにした。
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