異世界呪われた救世主~異世界召喚されたら呪いで女に。呪った奴はぶっ飛ばす~

陽月純

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第一章 救世主と聖女

第20話 消える洞窟

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 ケイブバットの群れを退治した後、バーグの採掘が終わるまで聖女のパーティとポーラを含めたメンバーでそのまま採掘場に待機していた。再びケイブバットがやって来る可能性もある。さっきみたいな群れになると俺一人じゃ対処出来ないだろう。

 だが、それよりも気になるのはポーラとセレスだ。姉妹だというのにあんなに険悪な雰囲気になるものなのか?

「なあ、あの二人。大丈夫なのか?」

 俺の質問にマリーが答えてくれた。

「あのお二人は以前からあの調子ですから、お気になさらずに。セレスのポーラに対する期待が大きすぎるのですよ。注意はしているのですけどね」
「なるほど。ポーラはその期待に応えられなくて、逆に反抗しているって感じかな?」
「そうですね。ですから、問題はありませんよ」

 ポーラも苦労していたんだな。それなのに俺の面倒も見てくれて有難いことだ。暫く二人の様子を見ながら、周囲を警戒しておくか。

「ポーラ、久しぶりに会ったというのにあなたは全く成長していないようね。あなたの神器、まだその程度のレベルなの?」
「姉さん。放っておいてよ。この辺りだとそんなに強いモンスターなんていないんだからそんなに成長する筈が無いでしょ」
「だったら何でこんな辺境に来たのよ。私の下で成長すれば良かったじゃない」

 ポーラはセレスの言葉に半ば呆れたように答えた。

「何でって、ギルマスに頼まれたからじゃない。こっちの冒険者を鍛えてくれって……。姉さんだって、喜んでいたじゃない。私の成長が認められたんだって」
「それはそうだけど、あなたレベルはどうなのよ?」
「家を出た時と変わらないわ」

 はぁっとセレスは大きなため息をつくとしょうがないといった感じでポーラの肩を叩く。

「何よ。はっきり言って。それじゃあ左遷じゃない。ギルマスに……。父さんに文句言ってあげるわ。そして、こっちに戻すように」
「いいわよ。そんな事しなくたって。神器は……。こっちのモンスターじゃ使うまでも無かったから今までは使ってなかっただけよ。その内きっと成長するわ……」

 セレスはもうポーラの話を聞く気がないようだ。こっちに歩き始めた。そして、どうやら丁度バーグの採掘が終わったようだ。

「アスカさん、待たせたな。今日の分の採掘は終わった。戻ろうか」
「分かった。じゃあ、そういう事で俺は戻るけどいいかな?」

他のメンバーに問い掛けると、しょうがないと皆が頷く。

「ありがとう。じゃあバーグさん、村まで送るよ」

 聖女パーティとポーラも一緒に村へ帰ることになった。あの壁がびくともしないから、これ以上の調査は無理と判断したらしい。俺だけが通れるという事はこのまま黙っていた方が良さそうだな。何か面倒なことになりそうだ。

 皆、黙ったまま例の分かれ道まで戻って来た。あの群れが現れて以降、ケイブバットは現れていない。もう大丈夫だろう。洞窟の入り口に向かって歩き始めた所で、ポーラが口を開く。

「そういえば姉さん、隠し通路は通れたの? その調査に来たのでしょう?」

 ばか! ポーラ。

「ダメだったわ。それでマリーが魔術を使って、さっきの騒ぎよ」
「そう。じゃあ、アスカ、手伝ってあげたら。すぐそこなんだし」

 言ってしまった……。ほら……。皆が俺を見ている……。

「どういう事ですか?」

 マリーが首を傾げるとポーラがすぐに答えてしまった。

「え? だって、隠し通路を通れたのはアスカだけよ」

 あぁ。言っちゃったよ。爆弾発言。ほら、皆の見る目が変わって来た。これは通路に行こうという話になりそうだ。

「アスカさん、少しよろしいでしょうか」

 ほら来た……。

「後でもいいかな。ほら、バーグさんを村に送らないといけないし」
「俺なら心配しなくていいよ。前までは一人でも帰っていたのだし。アスカさん、手伝ってやってくれ」

 バーグさん……。俺は面倒事を避けたかったのに、それを言ったら駄目だよ。

「でも、村まで送るのが仕事だし……」
「大丈夫。依頼は達成とギルドに報告しておくから」

 駄目だ。これはもう聖女パーティと隠し通路に向かっていく方向に流れが来ている。

「バーグさん、ありがとうございます。アスカさん、バーグさんもこう仰ってくれていますので、よろしくお願いします」

 俺は諦めて頷く。

「分かったよ。じゃあ、バーグさん。帰りは本当に気を付けてくれよ」
「ああ。じゃあ、俺はここで」

 バーグが手を上げ、すたすたと洞窟の外へ向かって歩き出した。俺達はくるりと反転すると隠し通路のある道を歩き始めた。

「アスカさん、どうして話してくれなかったんですか?」
「いや、聞かれなかったし……」
「それはあなたが関わっている事なんて知りませんでしたから」

 何か俺が悪いような空気が痛い……。俺から言わなかったのだからまあそうかもしれないが、でも、俺が知っていると話をした時に察してくれてもよかったんじゃないのか……。そして、壁に辿り着いた。俺は壁の前まで歩いていき、壁に手を触れてみる。

「あれ?」
「どうした?」

 壁に触れて不思議がっている俺にビリーが尋ねてきた。おかしい。壁に触れられる・・・・。どういう事だ?

 もう一度試しに壁に手を触れてみる。うん。触れる。隠し通路が消えているとしか思えない。

「アスカ、どうしたの?」

 壁が消えない様子を見て、ポーラも俺に尋ねてきた。

「通れない……」
「は? お前何を言っているんだ。お前だけが通れるって言ったじゃないか」

 セレスが声を荒げて俺に問い詰めてくる。そんなことを言われても、通れないのものはしょうがない。あの宝箱を持って出たからか?ひょっとして……。

「本当に通れないんだ。前は、手を触れようとしたらこの壁が消えて向こうに行けたんだよ」

 通れないという証拠に壁を思いっきり叩きつける。バンっと音を立てて俺の拳が壁を透過出来ない事を証明する。

「あら、本当だわ」

 ポーラが俺の言っている事が本当である事を肯定すると、他の皆も少し納得してくれたのか、顔を見合わせていた。

「どういう事だ?」
「一度限りの特定人物だけが通れる通路?」
「そのような話は聞いた事がありませんね」
「でも、あの子が嘘を言っているようには見えないよ」

 マリー達が会話をしているところに聖女の子が俺を援護するように皆に問いかけた。

「みんな、彼女を信じてみませんか?」

 彼女の言葉に考え込むように皆が悩んでいる間も、俺は壁をペタパタと触り続けていると、カチッと音がする。

「え?」

 別にこれまでと壁の感触は変わらなかった。スイッチが隠れていた? いや違う。もう一度触っても何も変わらない。すると、今度は壁に触れてもいないのに再びカチッと音がする。他の皆も今の音には気が付いたようだ。

「今の音は何?」

 カチッ……。更に音が鳴る。おかしい。あれ以来ここに何度も来たがこんな事は一度も無かった。

「何かおかしいぞ。みんな気を付けろ!」

 すると、マリー達の足元に魔法陣のようなものが現れた。

「な、これは……」
「まずい!」
「ミコ……」

 次の瞬間、マリー、ビリー、セレス、セイラの四人が光に包まれ消えてしまった。

「嘘……」
「今のは転移陣。何で?」

 ポーラには今のが何か分かったようだ。転移陣と言ったか。どこかに転移させられたという事か。再び、カチッと音が鳴る。

 俺達は洞窟の外に向かって走り出した。外に出ると、洞窟から大きな光が溢れてくる。そして、目の前からセテイフの洞窟が消え、そこには荒野と化した大地だけが残っていた。
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