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第二章 魔王と戦争
第63話 暴走する人形
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モーレスを取り込んだ人形がカタカタと震え始めた。これは、人形がモーレスを吸収して動けるようになったという事か?
「成功したのか?」
「待って」
「駄目だったの?」
「だから、待ってってば!」
ミサオの様子がおかしい。何か嫌な予感がする。人形はまだカタカタと震えているばかりだ。ミサオはその震える人形に意識を向けている。
「言う事聞きなさいよ! あんたはあたしの人形でしょう!」
ミサオが人形に怒鳴りつける。人形は益々振動を大きくしていく。
「うん。これ、絶対やばい奴だ。ミコト、ミサオ。そいつから離れろ!」
ミコトは俺の言う通り、人形から距離を取るが、ミサオは人形から離れない。
「この、いい加減に言う事聞けってば!」
ミサオが叫ぶと同時に人形の手が動き、ミサオの服を掴む。
「あ……」
ビリッ! 人形が服を引き千切った。
「こいつ!今日買い直したばかりなのに!」
どうやら人形を動かすだけの怨念パワーは得られたが、それ以上にモーレスの意識が強かったのだろう。要するに、今、ミサオの人形はモーレスが支配しているという事だ。マネキンみたいな人形とは言え、体を手にしたモーレスがやる事と言えば……。
「オンナ……」
ほら、やっぱり。主であるはずのミサオを襲おうと動き始めた。
「失敗よ! まだあいつの意識が残ってる! ちょっと助けなさいよ!」
俺は<アクセルブースト>を使うとオーガファングを装備し、人形を殴りつけた。だが、人形は俺の攻撃に怯む事なく、今度は俺の服を破ろうと手を伸ばして来た。
「おっと」
後ろへ飛び退き手を躱す。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「何よ?」
「あれ、昨日のFDだっけ? あれより硬くないか」
「当たり前でしょ」
何が当たり前なんだ? 開き直ったように言うミサオを俺はジト目で見る。
「何よ。その目は。あれは、あたしの人形の全ての長所を持った完全体だもの。攻撃特化のFD。魔術特化のMD、防御特化のGD。この三体の特性を全て備えたのがあの人形」
つまり、攻撃特化でも硬かった人形が防御特化の防御力を手に入れたからあの硬さという事か。
「<ウォーターアロー>」
ミコトが放った水の矢もピシャッという音が鳴っただけで、全くの無傷。俺達の火力じゃあれにダメージは与えられない。ステータスプレートを確認しても、加護の文字は未だ黒く、それはまだクールタイム中という事だ。
「なら、お前の他の人形を召喚してあれを止めろよ」
「無理よ」
「何でだよ」
「だって、まだあたしは同時に複数の人形を召喚出来ないもん。レベルが上がれば複数同時召喚とか出来るようになるかもしれないけど。今は無理」
使えない。あいつの素早さは<アクセルブースト>を使った俺より少し遅い程度。今はモーレスの意識が暴走しているから、動きが単調で全力で動けないみたいだから何とか凌げているが、このまま暴走されていたら、いつかはこっちのスタミナ切れで捕まってしまう可能性がある。
「あれ、壊しても大丈夫なのか?」
「え? まあ、あたしのスキルに人形の修復スキルがあるから、多少は大丈夫だけど?」
「アスカ。あれ壊せるの?」
ミコトの質問に頷く。
「壊せるというか、ダメージを与えられるという話。<衝波>ならいけるはず」
こっちにじわりじわりと近付いて来る人形。少しずつ動きが良くなっている気がする。
「ミコト。<ホーリーバリア>を」
ミコトは頷くと<ホーリーバリア>を張る。聖なる障壁が人形の侵攻を防ぐ。
「凄い。何このスキル?」
人形は障壁をガンガン叩くが、全くビクともしない。攻撃特化の人形と言っても昨日の攻撃力なら大丈夫と思ったが、予想通りだ。これなら絶対にこの中に居れば、襲われる事は無いだろう。
「ミサオ。俺があいつにダメージを入れるから、怯んだ瞬間に主導権を握るんだ」
「分かったよ。でも、他の人形の時はこんな事無かったから、どうなるか分からないよ」
「何もしないよりは良いだろう?」
「まあね。でも、本当にダメージ入れる事なんて出来るの?」
ふぅっと大きく息を吐くと、右手に<衝波>を放つ為に力を溜める。
「ああ。出来る。だから、頼むぞ」
<ホーリーバリア>の中から飛び出し、人形の横に回り込んだ俺は<衝波>を当てる為に右手を伸ばす。
人形は、俺の攻撃など通用しないと思っているのか、それとも目の前のミサオやミコトを襲う方に集中しているのか、分からないが、俺の攻撃は完全に無視している。
人形がモーレスを取り込んだ場所、胸の中心に右手を当てる。
「ミサオ!」
ミサオに呼び掛けるのと同時に<衝波>を放つ。衝撃波が人形の体を駆け巡り、暫くするとガクンと膝を突き、人形の動きが止まった。
「何なの!? でも、言うこと聞けぇ!」
ミサオが意識を集中し、人形の制御に全力を注ぐ。再び、人形がガクガクと体を震わせる。
そして、三十秒程経っただろうか。人形はカクンと頭を垂れる。
「やったぁ。やったよ!」
「上手くいったのか?」
ミサオが飛び跳ねながら喜んでいる。どうやら人形の制御に成功したみたいだ。ミコトも<ホーリーバリア>を解く。ふぅっと溜め息をついた俺は、ミサオの元に戻った。
「大丈夫か?あいつは?」
「しっかり、人形に取り込んだよ。もう大丈夫」
それを聞いた俺はステータスプレートを確認する。モーレスの呪いは消えていた。
「呪いが消えている。良かった。これでこの村から出られるな」
「本当に? じゃあ、明日には……」
「出発出来るな。バランさんの治療が終われば」
「あなた達、ありがとう! あたしもこれでやっとダンジョン攻略に向かえるよ。じゃあね」
ミサオは制御に成功した人形を光の粒子に戻すと走って行ってしまった。俺達も馬車へと戻り、無事に呪いが解けた事を説明する。バランの治療は、当初は三日掛かるという話だったが、ミコトの<ヒール>のおかげというか、腕自体は戻らないが、この村の治療院で出来る事はもう無いらしい。
夜明けと共にブラッド城へ出発する事となった。翌日、早朝だったが冒険者ギルドにモーレスの問題が解決した事を報告すると、思いっ切り感謝された。依頼という形で受注した訳でもなかったが、お礼にと五千ゴル貰った。
今度ミサオに会ったら半分あげないとな。俺達だけの手柄じゃないからな。それに彼女は異世界からの召喚者。きっとまた会う気がする。
「さぁ、ブラッド城へ向かおう!」
商隊はブラッド城へとゴス村を後にした。
「成功したのか?」
「待って」
「駄目だったの?」
「だから、待ってってば!」
ミサオの様子がおかしい。何か嫌な予感がする。人形はまだカタカタと震えているばかりだ。ミサオはその震える人形に意識を向けている。
「言う事聞きなさいよ! あんたはあたしの人形でしょう!」
ミサオが人形に怒鳴りつける。人形は益々振動を大きくしていく。
「うん。これ、絶対やばい奴だ。ミコト、ミサオ。そいつから離れろ!」
ミコトは俺の言う通り、人形から距離を取るが、ミサオは人形から離れない。
「この、いい加減に言う事聞けってば!」
ミサオが叫ぶと同時に人形の手が動き、ミサオの服を掴む。
「あ……」
ビリッ! 人形が服を引き千切った。
「こいつ!今日買い直したばかりなのに!」
どうやら人形を動かすだけの怨念パワーは得られたが、それ以上にモーレスの意識が強かったのだろう。要するに、今、ミサオの人形はモーレスが支配しているという事だ。マネキンみたいな人形とは言え、体を手にしたモーレスがやる事と言えば……。
「オンナ……」
ほら、やっぱり。主であるはずのミサオを襲おうと動き始めた。
「失敗よ! まだあいつの意識が残ってる! ちょっと助けなさいよ!」
俺は<アクセルブースト>を使うとオーガファングを装備し、人形を殴りつけた。だが、人形は俺の攻撃に怯む事なく、今度は俺の服を破ろうと手を伸ばして来た。
「おっと」
後ろへ飛び退き手を躱す。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「何よ?」
「あれ、昨日のFDだっけ? あれより硬くないか」
「当たり前でしょ」
何が当たり前なんだ? 開き直ったように言うミサオを俺はジト目で見る。
「何よ。その目は。あれは、あたしの人形の全ての長所を持った完全体だもの。攻撃特化のFD。魔術特化のMD、防御特化のGD。この三体の特性を全て備えたのがあの人形」
つまり、攻撃特化でも硬かった人形が防御特化の防御力を手に入れたからあの硬さという事か。
「<ウォーターアロー>」
ミコトが放った水の矢もピシャッという音が鳴っただけで、全くの無傷。俺達の火力じゃあれにダメージは与えられない。ステータスプレートを確認しても、加護の文字は未だ黒く、それはまだクールタイム中という事だ。
「なら、お前の他の人形を召喚してあれを止めろよ」
「無理よ」
「何でだよ」
「だって、まだあたしは同時に複数の人形を召喚出来ないもん。レベルが上がれば複数同時召喚とか出来るようになるかもしれないけど。今は無理」
使えない。あいつの素早さは<アクセルブースト>を使った俺より少し遅い程度。今はモーレスの意識が暴走しているから、動きが単調で全力で動けないみたいだから何とか凌げているが、このまま暴走されていたら、いつかはこっちのスタミナ切れで捕まってしまう可能性がある。
「あれ、壊しても大丈夫なのか?」
「え? まあ、あたしのスキルに人形の修復スキルがあるから、多少は大丈夫だけど?」
「アスカ。あれ壊せるの?」
ミコトの質問に頷く。
「壊せるというか、ダメージを与えられるという話。<衝波>ならいけるはず」
こっちにじわりじわりと近付いて来る人形。少しずつ動きが良くなっている気がする。
「ミコト。<ホーリーバリア>を」
ミコトは頷くと<ホーリーバリア>を張る。聖なる障壁が人形の侵攻を防ぐ。
「凄い。何このスキル?」
人形は障壁をガンガン叩くが、全くビクともしない。攻撃特化の人形と言っても昨日の攻撃力なら大丈夫と思ったが、予想通りだ。これなら絶対にこの中に居れば、襲われる事は無いだろう。
「ミサオ。俺があいつにダメージを入れるから、怯んだ瞬間に主導権を握るんだ」
「分かったよ。でも、他の人形の時はこんな事無かったから、どうなるか分からないよ」
「何もしないよりは良いだろう?」
「まあね。でも、本当にダメージ入れる事なんて出来るの?」
ふぅっと大きく息を吐くと、右手に<衝波>を放つ為に力を溜める。
「ああ。出来る。だから、頼むぞ」
<ホーリーバリア>の中から飛び出し、人形の横に回り込んだ俺は<衝波>を当てる為に右手を伸ばす。
人形は、俺の攻撃など通用しないと思っているのか、それとも目の前のミサオやミコトを襲う方に集中しているのか、分からないが、俺の攻撃は完全に無視している。
人形がモーレスを取り込んだ場所、胸の中心に右手を当てる。
「ミサオ!」
ミサオに呼び掛けるのと同時に<衝波>を放つ。衝撃波が人形の体を駆け巡り、暫くするとガクンと膝を突き、人形の動きが止まった。
「何なの!? でも、言うこと聞けぇ!」
ミサオが意識を集中し、人形の制御に全力を注ぐ。再び、人形がガクガクと体を震わせる。
そして、三十秒程経っただろうか。人形はカクンと頭を垂れる。
「やったぁ。やったよ!」
「上手くいったのか?」
ミサオが飛び跳ねながら喜んでいる。どうやら人形の制御に成功したみたいだ。ミコトも<ホーリーバリア>を解く。ふぅっと溜め息をついた俺は、ミサオの元に戻った。
「大丈夫か?あいつは?」
「しっかり、人形に取り込んだよ。もう大丈夫」
それを聞いた俺はステータスプレートを確認する。モーレスの呪いは消えていた。
「呪いが消えている。良かった。これでこの村から出られるな」
「本当に? じゃあ、明日には……」
「出発出来るな。バランさんの治療が終われば」
「あなた達、ありがとう! あたしもこれでやっとダンジョン攻略に向かえるよ。じゃあね」
ミサオは制御に成功した人形を光の粒子に戻すと走って行ってしまった。俺達も馬車へと戻り、無事に呪いが解けた事を説明する。バランの治療は、当初は三日掛かるという話だったが、ミコトの<ヒール>のおかげというか、腕自体は戻らないが、この村の治療院で出来る事はもう無いらしい。
夜明けと共にブラッド城へ出発する事となった。翌日、早朝だったが冒険者ギルドにモーレスの問題が解決した事を報告すると、思いっ切り感謝された。依頼という形で受注した訳でもなかったが、お礼にと五千ゴル貰った。
今度ミサオに会ったら半分あげないとな。俺達だけの手柄じゃないからな。それに彼女は異世界からの召喚者。きっとまた会う気がする。
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